「…今のあなたは自分だけの逃げる世界を作っているわよね?どうしてそれを作ることになったの?」
…彼女からの質問は的をえすぎて僕は…僕の心臓が固まった。 手足がゆっくりと冷えていくのがわかる…。
瞬間的に彼女を怖いと感じた。
それは暗闇の中を導こうとする薄明かりのような怖さ…。 僕は、自分の言葉を精一杯探した。そして彼女に言う。
「僕には…好きな人がいたんだ。そして、僕は彼女を失ってしまった。 でもそれが逃げ道を作る本当の原因なのか…僕には分からない。」
それを返すだけで僕は大変な労力を使ってしまった。 突然眠気が襲ってくる。でも、僕の心がそれを許しはしなかった。彼女からの返信はこうだった。
「それだけでは私もわからない、 あなたに助言をしようなんて気はないから…その彼女のことを話して。」
その言葉に自分が操られているのがわかった。 でも僕の頭はそれを理解できない。だから彼女の言った言葉に素直に反応してしまう。
きっと彼女は心の中で笑っているはずだ。なんて簡単な子なの…と。 僕は、彼女に言われるがままに話をし出した。
「確かではない…けど、 ずっと一緒に生きてきたかのようにその子と一緒にいると安心できた、 その子と僕はいつの間にか男と女になっていて… どちらが最初に恋をしたのかなんてわからないくらい、普通の日常の中で僕らは動いていた。」
ここまで一気に話して僕は話をやめた。
それは彼女が本当に聞いているのかを確かめたかったから…。 僕が話をやめても彼女は返信をしてこようとはしなかった。
それでも僕が初め彼女に気づいたときのように画面の向こうから寝息ではない呼吸が確かに感じられた‥。 だから僕は安心して話を続けようとした。そうすると彼女から返信が来た。
「私はあなたに何も言う権利なんてないけれど、 あなたの話はずっと聞いている、だから止まらないで…感じたことを書き記していって。」
そういわれて僕の心から緊張という糸が音を立てて切れた。
僕は今までたまっていた全てを吐き出すかのように話し始めた。
「日常の中で過ごしてきた僕たちには終わりなんてないと思っていた、 僕がどこに行こうとその子はここにいて、 その子がどこかに行ってるときは僕がここにいるのだと本当に信じていた、 僕だけじゃない、その子だってそう思っていると僕は信じ込んでいた…、 だから僕は誰よりも自由な気がした、他の人が持っていない安心感を僕はもう持っている、 だから誰よりも自由で安心していられるのだと思い込んでいた、 その子も僕に対して何も言わなかった、 僕らが一緒に過ごす時間がちょっとずつ少なくなっているのも気付いているのに その子は何も言わなかった、だから僕はもっと勘違いをしたんだ… その子は僕の全てを受け入れてくれていつまでも僕を待っていてくれるつもりなんだ…!と…。」
僕は夢中でコンピューターに向かっていることを初めて知った。 僕が起きてからもう1時間以上たっている。外は明るくなり始め、人が起き始めているような気配を感じた。
それでもハルは画面の向こうで待っていてくれる気がした。
急いでコーヒーを入れた。 ブラックコーヒーよりもシュガーを入れたコーヒーにする。 自分が何をしているのかを冷静に判断できるように…。僕はまたコンピューターに向かう。
僕がした過ちを彼女に聞いて欲しくて…。
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