「不思議だよな」 スペースブレーンの眼下に広がる、成層圏に朝日の映える姿を見て、俺の目は自然に細まっていく。 「何がだ?」 「さっきまで空港で缶コーヒー飲んでた俺らが、たった2分でここまで来れちゃうってこと」 「なんだ」と同僚のスワルツコフ。「あと3分もすれば熱圏も突破して、あっという間に宇宙空間へ放り込まれる。そこが俺たちの職場だ」 「わかってる」言われて俺は、前かがみになっていた姿勢を正した。 青い空に白い月がぽっかりと浮かぶといった文学的な表現は、絶対的にここにはふさわしくない。地球人という生物の持つ宇宙についての概念で言い換えれば、昨日豊田と歩いて見たあの景色は、放射線だらけの空間に漂う天体というだけのことだ。 さらば国境なき地表。次のミッションは足かけ3年。再び地面へ戻った頃には、地元も友人たちも様変わりしていることだろう。 「……ここって、近そうで遠いんだよな」 「おいシバタ、ちゃんと身辺整理してきたんだろうな?」 窓を見据えたままの俺に、同僚が声をかける。 昨日豊田と別れた後、やっぱり気になって携帯へ電話してみた。しかし、豊田は出なかった。俺にはわかっていた。出れなかったのではなく、出てはくれなかったのだ。 しかし、理由のない確証が大丈夫だと自分を励ます。豊田とのあれは、決別では絶対にないと。 「もちろんさ、どこを叩いてもきれいさっぱりだよ」 機体が熱圏と外気圏の境目に差しかかると、極方向にグリーンのオーロラが見えてとれた。いよいよ地球の重力圏内を突破する瞬間。 ――いつかこの青い風景を、アイツに見せてやりたい。 手に握っていた携帯カメラのシャッターを押した。髪を揺らして地表を闊歩する友人のために。 腰から下がふわりと軽くなった。待ちに待った重力からの離脱。気分の高揚と共に、俺の手を握り締める力が徐々に抜けていき、喉がごろごろ鳴り始めた。
■画像投稿SNS「pixiv」 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=1694735 だいじん様作品「far away」よりイメージ。
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