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作品名:海の見える公園にて 作者:さらら

第4回   4
食事が終わり、その後、佑美と和宏は他の学生と別れて、家路に向かった。途中で食材の買い物をしながら帰った。いつものことである。二人で時間があれば買い物をしたりいつもの二人にとって当たり前の行動なのだ。佑美は、いつまでこんな風に歩けるんだろうと思った。和宏もまた、いつまで歩いてくれるんだろうと密かに思っていた。
 二人で自転車を押しながら坂を上がった。途中、海に向かって公園があった。
「佑美、少し休もうよ」
 そう言いながら公園に入っていった。ベンチがありベンチの向こうには、柵があり、柵の向こうには、太平洋が広がっていた。船も何艘も浮かんで見えた。海がきらきら光り、眩しくて目を細めた。
「きれいだね」
 和宏は、目を細めながら言った。和宏は、ふと悲しみが押し寄せてきた。この公園で一度だけ泣いたことがあった。声を殺して。あれは、いつだっただろう。
「私ね、よくおかあさんとこの公園に来たのよ。お買い物の帰りに。よくね、おかあさん、お兄ちゃんが生まれた頃の話とか、私が生まれた頃の話をしてくれた。でも、その後ね、いつも悲しそうな顔をするの。どうしてかは解らないけど。あのね、お兄ちゃん。今、あの時のお母さんと同じような顔をしてる」
 佑美は、和宏を見上げ、寂しい瞳で見つめた。
「僕、寂しい顔をしてる?変だなあ」
 和宏は、わざと陽気に答えた。僕は、佑美の前では、笑顔で居たい。佑美が僕が悲しい顔をしているのを見て悲しむ姿を見たくないから。だから、佑美の前では悲しい顔をしては行けない。ずっと、佑美の側にいたいから。佑美の側にいられるだけで僕は幸せなんだから。
 佑美は、和宏がどうしてそんなに悲しい顔をするのか解らなかった。そんな顔をすると悲しくなる。不安になる。やはり血のつながりがないのではないか。だから、和宏の悲しみが解らないのではないかと。でも、兄妹として育った以上、これ以上の関係には成れないのだ。それに、和宏は、兄妹としての距離を保っている。上手く説明できないが。和宏は、常に佑美に気を遣い、優しさを注いでいた。それは、兄としての優しさであった。だから、これ以上の関係になれない。常にそれは感じることであった。二人の間に何か見えない厚い壁がある。和宏からは愛情が注ぎ込まれ、佑美はその愛情に守られている。だが、佑美から愛情を注ごうとしてもその壁が邪魔をして、気持ちが伝わらないのだ。だが、和宏とずっといたい。その為にはこの壁も受け入れなければならないのだ。
 佑美は、ふと、父の顔を思い出した。父もこの公園で悲しい顔を見せたことがあった。あれは、和宏が大学に行かないと話した次の日だった。佑美は、父と二人でこの公園まで歩いて来て、二人でぼんやり海を眺めていた。父は、ふと、眼下に広がる町並みを見、ある一点を見つめ、ため息をついた。そして、悲しい笑顔を見せた。佑美は、あまりに辛そうな笑顔をするので声を掛けられなくなり、かなり長い間、そこに佇んでいた。どのくらい父はじっと立っていたか。我に返り、いつもの優しい笑顔に戻り、あの悲しい笑顔は消え失せ、
「帰ろうか」
そう優しく言い、家路に向かったのだ。この公園には、みんなの悲しみが詰まっているのだろうか。いったい父は何を見つめていたのだろう。佑美は、知るよしもなかった。

 


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