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作品名:海の見える公園にて 作者:さらら

第18回   18
夏休みが終わり、また坂を下りて、大学に通う日々が始まった。夏休みの間、あまり圭一に会うことが出来なかった。圭一は、アルバイトが忙しいらしく、だが、毎日メールか電話はしてくれた。佑美は、大学が始まるのが待ち遠しかった。大学が始まれば圭一に会える。少なくとも今まで以上に会えるのだ。いつものように図書館に行き、圭一との幸せな時間を過ごし、公園まで送ってもらった。「佑美ちゃん、これからあんまり会えないかもしれない。でも、僕のこと信じてほしいんだ。今僕がやりたいことをやり終えたら、僕は、いや、それをやり終えたらゆっくり佑美ちゃんと会える」
「うん」
 佑美は、不安がないと言ったら嘘になるが、信じてみようと思った。
 それから、会えても週一回の公園でのデートだった。いつも笑顔で話す圭一だったが、何故か疲れているように感じた。佑美は、何も言ってくれない圭一が、歯がゆかった。
「今度はいつ会えるの?」
 佑美は、いつもそう聞きたかったが、どうしても聞けなかった。圭一と約束だから。圭一の邪魔をしたくないから。
 そんな頃、両親が帰ることになったと電話がかかってきた。
「また、行かなきゃ行けないんだけどね、半年ほどそっちに帰ることになったの。佑美ちゃんに会えるのが楽しみだわ」
 最近元気のない佑美をかなり気にしていた和宏もほっとした表情を見せた。佑美が元気がないと和宏も気が滅入ってしまう。あの夏の出来事から佑美は、あの男の事を話さなくなった。別れたとは思っていないが、思うように会えない日々が続いているのは薄々感じていた。だが、何も言ってあげられなかった。心の隅で別れてほしいと願う自分が居ることが、心にブレーキをかけていたのだ。駄目だな、まだまだ。いつもそう感じていた。
「お母さん達が帰ってきたら、お兄ちゃんも私から解放されるね」
 明るく言う佑美の言葉に胸の奥で痛みが走った。そうか、もう今までみたいに二人だけの楽しい時間を過ごすことが出来ないのだ。
「佑美も、家事から解放されるね。今まで大変だったね」
「私は、大変だと思ってないよ。お兄ちゃんと二人の生活は、楽しかったよ。お兄ちゃんが遅い日は、心細かったけどそんな日は、本当に数えるくらいだったし、お兄ちゃんは凄く私に気を遣ってくれたし」
 佑美は、話しながら圭一とのドライブの日を思い出した。私が遅かったのはあの日だけだったんだな。圭一は、元気にしているだろうか。ふっとため息が出た。その様子を見て、また、和宏が悲しい顔をした。
 二週間後に、両親が帰ってきた。
「二人とも元気そうね」
 そう言う母の方が、ずっと元気で、少し太ったようだった。
「向こうはね食べ物がおいしくてちょっとね」 そう言いながら自分の体型を眺めていた。 これからまた家族四人の生活が始まるのだ。
 佑美は、久しぶりに母とあの公園まで散歩に出かけた。圭一と会えたら母に紹介しても良いかなと佑美は考えていたが、公園には圭一の姿はなかった。佑美は、また海を眺めながら圭一の言葉を思い出した。
「こんな素敵な景色なんだから、嫌なことがあったときだけ来るのはもったいないよ。楽しいことがあったときにも来てあげないと」
「え、何か言った?」
 母が佑美の言葉に反応したが、
「ううん、何でもないよ」
 笑顔で答えた。会えないわけじゃないんだから。
 だが、暫く全く連絡が来ない日々が続いた。それは、両親が帰ってきて暫くたった頃で、二ヶ月ほど連絡がとぎれた。圭一の気持ちが知りたいといつも思った。でも、どうしようもなかった。
 そんな頃、雅之にばったり学食で出会った。「久しぶり、最近全然来ないね。まあ、彼氏とデートが忙しいのかな」
 佑美は、弱々しく首を振った。
「どうしたの?」
 様子がおかしい佑美が気になった。
「圭君と連絡が取れないの。もう、二ヶ月になるの」
 佑美は、涙がこぼれそうになった。
「学校には来てるの?」
「それもよく解らないの。でも、大丈夫、圭君、僕を信じてって言ったの。久しぶりに、研究室に行こうかな。中井さん、行っても良いですか?」
「うん、今から行こうよ。今、結構暇だし、またみんなでご飯でも食べに行こうよ」
「うん」
 佑美は、涙をそっと拭きながら頷いた。
 次の日、雅之は、学生課を尋ねた。東圭一の学部を確認し、教室を覗いた。だが、圭一の姿を見つけることが出来なかった。
「あの、東圭一君、いる?」
 一人の学生を捕まえて聞いたが、
「最近、休んでるよね」
 と答えただけだった。
「学校にも来ていないのか」
 雅之は、この事実を佑美に知らせるべきかどうか悩んだ。しばらく様子を見てみようと思った。あの青年なら大丈夫のような気がしていたから。
 暫くたったある日、待ちに待った圭一からのメールが届いた。
『今日の五時にいつもの公園で待ってる』
 たったそれだけのメール。でも、佑美にとって待ちに待ったメールだった。佑美は、その短いメールを何度も何度も読んだ。自分が興奮していると解ったがどうすることも出来なかった。やっと、圭一に会えると思うと、落ち着かなかった。深呼吸し、佑美は、雅之に電話した。
「はいもしもし」
「あの、横川です。中井さんですよね」
