「お前はこの場所をどのようにして突き止めた?」
サングラスをかけた一人の男性が瓦礫に腰掛けながら酒瓶を手にして呟いた。
「魔武器を専門に取り扱っている店のリスト……」
酒を飲んでいる男とは別に、前に立っている男の声が小さく室内に響いた。2人は一度も出会ったことのない見知らぬ存在、しかし2人が存在するその場所は待ち合わせ場所にしてはとても汚い。壁は崩れ、床にはコンクリート片が散乱している、上の階の床は大穴があいて下から覗ける、だが蝋燭一つしかないこの室内、一寸先は闇でほとんど見えない。
「なるほど、魔武器を取り扱っている店主自体が【影】の能力者だったかもしれないな」
「別に私たち名前も居場所も名乗った覚えないからね、たぶんそうだよ」
暗がりでよくはわからないが、どうやら目の前にいる男以外にも周囲にいるようだ、隠れているわけではないが暗くてまったくわからない。
「そういえば武器を購入する際に血印を押した、血で対象の名前と居場所を知ることができる奴か」
「ガウディー、忠告しておくけど引き込もうなんて思わないでよね、たかが【影】の能力者なんて入団させても足手まといにしかならないんだから」
きつい口調で注意を促す女性、その言葉に対してガウディーと呼ばれるこの男は即座に返事を返した。
「その点はわかっている、今目の前にいる彼を入団させるとしたら全員揃うからな」
彼女は小さくため息をついた、何かに呆れているというか、入団希望でここに来た彼に不満を持っているのか。
「いくら【越】の能力者だとしてもたった14歳よ、まだ年端もいかない子供を入れてどうするつもりなの?」
「人を見た眼で判断するのがライラの悪い癖だ、まだ甘いところがあるかもしれないが経験を積むごとに上達するかもしれないだろ、ヴェインも最初は棒人間の絵しか描けなかったが今ではかなり精巧な絵を描いて挙句【越】の能力を送り込むことができたんだからな」
「全員がそうなるとは限らないじゃない、その子の能力次第では役に立たないかもしれないし、未熟ながら暴走するかもしれないし」
その言葉に少し不満を持ったのか、入団希望でここに来た少年が腰の辺りから折り畳みの小さなナイフを取り出した。仄かに青白く光り輝くその武器を見たガウディーは眉をひそめて少年へと言った。
「それは魔武器かなにかか?」
少年はその言葉に対して少し時間を開けてから答えた。
「魔武器だよ、本当は銃が良かったんだけど根が張りすぎていて手も足も出なかったんだ、だから一番安いこのナイフ……」
少年は暗がりの中、ガウディーへと視線を向ける、彼は口元で笑っているようだった。馬鹿にされていると思った彼がナイフの刃を人差し指と中指ではさんで投げつけようと試みた、しかしガウディーの目の奥を見た少年はそれを断念した。
「俺は何もしていないにも拘らず自分との力量を測れるようだな、ライラと違って食ってかかったりしないから恐らく入団したときのライラよりは腕がたつようだ」
少年は内心褒められているのか貶されているのかわからなかった、少し悩んでしまったが今はどうでもいいことだ。
「ところでどうしてここに入ろうとしたんだ? 【越】の能力者を望んでいるところは五万といる、こんなところに入っても報酬なんて何もないぞ」
入団の希望を聞かれた少年は、恨みのこもった口調で吐き捨てるかのように言った。
「俺が入団したのは妹を探し出すため」
「人探しか……?」
「そう、探し出してぶっ殺してやる……、小さい頃は俺より魔法がうまく使えるからってだけで進学校に通わせてもらっていた、俺はクソみたいな学校に行って【影】の能力者と知られたらみんなから避けられるようになった、挙句の果てにはある日起きてみれば家族総出で俺を置いてどこか引っ越して嫌がった」
一言一言苦虫を噛み潰すように殺意のこもった発言をする。数少ない魔法使いや魔女はどの学校や社会でも必要とされているところが多い、そしてウィザードクラスともなると面接とその腕を見てもらうだけで高収入を得られる仕事に就ける場合が多い、少年の妹がそのいい例のようだ。
「俺は魔法があんまりうまく使えなかったさ、魔力自体はあったみたいで一度だけ魔法科学の授業で教室を一個ふっ飛ばしたよ、8歳のときにね」
「要するにコントロールが上手ではなかったというわけか?」
「そう、だから俺は必死に腕を磨いて妹と同じぐらい魔法のコントロールを出来るようになった、でもある日を境にして、今更になって【影】の能力が出てきやがった。お陰で危険な存在って事で進学校への進路はすべて駄目になった、【影】の能力のおかげで魔の字も失った俺をあざ笑うかのように妹はどんどん実力をあげて学校で一番になりやがった、そして目の前から消えた」
魔法では説明がつかないことをやってのける者たちの事を畏怖の念をこめて【影】の能力者と呼ばれ続けている、彼らは大抵の武器や凶器にも魔力を送り込んで強さを倍増させたり、中には魔法とは比べ物にならないほどの回復能力を持つ者が確認されている。使い方によっては非常に便利ではあるが過去の者たちはその能力を認めようとはせず、差別する視線で彼らを忌み嫌っていた。
「魔力と【影】の能力を最大限に発揮できた者にだけ開花する才能が【越】だとは思いもよらなかった、使えなくなった魔法を自力で覚えようと独学で学んできた、その結果俺は【越】の力を得たってわけさ、何の苦労もなく過ごしてきた妹を俺は憎らしくて仕方がない、妹を見つけ出して殺した後は両親もぶっ殺す予定だ」
「男の嫉妬って醜いものね」
その言葉が逆鱗に触れたのか、少年は持っていたナイフをライラの声がする方向へと力をこめて投げつけた、風と強化の力を込めた一握りのナイフは壁に大穴をあけて外へと飛んで行った。
「当たったら危ないじゃない……」
壁がなくなったことにより月明かりが外から差し込んできた、冷たい一陣の風が少年の頬を撫でるように吹きぬけた、少年の手には先ほどの投げたナイフが握りしめられている。
「お前、名前はなんて言うんだ?」
ガウディーが酒瓶を床に置き、肘の上で手を組みながらささやくように聞いてきた。
「メリッサ、俺の親も女みたいな名前つけたもんだ……」
名乗った後の台詞は、吐き捨てるかの如く、彼は舌打ちをした。
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