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作品名:海の見える公園にて 作者:さらら

第25回   25
いつの間にか和宏は、佑美のベットにうつぶせになり眠ってしまった。和宏は、夢を見た。あの海の見える公園で佑美と夕日を見ていた。佑美は笑っている。その笑顔を見て、僕は何故か涙が止まらないのだ。佑美が無理して笑っていると感じた。ふと、誰かが頭を撫でる。和宏は、ゆっくり目を開けた。
「佑美」
 佑美が、和宏の髪を撫でていた。
「お兄ちゃん、ありがとう。ずっと居てくれたんだね。私、長い夢を見てた。夢なんだよね」
「佑美」
 和宏は、何も言えなかった。佑美は、部屋を見渡し、ある一点に目がとまった。
「夢じゃないんだね」
 佑美の瞳に涙が溢れてきた。止めどもなく。和宏は、佑美をそっと抱きしめた。佑美は、声を出し、泣いた。涙がかれるまで泣きたかった。でも、涙は枯れず、ただ、空しさだけが残った。
 どのくらい泣いたのだろう。それでも、和宏は、ずっと、佑美を抱きしめていた。
「お兄ちゃん、私はどうしたらいいのかな」
 佑美は、目が離せない一点を見つめながら聞いた。そこには、圭一が描いた佑美の絵が置かれていた。佑美は、血まみれの圭一を思い出した。あんなに血が出たら痛いよね。死んじゃうよね。病院に運ばれ、お兄ちゃんが輸血の血を提供したのに、どうして駄目だったの。圭君にはもう会えないの。そう思うと、佑美は、涙が溢れてくる。
「圭君には、もう会えないのよね」
 和宏は、佑美に何も言ってあげられない自分が情けなかった。僕には、何もしてあげられない。
「圭君は、今どこにいるの?」
 和宏は、ますます言葉を失った。もう、昨日のうちに灰になってしまったのだ。佑美は、ちゃんとお別れが出来なかったのだ。無理してでも連れて行くべきだったのだろうか。今更後悔しても仕方ないが、このままでは、佑美は、立ち直れないのではないか。死を受け入れられない佑美に、どうやって教えたらいいのだろうか。
「佑美、みんなが付いてるからね」
 そう伝えるのがやっとだった。
 佑美は、それから二日後に、退院した。完全ではなかったが、どうにか気持ちも落ち着いたのではないかと言うことで、主治医は、退院に踏み切った。夜眠れないときのために、睡眠導入剤も出されたし、精神安定剤の内服薬も出された。だが、まだ、しっかりご飯は食べられなかった。もし、また、食事を拒絶するようなことがあれば、すぐに入院して下さいとも言われていた。主治医は、病院にいるより自宅で過ごす方が、まだ癒されるのではないかと思ったようだった。
 だが、不安定な佑美は、公園の前を通ると、吐き気を訴え、車の中で苦しみ始めた。そのうち、嘔吐してしまった。丁度家に着いたときだったので、車から降ろし、すぐの嘔吐だった。もちろん胃の中になんて何もなかった。ただ、胃液を吐くだけだった。ゲーゲー言っている佑美の背中をさすりながら、母は、泣くのを我慢していた。僕は、哀れな佑美に何もしてあげられない空しさを感じた。
 佑美の嘔吐が落ち着くと、何とか抱えるようにして、部屋に入った。
「佑美、大丈夫?」
 母の言葉に、涙目で佑美は、頷いた。やはり、退院は早かったのではないか。和宏は、佑美の哀れな後ろ姿を見つめながら考えていた。
 佑美の部屋に連れて行き、母は、佑美を着替えさせた。そのままベットに入り、ぼんやりと天井を見ていた。
「佑美、大丈夫?暫く休む?」
佑美は、こくんと頷いた。だが思い出したように、
「私の絵は?」
 母親は、困ったように佑美を見つめた。
「後で、持ってくるわね。ちょっと、休みなさいね」
「お母さん、ごめんね」
 母親は、思わず、佑美を抱きしめた。
「佑美は、居なくならないでね」
 母親は、泣きながら佑美を抱きしめていた。佑美は、圭一のことを思った。彼の父親や母親はどうしているのだろうか。そしてまた、これは、長い夢なのだろうかと思った。
 和宏は、佑美を描いた圭一の絵をぼんやり見ていた。幸せそうな笑顔の佑美を此処まで描ける圭一は、本当に佑美のことを愛していたに違いない。そしてまた、僕は、弟を殴ってしまったことに後悔した。
「和宏、佑美が、その絵のことを気にしているの。渡しても良いのかしら?」
 母の心配はよく解る。また、この絵を見て圭一が亡くなったことを思い出し、悲しみに暮れるのを見たくないのだ。
「暫くは、そっとしていようか。きっと、佑美なら大丈夫だ。ところで、和宏、ちょっと話があるんだ。いいか」
「はい」
 父は、和宏の前に腰掛けた。和宏は、佑美の絵を側に置いた。
「お前が家に来てからもう、二十四年だな。今回のことで、お前には辛い思いをさせたと思う。悪かったな。だが、これも現実なんだ。佑美も可哀想なことだったと思うが、どうしようもない。ゆっくりおまえのお父さんと話をする暇がなかったな。むこうさんも落ち着いたら一度会いに行ってみないか」
 和宏は、何も言えなかった。あの日、病院で母が圭一の父と会話を交わしているのを見かけ近寄ると、
「すまなかった」
 その男性は僕に頭を下げた。その後、死亡が告げられ慌ただしくなり、何のことだか解らずにいた。僕はてっきり、輸血のことだと思った。だが、違ったのだ。僕に、謝ったのだ。『すまなかった』その男性のその言葉の中に、僕は、優しさを感じた。僕は、恨んでなんか居ない。感謝して居るぐらいだ。佑美と知り合えたのだから。その佑美を僕は、今助けることも出来ない。
「父さん、佑美が、元気になったら会うよ。それまでは佑美の兄として元気にしたいんだ。僕に何が出来るか解らないけど」
「そうだな。お前も辛いだろうけど」
 僕が辛いのは、佑美があまりにも哀れだと言うことを見なければ行けないことだった。
「僕は、無力だ」
 和宏は、思わず呟いた。そんな和宏を見て父は、
「みんな無力だよ。最後は本人が立ち直るしかないんだ」
「そうだね」
 佑美の、辛そうな顔が浮かぶ。血まみれの圭一を見て、冷静に行動していたのに、あんなにもろい物なのだろうか。
「僕は、佑美のために何が出来るんだろうか」
「何もしなくて良いよ。今はあの子の側にいつも居てあげてほしい。それは、私達も一緒だ」
「そうだね」
 佑美、早く立ち直ってほしい。和宏は、切に願った。


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