「もしもし」 「横川、佑美ちゃんを連れて公園まで来い」 それだけ言うと電話が切られた。 「佑美、中井が、公園に来いって」 佑美は、胸騒ぎがした。中井は、圭一に会っている。公園で気分でも悪くなって居るのを見かけたのだろうか。二人で、急いで坂を下っていった。 雅之は、マンションの外が騒がしいので窓から覗いた。辺りに血が飛び散り、フロントガラスの割れた車が側に止まっていた。雅之は、興味本位でマンションの下に降りていった。一人の青年が横たわっている。その顔は、「ちょっと通してください」 雅之は、顔を確かめるために中に入っていった。雅之は、血まみれの青年の顔をのぞき込んだ。その青年は、大事そうに紙包みを抱えている。 「おい、しっかりしろ」 雅之は、その青年に声をかけた。反応がない。雅之は、和宏に電話をした。 「横川、佑美ちゃんを連れて公園まで来い」 佑美と和宏は、マンション前の人だかりに気が付いた。 「横川、こっちだ」 雅之が呼んでいる。佑美は、足がすくんだ。何故、そんなところに私を呼ぶの。 「早く」 和宏は、佑美を抱えるように連れて行った。そこには、 「圭君、どうしたの、圭君」 圭一は、ゆっくり目を開けた。 「佑美ちゃん、行けなくなったよ。ごめんね。これ、佑美ちゃんに見せたくて持ってきたんだ」 圭一は、笑ってそのまままた目を閉じた。 「圭君、しっかりしてよ。いやよ」 救急車のサイレンが聞こえてきた。 「さあ、どいて下さい」 手際よく圭一を担架に乗せていく。他の隊員が救急病院を探している。佑美は、圭一の側から離れなかった。 「身内の方ですか?」 「はい」 「じゃあ、乗って下さい」 「僕も良いですか?」 和宏も乗り込んだ。佑美は、泣くのを我慢してじっと圭一の顔を見ている。あれから目を開けない。救急隊が、圭一の様子を観察している。。 「呼吸が弱い、酸素吸入を」 指には、何か、填められ、モニターに映されてきた。 「血圧が、下がってきます」 救急隊がモニターを見ながら他の隊員に告げる。救急車は、サイレンを鳴らしながら動き始めた。近くの救急病院に運ばれ、玄関からストレッチャーで運ばれた。佑美と和宏もついて行った。処置室に運ばれ、手際よく服を脱がされていった。圭一の持ち物を、佑美に渡され、そのまま扉を閉められた。佑美は、圭一の持ち物を抱えたまま、立ちすくんだ。 「すいません、ご家族の方ですか」 側に警官が立っていた。 「いえ、妹の恋人でして」 「ああ、そうですか。ご家族にはまだ?連絡先とか解りますか?」 「住んでいるところは解りますが、電話番号は解りません。あ、待って下さい、携帯電話を見ます」 佑美は、悪いと思いながら着信履歴を見た。 「ありました、圭君に怒られるかな」 佑美は、番号を告げた。佑美は、笑っていられる自分が不思議だった。でも、圭君は大丈夫だよ。私との約束守らないはずないもの。 「横川」 追いかけてきてくれた雅之がそこに立っていた。 「ありがとう、ちょっと、家に電話してくる」 和宏は、病院の外に出て行った。手術室のランプがついた。 「佑美ちゃん、座ろう」 雅之は、佑美を近くのソファーに座らせた。「中井さん、圭君大丈夫よね」 「ああ、大丈夫だよ。それは何?」 佑美は、袋に入った品物を取り出した。 「あっ」 それは、いつか二人で行った湖をバックに佑美の絵が描かれていたのだ。佑美は、初めて涙を流した。どうしてそんなに大事に抱えていたの。自分の体の方が大事なのに。佑美は、涙が止まらなかった。手の甲で何度も拭いたけど、涙が溢れてきた。 「どうして、涙が止まらないのかな」 「佑美ちゃん」 雅之は何もしてあげられない自分が歯がゆかった。誰かが駆けてくる足音が聞こえてきた。 「佑美さん、圭一は?」 それは、圭一のご両親だった。 「今、手術中です」 雅之は、静かに答えた。不意に、看護師が出てきた。 「オペをするのにご家族のサインが要ります。こちらに来て下さい。それから、息子さん、AB型ですね。血液が足りないんです。どなたか居ませんか」 佑美は、自分は、O型だ、何故、こんな時に役に立たないのだろう。 「僕、AB型です。僕の血を使って下さい」 和宏が、そこに立っていた。お兄ちゃんは,AB型だったんだ。佑美は、ぼんやり見ていた。和宏は、看護師に連れられていった。 だが、和宏の血液は、役に立たなかった。その後すぐに、医者が出てきて、申し訳ありませんでしたと告げた。その後の記憶が佑美には無かった。
|
|