圭一は、大学に通いながら引っ越しをした。両親は、初めは反対したらしいが、説得を重ね、何とか納得してくれたらしい。 「母親は、説得するのが難しいね。僕のこと考えてくれて居るんだけどね」 圭一は、嬉しそうに話していた。 「もしかしたらお母様と鉢合わせしたりするかな?」 「そうだね、そうだ、今度の日曜日にうちに来ない?両親に会わせるよ。取り敢えずうちの両親を味方につけたら。でも、驚くだろうな、僕、女の子を家に連れて行くの初めてだし」 佑美は、幸せを感じていた。 次の日曜日、圭一の引っ越しの手伝いがてら、圭一のお宅にお邪魔した。優しそうなご両親に挨拶をした。 「初めまして、横川佑美と申します」 佑美は、緊張しながら挨拶をした。 「まあ、かわいらしいお嬢さんね。初めまして、圭一の母です。良かったら一緒にお茶でもしましょうよ」 「母さん、そんな無理に誘ったら駄目でしょう」 佑美が、困っていると、 「今から、引っ越しの手伝いしてもらうから、ゆっくり出来ないんだ。さあ、佑美ちゃん、これ車に運んでくれる」 佑美は、ほっとした。 「そんなこと父さんがするよ。向こうで佑美さんは、下ろすのを手伝ったらいいからね」 そう言いながら、荷物を運ぶ、圭一の父。佑美も他の荷物を運んだ。 「じゃあ、運んでくるから」 荷物を積み終わり、佑美と圭一は車に乗り込んで、家を離れた。 「じゃあ、行ってきます」 佑美は、軽く頭を下げた。 車が、家を離れると、佑美は、ため息をついた。 「緊張した?」 「うん、とっても。でも、お二人とも優しそうな方ね」 「二人とも佑美ちゃんのこと気に入ったみたいだよ。お母さんが言ってた、僕にはもったいないって」 「そんなこと・・」 何だかくすぐったいような気がした。 次の日から、圭一は、マンションに住み始めた。佑美は、その日ささやかな引越祝いをしたくて、母に遅くなると告げ朝出掛けた。「何時になるの?」 「九時頃になるの。ご飯は食べてくるからね」 母は、心配そうに見ていたが、それ以上何も言わなかった。 佑美は、授業が終わると、圭一の携帯電話にメールを送った。 『今日、夕ご飯作りに行って良いですか?』 すぐに返事があり、 『門のところで待ってる』 そうメールが届き、佑美は、駆けていった。圭一は、自転車に乗ったまま門の所にいた。 「ありがとう。でも、食器とか無いから買いに行こうよ。もう、二人分用意していても良いよね」 「うん」 二人は、食器を二つづつ購入していった。「お鍋とかは、お母さんが準備してくれたんだ。食器は、自分で買うって言ったんだ」 「どうしって聞かれなかった?」 「聞かれたよ。でも、佑美ちゃんと買いに行くって言ったんだ。そしたら、二人が苦笑いしていた」 楽しそうに話す圭一。佑美は、そんな圭一と一緒にいられる幸せがずっと続くことを祈った。 夕食を済ませ、佑美は、時計を気にし始めた。 「何時に帰るの?」 「九時までに帰らなきゃ。お母さんに言ったから」 時間は、七時五十分だった。このマンションから歩いて15分。八時半過ぎには此処を出なければ行けない。佑美は、ずっと、圭一と居たかった。早く大人になりたいと思う。 口数が少なくなった佑美のそばに圭一は、腰掛けた。 「また、明日もおいでよ。ここで一緒に宿題して、ご飯を食べて、一緒の時間を過ごしたいね」 佑美は、頷き、圭一の肩にもたれた。一緒にいたいけどまだまだ私達のしなくちゃ行けないことが沢山あるんだなと感じた。 「佑美ちゃん、送っていくよ」 圭一との甘いキスの後、二人はマンションを出た。 圭一は、自転車を押しながら、二人何も話さなかった。圭一は、早く、佑美の両親の許しがほしいと思った。佑美も、離れるのがこんなに辛いと感じたことがなかった。でも、家を飛び出すほどの勇気はなかった。やっぱり認めてもらいたいと思うのだった。 気が付くと、家の前だった。 「じゃあ、おやすみ」 圭一は、軽く手を振って、引き返した。一度も振り返らなかった。振り返ると、辛くなるから。また、明日会えるから。そう思いながら自転車を漕いでいった。佑美は、圭一の姿が見えなくなるまで見送った。 「ただいま」 「お帰りなさい」 リビングには、母と兄が居た。 「お父さんは?」 「まだよ。もうすぐ帰ってくるわ。先にお風呂に入ってしまいなさい」 母は、明るく佑美に言った。きっと、佑美が、今まで恋人と一緒だったなんて思ってもないだろう。 「うん、入ってくる」 和宏は、佑美の後ろ姿を見ながら何か言いたげであったが、何も言わなかった。 入浴を済ませ、部屋にはいると、明日の準備を始めた。 「佑美、いい?」 和宏の声だった。 「どうぞ」 佑美は、ドアを開けた。 「どうしたの?」 佑美は、部屋に入ってきた和宏に緊張しながら聞いた。 「いや、今日も彼と会っていたの?」 「うん、お母さん何か言っていた?」 「いや、お母さんに話したの?」 「まだよ、でも、近いうちに話すつもり」 佑美は、今の圭一の事を話すべきかどうか迷った。和宏は、解ってくれるだろうか。賛成はしないだろう。でも、反対はしてほしくない。年が近い分、私の気持ちを理解できるのではないか。 「あのね、私、圭君と結婚したいの。出来れば今すぐ」 佑美は、思い切って話し始めた。和宏の顔から笑顔が消えた。 和宏は、耳を疑った。そして、言葉を理解しながら自分の表情が強ばっていくのが解った。言葉を探す。だが、見つからない。自分だけよく解らない世界に迷い込んだ気分だった。佑美が、僕からどんどん離れていく。 「だめだ」 自分が発した言葉に、和宏は戸惑った。違う、そんな言葉じゃない。 「どうして?圭君いい人よ」 佑美は、悲しそうに和宏を見つめた。そんなに、見つめないでくれ。和宏は、辛くて目を背けた。 「お母さん達が悲しむ」 いや、一番悲しむのは、僕なんだ。でも、そんなこと言えない。言っては行けないのだ。 「解っているの。でも、説得しようと思う」 佑美は、引き出しから指輪を出した。 「これ、圭君からもらったの。婚約指輪だと思っている。彼の気持ちも私と一緒なの。だから、お兄ちゃんだけは、解ってもらいたい」「僕は・・」 言葉が見つからない。佑美は、どんどん遠くに行ってしまうんだな。 「彼は、一人暮らしを始めたの。私と住める広さの所を借りたの。彼は、大学を通いながら副業をしているの。それで生活は何とかなるって。でも、大学は、お互い通おうって話しているの。私も、結婚しても大学は止めない。その分の学費は、お父さん達にお願いしようと思うの。我が儘かもしれない。解ってる。まだ、未成年だって事も。でも、圭君じゃないと駄目なの」 和宏は、何も言えなかった。ただ、 「一度、彼に会わせてくれ」 そう言うのがやっとだった。 「解ったわ。でも、お母さん達には、まだ内緒にしていて。私がきちんと話すから」 和宏は、それ以上何も言えなかった。そのまま佑美の部屋を出て行った。
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