僕が僕でなくなった瞬間、僕は違う世界にとばされたんだ。 誰もいない…。冷たくてどうしようもない世界…。日が照っていても何も感じることができない。
僕はどうしてしまったんだろう?
全てが刺激で、全てが楽しくて…彼女だけが僕の全てだったのに。今の僕には何もない。
どうしてしまったんだろう?
その答えを持つものなんて僕しかいない。なのに僕は何も思い出せない。
…彼女って誰だっけ?
僕の全て?
僕を動かしていた者は「彼女」なのか?
それさえもわからない。 自分が言った言葉さえどんどん消えていく。日が射している方向を見てみた。あまりに眩しくて僕はめまいを起こしてしまった。 地に倒れ込んだ瞬間何かを思いだした。
そうだ…これは僕が作り出した世界なのだ。
常識なんて通用しない。いや、通用させない。 僕だけが生きていける、僕だけの逃げ道。
そう思いだした瞬間僕は元の世界に戻っていった。
目が覚める。
視界はぼやけて最悪だ。それでも外の明るさくらい判別できた。 午前5時…冬の朝は訪れるのがとても遅い…。それでも目が覚めてしまった僕は何かをしないといけないような気がして音楽をかけた。
そしてコンピューターを開いた。 コンピューターは年中無休の24時間営業だ。 いつも誰かがいて、いつも誰かが誰かを待っている。そんな空間が僕は大好きだった。 だから僕は暇さえあれば知らない同士の会話に参加していた。
午前5時ともなれば…まして休日の午前5時となればそんなにろくな奴はいない。 僕みたいに自分の世界から追い出されたからってすぐにコンピューターに向かう奴もそうそうはいない。
コンピューターの住人は本当に少なかった。
昼間に見た奴だってコンピューターを開きながら寝ているのか…何もかかないまま息をしていた。そんなところには用事はない。 どうせ寝ているのだから会話をしようとするだけ無駄だと思った。
他の部屋を見てみる…女と男がバカみたいな会話をしていた。そんなところにも用事はない。
そんな奴らは消えてしまえばいいのにと真剣に思う。
そしてひとつの部屋にたどり着いた。最初の部屋の奴のように何もかかれてはいない。 けれど起きていることが何となくわかった。「ハル」と書かれた名前は寝息ではなく呼吸をしていた。
そして僕は話しかけたんだ。
「どうしてこんな時間に起きているの?」
と…返事はすぐには来なかった。 「ハル」が驚いていることは僕にも理解できた。 自分が起きているのかさえわからない画面の向こうから知らない奴がそんな質問をしたら逃げるのが普通だ。
でもハルは普通じゃなかった。
「…君は…なんで起こされたの?私は…想い出から追い出されてしまって一人になりたくなかったの。」
そんな返事を返してきたハルが何かを抱えていると思うのは普通のことのように思えた。だから返したんだ。
「僕も…想い出から…いや、夢と言うのかな?追い出されたんだ、だから落ち着かなくて、ここに来た。」
それからの返事はさっきより更に待たされた。 それでもこの世の中に僕一人が自分から追い出されたのではないと知ると…僕は安心してしまった。そしてハルからの返信はこうだった。
「きっと…あなたも一人でいられないのよ、きっと淋しくて怖かったのね…私で良ければ全て聞くわ…、私はあなたが話しかけてくれただけで救われたのだから。」
その言葉が妙に気にかかった。
彼女はいったい今何をしていたのだろうか…? 追い出した彼女の思いではあまりに大きい存在過ぎて彼女は潰されてしまう寸前だったのではないだろうか? だから僕は彼女が起きていると思ったのではないのか…死んでしまいそうな者の呼吸は生きている者の誰よりも力強い者だから…。そして返信をした。
「僕が君を救った?本当にそうなのかな?僕は君に引き寄せられただけだよ。」
画面の向こうで彼女が笑っているような気がした。 …口の上手い子ね…と。返信はすぐに来た。まだ日が昇りそうな気配さえない。
「そうなの…私もあなたが来るからここに来てしまったのかも知れない、私達はきっと出逢う運命だったのね…。」
そう彼女が言ったとき、僕は変な感覚に陥った。
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