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作品名:海の見える公園にて 作者:さらら

第26回   26
 佑美は、夢を見ていた。圭一といつもの公園できれいな夕日を見て、感動している悲しい夢だった。目を開けると、涙が流れた。楽しい夢なのに悲しいなんておかしい。佑美は、暫く天井を見つめていた。起きあがりベットに腰掛けていた。佑美の部屋の窓からは、いつも公園から見ていた海が見える
『こんな素敵な景色なんだから、嫌なことがあったときだけ来るのはもったいないよ。楽しいことがあったときにも来てあげないと』 圭一の言葉を思い出す。あの日からあの公園は、楽しい場所になったのだ。でも、もう、私には楽しい事なんて無い。もう圭一の居ない世界で何が楽しい事があるというのだ。佑美は、また、溢れる涙を拭いた。悲しいというかこの辛さに耐えられないと感じた。私がいけない子だったのだろうか。だから、こんな辛い思いをしなきゃいけないの。私はただ、圭一を好きになっただけなのに。それの何処がいけなかったの。早いうちに結婚を決めたから?門限を破ったから?いつも、圭君の部屋に行っていたから?神様の怒りは何処にあったのだろうか。
「圭君に会いたい」
 そう言葉に出すと、堪らなくなり佑美は泣いた。声を出して泣いた。どうして会えないの。どうして。こんなに好きなのに。はっと、我に返った。本当に死んだの。だって、私は、圭君の遺体を見ていない。もしかしたら、本当はまだ生きていてみんなが内緒にしていて、いえ、嘘を付いていて。きっと、マンションで待ってるのかも。私を待っているのかも。
 そう思うと止められなかった。佑美は、着替え始めた。思い切りおしゃれした。だって、久しぶりに圭君に会うのに。圭君は、似合うって言ってくれるかな。ほとんど化粧なんかしないけど、リップをそっと塗った。
 階段を下りていった。父も母もいる。兄もいる。
「佑美?」
「どうしたの?」
 みんなが何か言っている。
「ちょっと、出掛けてくるね」
 私は最高の笑顔でみんなに答えた。だって、今から恋人に会いに行くんだもん。最高に幸せな時間なんだから。
「何処に行くの?」
 和宏が、心配そうな顔をする。どうしてそんな顔をするの?大丈夫よ、門限までには帰るわよ。
「圭君のマンションに行ってくるね」
 ちょっと照れながら答える私。だって、恋人の部屋に行くなんて、何だか恥ずかしい気分じゃない。そのまま、玄関に歩いていった。「やめろ」
 和宏が止める。背中から抱きしめて行かせないようにする。どうしてそんな事するの?あ、お兄ちゃんは、圭君が嫌いなの。とっても素敵な人よ。お兄ちゃんももっとゆっくり話したら解るのに。
「お兄ちゃん、離して。だって、圭君がマンションで待ってるのに」
「佑美、もう、圭一君は居ないんだ」
 居ないって、マンション引き払っておうちに帰ったの?だって、二人で住もうって決めたマンションなのに、どうして一人で決めたの、圭君。
「おうちにいるの?」
 佑美は、笑顔で聞いた。和宏は、佑美を抱きしめたまま、
「部屋に帰ろう。ね、まだ、本調子じゃないから。もう少し休もう」
 和宏が泣いてる。佑美は、それが不思議だった。どうして泣いてるの。なにも悲しいことなんか無いのに。何がそんなに悲しいの。教えてよ。
「佑美、部屋に行こう」
 和宏は涙も拭かず、佑美に優しく話しかける。どうして?
