あれからどれぐらい走ったことだろう。息切れで喉が痛い。 気が付くと、僕は建物を背にして、足元をすくわれた気分で立っていた。 なぜなら、目の前には、既視感をおぼえる緑の姿。 「16才とは羨ましい。若いのは何より大事なことだ」 ――あの絵の中の女性だ。 そう気が付いた僕を知ってか知らずか、緑青をふいたような色彩を身にまとった彼女はそう言うと、ひとつ舌なめずりをした。 「ほらごらん、一度だけさ」黒い瞳がちらりと動く。「ただし見るからには空気が動く。生酔いしない程度に」 彼女の握った左手がわずかずつ開いていった。 後ろには壁。否やの選択権は僕にはない。 息を吸った。頭を傾け、おそるおそる覗き込む。すると指の隙間から見え隠れしていた赤い文字は、瞬間黄緑の炎を吹き上げ、見る間に手のひらの中央に集束していった。 そのときだった。 とん、となにかに背中を押された。前髪が前面に流れる。前面の視界が暗く広がった。 あ、と僕は声をあげた。 信じられないことに、凛と立つ貴婦人の、手のひらの黒々とした穴へ、僕は吸い込まれていったのだ。
■画像投稿SNS「pixiv」 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=1756187 依樣 様作品「婦人~~」よりイメージ。
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