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作品名:海の見える公園にて 作者:さらら

第15回   15
 夏休みに入ったある日、佑美と圭一はドライブに出掛けた。あれから、和宏には言えずに今日まできたのだ。もちろん、圭一にもキスしているところを見られたなんて恥ずかしくて言えなかった。
「今日は、何時まで大丈夫?」
 佑美は、少し考えて、
「7時頃までなら。ごめんなさい」
「仕方ないよ。おうちのことしなきゃ行けないんだし。あのね、今日はお願いがあるんだ。聞いてくれる?」
「なあに、圭君?」
 圭一は照れながら、
「今日は、君の絵を描こうと思ってるんだ。こんなに長い時間一緒にいられることが少ないから。今日中に下絵を完成させるよ」
 朝、八時に出掛けてきた二人にとって、長い時間、一緒に過ごせるなんて夢のようなことだった。まだ、和宏に話せずにいる自分が悪いのだろうかと責めたりもしていたが、何故か話せないのだった。佑美はそんな気持ちを打ち消すように、
「今日ね一緒にお弁当を食べようと思って朝から作ったの。だって、そんな時間もなかったし」
「そうだね。でも、ありがとう」
 車は高速道路を走り、一時間ほどでインターを降りた。緑の中をくるまを走らせ、静かな湖に着いた。夏休みだというのに静かな物だった。
「実は穴場なんだよ、ここは。いつか一人で車で来たことあって、それで見つけたんだ」 二人は、車から降り、手頃な場所に用意していたシートを引き座った。圭一は鞄からスケッチブックを取り出し、
「佑美ちゃん、そこに座って、今日は君を書き上げるから」
「うん」
 佑美は、言われた通りに座った。
「話しても良い?」
「うん、いいよ」
 佑美は、嬉しそうに、
「私、もっと圭君の事知りたい?」
「僕の何が?」
 圭一は、佑美を見つめたまま鉛筆を動かした。
「そうね、高校の時は、何かスポーツしていたの?」
「うん、テニスをしていたよ。まあ、受験のこともあったからあんまり熱心じゃなかったけど。佑美ちゃんは?」
「私は、スポーツ苦手だからしてなかったの。お兄ちゃんは、テニスをしてたよ。時々誘われたけどしなかったの。圭君は、一人っ子だったね。かわいがられたでしょう?」
「うーん、どうだろう。二人の視線が全部自分に来るからね。佑美ちゃんは、お兄ちゃんが居るから良いね。僕もお兄ちゃんがほしかったから羨ましいよ」
「そうかな」
「そうだよ」
 圭一は、絵を描いていた手を止めて、
「いつか、会えると思って居るんだよ、僕のお兄さんに。養子に出してしまったお兄さんに。でも、恨んでるかもしれないね。僕が一人父を独り占めしているから。でも、僕の兄さんだし大丈夫だろうけど」
 少し寂しそうに笑う圭一は、まだ見ぬ兄に思いを馳せていたようだ。
「佑美ちゃん、秋にね、僕にとって大きな転機が有るかもしれないんだ。今は言えないけど。そうしたら僕は、君の両親に会いたいと思っている。もちろん、その前に君の兄さんには会っておきたいと思って居るんだ。駄目かな?」
「ううん、いいよ。私もお兄ちゃんには会わせたいと思って居るの。お兄ちゃんね、圭君に似てるのよ。初めて圭君に会ったときびっくりしたの。あまりに似ているから目が離せなかったの」
「ああ、なるほど、だから目があったんだね。兄さんに似ていたことに感謝しなきゃ。」
 圭一はウインクしながら答えた。二人でいろんな話をした。佑美は、ますます圭一が好きになった。圭一と居るだけでこんなに幸せな気分になれるなんて。ずっと、圭一と居たいと思ったのだ。でも、幸せな時間は、あっと言う間に過ぎた。日が陰り始めた頃、圭一が描いていた絵も出来上がったが、
「色を付けてから見せるよ」
 見せてほしいとせがむ佑美に、照れながらそう答える圭一だった。暫く色が変わりつつある湖を見つめながら、
「ずっと一緒に居られたらいいのにね」
 そう呟く佑美の肩にそっと手を回す圭一。自然とどちらからともなく唇を重ねた。このまま溶けてしまっても良いと思えるほどの甘いキスだった。
「佑美ちゃん、僕は絶対君を幸せにするよ。だから、ずっと、僕の側にいてほしい」
「うん」
「ああ、良かった。嫌だって言われたらどうしようかと思った」
「嫌だなんて」
 佑美は、俯きながら答えた。そう、佑美は、自分の方がずっと圭一を好きだと感じている。一緒にいられるだけで幸せだと思う。佑美は、甘えるように圭一にもたれた。
 気が付くと、六時を回っていた。
「佑美ちゃん、急がないと」
 そう言い、慌てて帰る支度をした。
「少しぐらい遅れても大丈夫だから、安全運転で帰ってね」
 そう言いながら和宏に電話した。携帯電話にかけるのだが、電源を入れてないらしく空しくアナウンスが聞こえるだけだった。ふうっとため息をつき、携帯電話を切った。
「かからないの?」
「うん、家にかけてみる」
 佑美は、自宅の電話にかけたが、留守番電話のアナウンスが流れた。
「お兄ちゃん、私だけど、ちょっと、遅れます。友達と一緒だから心配しないで」
 そう言い、電話を切った。和宏が何時頃帰るか解らないが、取り敢えず連絡を入れた。これで大丈夫だろうと思いながら、携帯電話をバックに仕舞った。
「困ったな」
「どうしたの?」
 圭一は前を向いたまま、
「渋滞みたいだ。こんな所から混んでいたらインターまでどのくらいかかるだろう」
 圭一は、少し焦っているのが解った。
「圭君、大丈夫よ。ゆっくり帰ろう。仕方ないじゃない、私のことは気にしないで」
「うん」
 圭一は笑顔で答えた。佑美は、もう一度和宏の携帯電話に電話を入れた。
「やっぱり駄目だわ。でも、研究室に居るのかも。それで電源を切ってるのかもしれない」
 佑美は、自分に言い聞かせるように呟いた。
「後でもう一度してみるね」
 佑美は、携帯電話を握りしめたまま答えた。
道路は、思うように進まなかった。ずっとのろのろ運転で、高速道路のインターに付いたときは、もうすっかり夜になっていた。時計を見ると八時をゆうに超えていた。佑美は、再び携帯電話に電話した。同じアナウンスが流れ、その後に、ピーピーピーと嫌な音がして、画面が消えた。
「どうしたの?」
 運転をしながら圭一が心配そうに尋ねた。佑美は、困ったように、
「電源が切れたの。でも、留守電に入れてるから大丈夫だよね」
 佑美は、何とか笑顔で答えた。圭一に心配させては行けない。大丈夫よ、お兄ちゃんは、そんなに怒らないよ。佑美は、自分に言い聞かせた。
「圭君のおうちは大丈夫なの?」
「うん、僕は男だからそんなにうるさくないんだ。大丈夫だよ」
 高速道路も渋滞のため、のろのろ運転だったが、佑美も諦め、圭一とのドライブを楽しむことにした。心の隅には、和宏に連絡が取れないことが気にはなったが


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