「お願いだ、佑美。もう少し寝よう」
 だって、圭君が、待ってる。
「行くの」
「お願いだ、佑美、止めてくれ」
 和宏は、泣きながら訴える。
 どうしてそんなに泣いてるの。どうして私が出掛けるのがそんなに悲しいの?私には、解らない。お父さんとお母さんは呆然として私を見ている。私は、そのままその場所に座り込んでいた。圭君の笑顔が見える。血まみれの圭君も見える。ブルーの手術着を着た先生の顔も見える。先生が、何か言っている。解らない、先生が言っている意味がわからないの。誰か教えて。
「いやぁぁぁ」
 母親が泣き始め、父親は、戸惑っている。佑美は、ぼんやりその光景を見ていた。
 気が付くと、ベットの上だった。佑美は、側にいる和宏を見ながら、これが現実なのか夢なのか理解できずにいた。
「佑美」
 和宏の辛そうな表情は、佑美には耐えられなかった。何が言いたいの、お兄ちゃん。お願い、何も言わないで。だって・・・
「佑美、ゆっくり休もうよ。今は、休養が必要だよ」
 佑美は、和宏の持っていた安定剤を飲まされ、そのまま深い眠りについた。 
 和宏は、涙が止まらなかった。僕には、どうしたらいいのか解らないのだ。佑美、ごめんよ、何も出来なくて。和宏は、佑美のベットのそばに腰掛け、涙も拭かず、座っていた。
 佑美は、夢を見た。圭一といつものように門で待ち合わせした。
「ねえ、圭君、今日は、何作ろうか?」
「佑美ちゃんの得意料理は?」
 佑美は、少し考え、
「ホワイトシチューかな。でも、上手にホワイトソースが出来ないときもあるの。そのときはごめんね」
 圭一は、笑いながら、
「最初にそう言われたら仕方ないね。いいよ、今日、食べたいね」
「じゃあ、決まり。圭君、手伝ってくれる?」
「うん」
 圭一は、嬉しそうにうなずいた。長い夢を見たような気がした。とても悲しい夢を。目が覚めたとき、涙が流れていた。どうして圭一に会えないの。みんなどうして会わせてくれないの。そんなに酷いの、怪我が。もしかしたら、絶対安静で面会謝絶なのかもしれない。いや違う。何かが違う。
 佑美は、何か考えようとすると頭痛がして、考えられなかった。佑美は、頭痛を逃れるために、圭一のことだけを考えた。そう、明日病院に行って確かめたらいい。面会謝絶でも。お父様やお母様に会えるかもしれない。会って、辛いけど圭君の様子を聴いたらいいのだ。そう思うと何だか安心して眠ることが出来た。
 次の朝、よく眠っている佑美を見て、和宏は、
「佑美もよく寝てるから、僕学校に行くよ。母さん、何かあったら電話して」
 和宏は、母を安心させるため、笑顔で出掛けていった。佑美は、昨日の薬が効いているのだろうか。ずっと、眠らせているわけに行かない。和宏としてはどうすべきなのかまだ、解らずにいた。両親の戸惑いは痛いほど解る。坂道を降りながら和宏は、悩んでいた。
 事故現場の公園前に着いた。誰かが置いたのであろう。沢山の花が置かれていた。圭一は時の人だった。新人小説家で大々的に売り出したところだったのに。これからという人物だったのに。事故後のニュースやワイドショーで連日取り上げられている。それを知っているため、あまりテレビをつけないようにしている。僕が間違っていたのだろうか。佑美にきちんと圭一の亡骸を見せなかったことが、今でも悔やまれる。
「ごめんよ、佑美」
 和宏は、供えられた花を見て、つぶやいた。
 教室にはいると、雅之がいた。
「おはよう」
 雅之は、和宏を認めるといつものように声をかけ、コーヒーをかかえてきた。
「どうだ、佑美ちゃんは?」
 和宏はコーヒーを一口のみ、
「落ち着かない」
「そうか」
 それ以上、雅之は、何も言わなかった。
 佑美は、明るい日差しの中で目を覚ました。ぼんやり天井を見つめながら、何か夢を見たようだった。だが、覚えていなかった。ただ、凄く悲しい夢だった。佑美は、起きあがり、ふと、昨日考えたことを思い出した。そうだ、病院に行こうと思ったのだ。圭君に会えなくてもいい、圭君のご両親に会おうと思ったのだ。


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