この部屋に住みついて初めてわかったことがある。 つまりなんだな、この築45年のさくら荘を根城としたのは俺だけではなかったということだった。 ふいーんふーんと耳うるさく飛び回る蚊や、南国でもないくせに布団に入るたびちくちくと俺を食らう南京虫、果ては湿気の粒と一緒に天井から俺めがけてときおりダイブをかますヤモリの夫婦など、すべてがすべて俺の創作意欲をいっとき減退させるのが得意な輩ばかり。いっそのこと家賃の折半をお願いしたいくらいだが、いかんせん揃いも揃って皆々様はヒト科ヒト属H.sapiensにはあらしゃらないときたもんだ。 「いつか見てろよ、コラ」 日々あっちからこっちへの一方的な友情を育んでいるらしい、夫のヤモリにガンを飛ばす。
雨続きの空気に板が伸びたのか、今日はギターの音も湿っぽい。 窓辺に食いかけの飯を置いて(冷えるのでちょうどよい)、俺は弦を弾いた瞬間の、指先に伝わる空気の振動をひとつひとつ確かめながら、昨日見た夢の中の旋律を白い紙に書き落としていく。 コーヒーカップに立てたスプーンが、からんとカップの縁を滑り落ちた。
■画像投稿SNS「pixiv」 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=1529126 川野様作品「クラシック」よりイメージ。
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