次の朝、 「お兄ちゃん、今日の夕方空いてる?」 「空いてるけど」 和宏は、佑美の顔を見られなかった。あまりにも衝撃的な話を夕べ聞かされたばかりなのだ。 「今日、圭君が、会うって。昨日の話」 和宏は、何かで殴られたような衝撃が襲ってきた。 「解った。五時頃なら何とかなる。電話するよ」 和宏は、落ち着いて答えたつもりだったが、声が上擦っていた。 佑美は、昼休みに圭一にメールを入れた。『五時頃ならいいと兄が言いました。場所は何処にします?』 『食堂にしようか』 すぐに圭一から返事が返ってきて、佑美は、『はい』 と、返事のメールを送った。佑美は、少し考え、 「もしもし、中井さんですか」 中井に、電話した。 「あ、佑美ちゃん、久しぶりだね。彼氏とは上手くいってる」 「はい・・あの今日、夕方空いてますか?」 ふいに電話の向こうから笑い声が聞こえてきた。 「横川にも頼まれたぞ。彼氏に会わせるんだってね。俺が行っても良いのかな?」 「はい、お願いします。多分お兄ちゃん大丈夫だと思うけど」 「何かあったの」 「ううん、大したことじゃないの」 「まあ、いっか。じゃあ、後でね」 佑美は電話を切り、苦笑いを浮かべた。和宏も中井にお願いしていた。でも何故なのだろう。中井は、私の味方になってくれるような気がするのに。 五時に、食堂に待ち合わせた。佑美は、圭一の横に腰掛け、圭一の前に和宏が座り、佑美の前に、雅之が座った。 「お久しぶりです、お兄さん」 圭一は真っ直ぐ和宏を見つめ、頭を下げた。よく似てるなと中井は考えていた。和宏は、自分の気持ちを落ち着かせるように、一口ジュースを飲んだ。 「昨日、佑美から聞いた。佑美は、婚約指輪をいただいたと話したよ。それから、結婚したいとも」 「はい、僕は、今すぐにでも結婚したいです」 「結婚!」 初めて聞く中井には、驚きの話であった。 「ちょっと、早いんじゃないか。まだ、学生だし、こんな事言ったら、行けないかもしれないけど、これからどんな出会いがあるか解らないよ。それに、学校や生活はどうするの」「大学は続けるわ。学費は、今まで通り両親に出してもらわなければ行けないけど、生活の方は何とかなるの。私がそんなこと言える立場じゃないけど」 「僕から、説明します。僕は、小説で新人賞をいただきました。それで、いろんな所からオファーも頂いてますし、ある程度の保証金も頂きました。それに、今後半年に一度本が出ます。本も出来上がっています。五冊分ほど。だから、生活に問題はありません。僕は、佑美さんと知り合ってこの人じゃないと駄目だと思いました。だから、今すぐ結婚したいのです。離れていた時間、まあ、僕が仕事が忙しかったから行けないのですが、やはり不安でしたし、寂しかった。だから、そんな不安を持ちたくないし、いつも側にいてほしいから」 「佑美ちゃんは、君から連絡のない間、君以上に寂しかったんだよ。だから、そういう感情もあって今、盛り上がっているだけじゃないかな。僕は、結婚していないから解らないけど、いつも燃え上がってばかりじゃ結婚生活って難しいんじゃないかな。確かにそんな情熱的なことも必要だけど、もう少し冷静に」雅之は、ため息をついた。 「でも、若いって凄いな。何でも出来るんだね」 圭一は、ジュースを一口のみ、 「確かに、まだ若いかもしれませんが、僕は真剣なんです。お兄さんには解ってほしいんです」 急に和宏の名前を呼ばれ、ドキッとした。僕は、動揺している。佑美の気持ちも圭一と一緒だと目の当たりにし、もう、自分の気持ちなど入り込む空きもないのだ。 「僕は、賛成できない。悪いけど。やっぱり両親の気持ちを考えると・・」 両親の気持ちなんかじゃない、自分の気持ちだ。たった18年しか一緒にいなかったんだ。そんな大事な妹を奪われていくのだ。 「そうですか。でも、お付き合いだけは認めて下さい。近いうちにご両親に会いに行きます。すぐには賛成して頂けないでしょうが、僕は、何度でも足を運びたいと思います」 「君のご両親は賛成しているのか」 雅之は、和宏の代わりに尋ねた。 「いえ、まだです。でも、薄々気付いています。僕は、早く結婚したいと話していましたし、僕が一人暮らしを始めたいと言い出したときに理解したと思います。それに、佑美さんを会わせましたから。今度の休みに帰ってきちんと話すつもりです」 「そうか、僕は、第三者だからあんまり軽率なことも言えないけど、もう少し二人でゆっくり人生設計を考えた方が良いんじゃないかな。まだ、若いんだから」 「解りました。ありがとうございました」 圭一は立ち上がり、頭を下げた。佑美も立ち上がり、 「今日は、ごめんなさい。じゃあ、帰ります。お兄ちゃん、今日も私、遅いから。圭君と勉強して帰る。お母さんには言ってあるから」 「ああ、あんまり遅くならないように」 和宏はそれ以上言えなかった。圭一と佑美が、立ち去った後、和宏と雅之は、まだ座っていた。 「俺はな、若いけど良いやつだと思っている。でも、お前の気持ちを考えると手放しでは喜べないし。おまえはどうしたいんだ」 和宏は、何も言えなかった。解っている、仕方ないことだ。それが、かなり早くなったてことだけだ。 「理解しようと思う。でも、早すぎる」 何を言ってるんだ、和宏は思わず笑いが込み上げてきた。 「横川、佑美ちゃんは妹だからな」 「ああ」 雅之は、俺の事情を知らない。知ってもらってもどうしようもないのだ。 「さ、教室に戻ろうか」 二人は、立ち上がった。
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