佑美は、友人たちに、どうしたのと聴かれたが、適当にごまかしていた。実は、恋人が出来た話は、誰にもしていなかった。結婚の話が出たとき、結婚するまで内緒にしておこうと思っていた。だから、圭一のことは誰も知らなかった。そんな中にいるのは、今の佑美にとっては救いだった。哀れみの言葉も聞かないし、普段と変わらず、時間が流れているようであった。 「ねえ佑美ちゃん、今日、一緒に帰らない?」 クラスメートの吉田みどりが声をかけてきた。 「ごめんね、お兄ちゃんが、待ってるから」 「そうかぁ。一度会ってみたいな、佑美ちゃんのお兄ちゃんに」 「今度ね」 今日は、一緒に行くほど佑美の気持ちが落ち着いていなかった。一時間の授業でも辛かったのだから。 みどりと別れて、佑美は、兄のいる教室に向かった。教室は、相変わらず、何人かの学生がいた。 「あ、佑美ちゃん、久しぶり」 よく見かける学生が声をかけてきた。 「こんにちは」 此処の学生も、圭一のことは知らないのだ。少しほっとする。でも、空しさもある。圭一との思い出話をする相手がいないのだ。いくら悲しくても寂しくても圭一のことを忘れない。 「佑美」 和宏が、駆け寄ってきた。 「大丈夫だったか?」 「うん」 言葉少なに佑美は、答える。 「佑美、もう少し待てる?」 「うん、でも、一人で帰るよ」 和宏の顔色がさっと変わった。 「駄目だ・・あ、ごめん、一緒に帰ろう」 「うん」 佑美には、和宏が気を遣っているのがよくわかった。いつまでも甘えていてはいけないことも解っている。何だか悲しくなる。頑張ろうと思ったのに何だか頑張れない自分がいる。佑美は、学生たちが忙しそうに作業をしている姿をぼんやり見ていた。 「はい、佑美ちゃん」 雅之が、気を遣い、コーヒーを持ってきてくれた。 「ごめんね、作業が遅れてて」 申し訳なさそうに雅之が話した。 「いえ、大丈夫です」 もしかしたら私が悪いのかもしれないと佑美は、感じていた。みんなを困らせていた。私は、自分のことしか考えていないのかもしれない。少し、目が覚めたような気がする。大人にならなきゃと思う。 結局帰り着いたのは、八時だった。佑美は、その間宿題を始めていて、時間をもてあますこともなかった。集中もしたので、悲しみを意識の外にやることも出来た。ただ、宿題が終わったあと、ふと、いつもは側に圭一がいたことを思い出した。いつも一緒に勉強していたのだ。本当は、忙しかっただろうに、小説も書きたかったに違いないのに、私がいたから仕事が進まなかったのではと、なんでそんなに悲しくなるようなことばかり考えてしまうのだろう。 帰りは、雅之も一緒に帰った。重たいバイクを最初は押していたが、途中からゆっくり運転しながら帰った。 「佑美ちゃん乗る」 って聞かれたが、佑美は、丁寧に断った。圭一以外の男性とバイクに乗ることに抵抗を感じたのだ。もう圭一はいないのに。この生活にいつになったら慣れるのだろうか。 次の日、佑美は、和宏と学校に出かけた。昨日ほど事故現場を通っても吐き気はなかったが、やはり辛いものはあった。昨日と同じように花がおいてある場所で手を合わせ学校に出かけた。和宏も同じように手を合わせていた。 その日、授業が終わると、昨日と同じように和宏の教室に向かった。朝、別れるときに何度も念押しされ、和宏と待ち合わせをすることになったのだ。 昨日ほどの、忙しさはなく、六時頃には帰ることが出来た。 「お兄ちゃん、行きたいところがあるの」 校門を出るまでに佑美は、和宏にそう告げた。 「どこ?」 「お花を買いに行きたい。圭君が亡くなった場所に花を供えたいから」 「うん、わかった」 和宏は、快く返事してくれた。 花屋に立ち寄り、あまり派手ではない、でも、お供えするような花ではないものを選び、事故現場に供えた。もうすっかり暗くなりよくわからなかったが、佑美には都合が良かった。しばらく手を合わせ、圭一と話をした。ちゃんと学校に行ってるよ、ちゃんと、食べてるよ、もう冬が来るよ、圭君がいなくて寂しいと話した。圭一の声は聞こえなかった。 佑美は、自分の声は、届いているのだろうかとふと思った。届いていたら嬉しいのに。そして、また、寂しくなった。 一週間ほど和宏と学校の行き帰りを共にしたが、佑美は、もう大丈夫だからと一人で行動した。一人になりたいと思った。煩わしいとかではなくて、ぼんやりする時間がほしかった。いつも公園に立ち寄り、暗くなっていく海を眺めた。
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