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作品名:【 10分修行 】 作者:吉田萌梨

第6回   006- 聖域
 人々の祈りの集合体――遠目に見つけたのは、数個の赤いガラスランプ。火を灯されたそれらは、銃痕だらけの壁際に小さな祭壇を形成していた。つまりは尊い命が失われた証、この前で何人の人が泣いたことだろう。
 自然と前かがみになり、追悼の祈りをささげるために、縁無し帽を脱いでひざまずいた。
 そうやって頭を垂れて数分。みじろぎすべきでないと思う気分が抜けきったのを見計らうと、僕はゆるゆると頭を上げながらガラスランプをとおして見える壁の銃痕を数え、砂のついたシャワールカミースの裾を払いはじめる。頭や首に降り注ぐ陽光の熱さに堪えられなくなったのだ。
 数え切れないのを承知で、1、2、3、と黒い穴を見つけては視線を壁へのぼらせていく。暑さにのぼせてはいない。なぜなら、一見冷静なようで、実は頭の芯は相変わらず混乱しているから。――カシムはどこだ。
 そのときだった。
「――どこからいらしたの?」
 はっきり顔を上げると、そこにはぽっかりとあいたガラスのない窓がひとつ。目が合うと、陽に焼けていない、白い顔がにっこり微笑んだ。「こんにちは。あなたはどこから来たの?」
 ブルカのようでブルカではない白いスカーフが、陽光を照り返して輝いていた。この国特有の眉の濃い、けれど人好きのする優しい面立ちだった。
 不覚にも涙が出そうになった。
 この廃墟で、まだ生きている人がいたのだ。 




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 たかやひなた様作品「どこからいらしたの?」よりイメージ。


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