次の日の夕方、授業が終わった頃、メールが入った。圭一からだった。 『今、図書室に居るんだ。もし良かったら会いたいと思って』 佑美は、急いで図書室に向かった。駆けながら佑美は、幸せを感じた。待っていてくれる人がいるって幸せなことなんだと思った。 図書室に着くと、静かに圭一を探した。窓際の席に腰掛け、何か真剣に読んでいた圭一を見つけ、佑美は、そっと近づいた。 「こんにちは」 小さな声で圭一に囁くと、びくっとして顔を上げ、佑美を認めると、笑顔で、 「あ、来てくれたんだ」 と嬉しそうに見つめた。 「うん、お邪魔して良い?」 「いいよ。でも、此処では話せないし、出ようか?」 「ううん、いいよ。私宿題するから」 そう言いながら鞄の中からノートを出した。圭一は、それを見て納得し、また本を読み始めた。静かな時間、二人は一緒にいられるだけで幸せだった。 一時間ほどして、佑美は、宿題をほとんど済ませ、軽く伸びをした。 「終わったの?」 圭一が、優しく囁いた。 「うん、圭一さんは?もう用事は済んだの?」 「うん、僕も終わったよ。そろそろ帰ろうか」 周りを見渡すと、ほとんどの学生の姿が無くなっていた。圭一は、本を片付けてくると、佑美の手を取って歩き始めた。あんまり自然だったので佑美も自然と手を繋ぐことが出来た。 「自転車を取ってくる。待っていて」 そう言われ、はっとした佑美は、和宏の顔が浮かんだ。 「門のところで待ってる」 そう言い、駆けだした。和宏に見つかったらきっと、何か言われる。どうしてそう思うのか解らないけど、何となく反対されそうな気がした。 門のところで待っていると圭一が自転車でやってきた。 「どうしたの?」 佑美は、どう説明したらいいのか迷っていた。 「僕と居たら困るの?」 佑美は、困ってしまった。 「兄が同じ大学にいるの。兄にばれたら怒られそうな気がしたの。何となくだけど」 「そうなんだ。僕のことまだ紹介できないよね。あ、いや、反対されて付き合うって嫌だから」 圭一の言葉が、佑美の心の中で響いた。付き合って居るんだよね。佑美は胸が熱くなった。 「お兄さんの学部は何?」 「理工学部だったと思う。今は院に通っているの。東棟の四階なんです」 「あ、僕とはちょっと違う。良かったかな」 圭一は、苦笑いを浮かべた。 「兄は、優しいんだけど、今、両親が一緒に住んでないから父に私のこと頼まれてるんで、いろいろと。でもね、私は、兄が大好きだから兄とけんかとかしたくないの」 「うん、解った。じゃあ、公園まで送っていくよ。それなら大丈夫でしょう?」 佑美は、頷いた。 海の見える公園は、今までと違う景色を佑美に見せてくれた。いつも悲しみの中でしか見た事なかった涙ににじんだ景色は、今は、はっきり色鮮やかな景色に変わった。楽しいと景色まで違って見えるんだな。佑美は、ぼんやり眺めていた。 「僕は、ずっと関東の都市部に住んでいたんだ。僕が住んでいたところは、海が見えなかったから、この景色は、新鮮な物に感じられるよ」 「圭一さんは、ずっと関東だったの?」 「うん、父と母は、この町の出身なんだって。僕ね、お兄さんが居たらしいんだ。あんまりよく解らないけどね。父は、母と結婚する前に違う女性と結婚していてその人が子供を産んですぐ亡くなったんだって。子供は、父が育てようと思ったらしいんだけど、色々大変で養子に出したらしいんだ。それからは、暫く一人で居たらしいんだけど、今の母と知り合って結婚したんだって。でも、時々、二人が話している会話を聞いていたら、ずっと前から知っているよようで、それも前の奥さんとも知り合いみたいで。でも、僕には知られたくないみたい。父も母も幸せなんだよ。だから、僕は、その幸せを壊すようなことをしちゃ行けないみたいなんだ。僕は、あの二人のような楽しい家庭を作りたいな」 圭一は、佑美を見つめた。佑美は、この人に愛されていると感じた。 「ずっと一緒に居られたらいいね」 「うん」 佑美は、素直に頷いた。そうずっと、居られたらどんなに幸せだろう。佑美は、自分の未来の姿を思い浮かべて、微笑んだ。きっと、側には圭一がずっと居てくれるに違いない。
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