「あー佑美ちゃん?どうしたの」
 佑美は深呼吸し、落ち着かせ、
「あの、圭君からメールが来たんです。ごめんなさい色々ご迷惑かけて」
「そうか、良かったね。今日会うのかな?」
「はい」
 佑美は、電話を切った。だが、落ち着いてくると、不安が生まれた。話って何だろう。嫌なこと?違うよね。
 佑美は、授業が終わると、公園まで駆けていった。早く会いたい。ただ、それだけだった。
 公園のベンチには、すでに誰か座っていた。佑美が静かに近づくと、振り向いたその顔は、懐かしい笑顔を向けてくれた。
「佑美ちゃん、ごめんね、長い間連絡しなくて」
 佑美は、首を振りながら、
「良かった会えて」
 そう言うのがやっとだった。
「ちょっと、どうしても遣りたいことがあってね。」
 圭一は、少し笑いながら、
「佑美ちゃんに、渡したい物があるんだ」
 そう言いながら、ポケットから何かを取り出し、
「佑美ちゃん、目を閉じてくれる」
 佑美は、言われるままに、目を閉じた。そっと、手を取られ、
「えっ」
 佑美が、目を開けると、左の薬指に指輪がはめられていた。
「サイズが解らなくて、少し大きかったね。また、直しに行こうね」
 佑美が、驚いた表情で圭一を見つめていると、
「そんなに、見つめないでよ。僕、佑美ちゃんと結婚したいと思ったんだ。確かに二人ともまだ、十九歳だけど、僕は大学に通いながら、副業をすることになったんだ。だから、佑美ちゃんに苦労をかけないよ」
 佑美は、驚きのあまり声が出なかった。そ
して、そのまま涙を流した。
「どうしたの?僕じゃ嫌なの?」
 佑美は、首を振った。
「だって、びっくりして。それに、話があるだけだったから、メールが、それで、悲しい話だったらと思いながら。でも、指輪を急に填めるんだもん、酷いよ、そんな」
 圭一は、そっと、佑美を抱きしめた。
「ごめんね、実は、佑美ちゃんに内緒にしていたんだけど、僕、小説で賞を取ったんだ。それで、そこは本を先に作成して発表するんだけどその構成とかやったりして、ずっと、ホテルに缶詰状態だったり。連絡したかったけど、きちんと形になってからと思っていたんだ。もうすぐ本もでるし、僕もいろんな所に行かなくちゃ行けなくなる。僕は、今まで我慢したんだ。だから、これからはずっと佑美ちゃんと居たい。きっと、笑われるかもしれないけど、ずっと居たいから」
「うん」
 佑美は、笑顔で頷いた。佑美は、指輪を眺めながら、
「ありがとう。でも、本当に私で良いの?私、何も出来ないよ」
「僕は、佑美ちゃんがいいんだ」
「でも、わがままだし、それに大学に行きたいし」
「僕も大学に通うよ」
 佑美は、この人は本気なんだと思った。
「きっとお互いの両親が反対するに決まっているけど、僕は、みんなに祝福されて結婚したいし、僕は説得するよ。君の家にも通って君のお兄さんに認めてもらえるようにするよ」
「今、両親が半年の期限付きで帰ってきているの」
 圭一の顔がぱっと明るくなり、
「じゃあ、近いうちに君の家に挨拶に行くよ。必ず行くよ」
 佑美は、うんと頷いた。
 次の日の夕方、圭一と佑美は、駅前の不動産屋の前にいた。
「僕、実はもう気に入っている部屋があるんだ」
 圭一は、照れくさそうにそう告げた。
「その部屋みたい」
 佑美も照れくさそうに答えた。
 担当の社員に連れられ、歩いて二分ほどのマンションは、まだ新しい物にみえた。
「此処の、三階です」
 佑美に親切に説明する社員はある程度好奇の目で佑美を見ていた。佑美は、少しその瞳が気になり、下を向いていた。
 エレベーターを降り、端の部屋まで歩いた。社員が鍵を開けると、広いリビングが廊下の奥に見えた。
「さあ、どうぞ」
 佑美は、圭一の後ろについて部屋に入った。
「佑美ちゃん、此処にも部屋があるんだ。此処が一番広いかな」
 一緒に入った部屋は、フローリングで窓があり、明るかった。
「この部屋は、寝室にしようか」
「うん」
 佑美は、恥ずかしそうに頷いた。
 部屋は、後一つ洋間があり、トイレ、浴室、キッチンと広いリビングがあり、ベランダが付いていた。
「でも、圭君、高いんじゃないの?」
「うん、でも、僕が何とか払える値段だから、心配しないで良いよ」
「でも・・・」
 佑美は、不安だった。
「佑美ちゃん、どう、此処で良い?」
「いいけど、でも」
「心配しないで、僕がちゃんと払える家賃だし。佑美ちゃんに不自由させないから」
「そうじゃないの。なんて言ったらいいのかな。まだ、両親の承諾も得てないから」
「ちゃんと、君のご両親には会うよ。その後、一緒に住んだらいい」
 佑美は、不安だった。こんなに先走りして良いのだろうか。幸せすぎるから不安になる。「僕は、すぐにでも引っ越すよ。僕は、もう、アルバイトしないからいつも此処にいるよ。もちろん大学に行くよ。夜は、原稿を書いたりしているし、たまに家に帰るけど。ただ、来る前に電話して、居ないこともあるからね」 佑美は、頷いた。今は、この幸せに浸って良いよね。まだ、両親に賛成してもらえたわけではないから、きっと、反対されると思う。だって、まだ、二人とも学生で、未成年だから。でも、圭一について行きたい。何処までも。


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