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作品名:【 10分修行 】 作者:吉田萌梨

第5回   005- 離脱
「不思議だよな」
 スペースブレーンの眼下に広がる、成層圏に朝日の映える姿を見て、俺の目は自然に細まっていく。
「何がだ?」
「さっきまで空港で缶コーヒー飲んでた俺らが、たった2分でここまで来れちゃうってこと」
「なんだ」と同僚のスワルツコフ。「あと3分もすれば熱圏も突破して、あっという間に宇宙空間へ放り込まれる。そこが俺たちの職場だ」
「わかってる」言われて俺は、前かがみになっていた姿勢を正した。
 青い空に白い月がぽっかりと浮かぶといった文学的な表現は、絶対的にここにはふさわしくない。地球人という生物の持つ宇宙についての概念で言い換えれば、昨日豊田と歩いて見たあの景色は、放射線だらけの空間に漂う天体というだけのことだ。
 さらば国境なき地表。次のミッションは足かけ3年。再び地面へ戻った頃には、地元も友人たちも様変わりしていることだろう。
「……ここって、近そうで遠いんだよな」
「おいシバタ、ちゃんと身辺整理してきたんだろうな?」
 窓を見据えたままの俺に、同僚が声をかける。
 昨日豊田と別れた後、やっぱり気になって携帯へ電話してみた。しかし、豊田は出なかった。俺にはわかっていた。出れなかったのではなく、出てはくれなかったのだ。
 しかし、理由のない確証が大丈夫だと自分を励ます。豊田とのあれは、決別では絶対にないと。
「もちろんさ、どこを叩いてもきれいさっぱりだよ」
 機体が熱圏と外気圏の境目に差しかかると、極方向にグリーンのオーロラが見えてとれた。いよいよ地球の重力圏内を突破する瞬間。
 ――いつかこの青い風景を、アイツに見せてやりたい。
 手に握っていた携帯カメラのシャッターを押した。髪を揺らして地表を闊歩する友人のために。
 腰から下がふわりと軽くなった。待ちに待った重力からの離脱。気分の高揚と共に、俺の手を握り締める力が徐々に抜けていき、喉がごろごろ鳴り始めた。




■画像投稿SNS「pixiv」
 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=1694735
 だいじん様作品「far away」よりイメージ。


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