20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:【 10分修行 】 作者:吉田萌梨

第2回   002- 御使い
 それは、イージィが生まれるよりもはるか昔から常に天にあって、一本の糸で地上と結ばれているものだ。

「イージィ、引っ張っちゃいなさいよ」そう言うとやや強引な親友は、黒く濡れた鼻をひこめかす。「そうでないと、雨がきそうだから」
「そんなこと言われても」困ったというように、赤毛の少女。すでに本人の毛がついてしまったスコーンを半分に割って、足元に座っている茶色の犬に渡した。
「ダメよ、多分」空になった手をはたいて。「だって怖いもの」
 スコーンを受け取ったジェーンは、落ちそうなそれを一度咥えなおしたものの、行儀悪くがつがつと頬張るようなことはしなかった。きょろきょろと辺りを見回し、しかし諦めたように足元に置く。地面への直置きが嫌なのだった。溜息をついた。
「まったくあなたはいつまでたっても臆病者なんだから。私がヒトだったら、ためらいなくやっちゃうのにね」

 天空に浮かぶ、蝉の抜け殻。その尾の部分から垂らされた銀の糸は、夕日の反射を受けて鈍褐色に輝いている。
 両親に手を引かれた幼いイージィが初めてこの街にやってきたとき、街は豊かで活気に溢れていた。
 しかしその両親も今は亡く、街も年老いてくたびれ果てている。
 変わっていないのは、あの天に浮かぶ不思議と銀の糸だけだ。
 ジェーンがイージィの赤い上着を引っ張った。「ほら、早く!」
「ジェーン、そそのかさないで!」イージィが慌てる。「いけないことだって言われてる!」

 と、その時、不意にそれは起こった。
「ああほら、早くしないから」ジェーンが尻尾を下に降ろした。「御使いが来ちゃったじゃないの」
 雲の透けるほどに美しい褐色の尾尻から、青黒いざわめきが降って来る。

 夕暮れの侵食を背に受けた、千も万もの鳥であった。





■画像投稿SNS「pixiv」
 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=1746331
 平沢下戸様作品「バードランド」よりイメージ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 1293