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作品名:海の見える公園にて 作者:さらら

第1回   1
「お兄ちゃん、早く。遅れちゃうわ」
 横川佑美は、玄関で叫んだ。
「今行く」
 そう言いながら、横川和宏は、二階の自分の部屋から外を眺めた。坂を下ったところに公園があり、その先にはきらきら光る海を見えた。和宏は、この風景が好きだった。佑美も好きでよく二人で部屋から眺めていた。
「お兄ちゃん、まだ?」
 階下から声が響く。和宏は二階から階段を下りた。和宏は、スーツ姿の佑美を見つめ、少し照れながら、
「おめでとう。じゃあ、行こうか」
 そう言いながら、和宏は靴を履いた。佑美も、少し照れながら、
「ありがとう」
 と呟いた。
 小高い丘にある住宅街のある一軒家でのある朝の出来事である。丘を下りながら、きらきら光る海が眩しかった。坂の少し下には、公園があった。いつも見ている風景。今日は、また違う物に見えた。
 和宏と佑美は、この街に二人きりで住んでいた。両親は、現在、父親の転勤により遠い都市に住んでいる。二人は、この家に残り、地元の大学に通っているのだ。いや、今日が、佑美の入学式であり、同じ大学に通う兄が両親の代わりに出席するのだ。母は、折角の入学式なのだからと帰る予定でいたのだが、体調を崩したらしく、帰れないと連絡があり急遽兄である和宏が参加することになったのだ。
「別に良いよ。恥ずかしいから」
 佑美は、嬉しさ半分、照れくささ半分、そう兄である和宏に話したが、
「母さんに頼まれたから。それに、佑美の晴れ姿だから僕がきちんと見てあげないと行けないんだ」
 和宏は、両親思いである。和宏は、両親に反抗したことがなかった。とても出来た息子であった。佑美にも、とても優しかった。いつも気を遣い、どうしてそこまでするのと思いたくなるほどであった。それはきっと、和宏の性格だったのだろう。
 だが、一度だけ和宏が、両親に反抗したことがあった。それは、和宏が高校三年生の春であった。もう志望大学を決めていても良いはずの和宏は、
「僕は、高校を卒業したら働きたいんだ」
 そう、両親に告げた。
「何を言い出すんだ」
 父は、驚きと共に、怒りを表していた。母は、悲しい瞳で黙ったままであった。佑美は、ただ三人の様子を固唾をのんで見つめるだけだった。父は、怒りを抑えるので精一杯だったが、その怒りが治まると、ため息をつき、
「和宏の成績なら、何処でも行けるじゃないか。今まで確かに十分なことをしてあげられなかったと思っている。だが、おまえを大学に出せる、もちろん、佑美も充分出してあげられる蓄えはある。だから、せめて大学まで行ってほしいんだ。まあ、出来たら公立に行ってくれたら助かるが、だが、おまえ達に十分な教育を受けさせたいんだ」
 和宏は、真っ直ぐ父を見つめ、
「僕は、独立したいと思って居るんです。もちろん、父さん達の事は、大好きだし、ありがたいと思って居るんです。ここまで大きくして貰って、大事にして貰って。でも、十分だから。僕は、ちゃんと大学には行くよ。自分の力で。もう、これ以上迷惑を掛けたくないんだ」
 何故か、母は、泣き出した。
「佑美、ちょっと、部屋に行っていてほしいんだ」
 父は、和宏を見つめたまま、そう告げた。もしかしたら父は、佑美を見ることが出来なかったのかもしれない。佑美は、はいと答え、部屋に上がった。いったい何があったのだろうか。佑美には、理解できなかった。暫く、部屋で佑美は待ち続けた。長い時間、待たされたような気がした。私の知らない話が繰り広げられていく。
「佑美、降りてらっしゃい」
 母の呼ぶ声で、佑美は、階段を駆け下りていった。父と、和宏は、まだ、向かい合ったままであったが、先程の緊張感は無かった。緩やかな時間を共有しているようであった。
「佑美、ごめんな」
 和宏は、笑顔で佑美に声を掛けた。
「僕は、家から一番近い、K大に行くよ。頑張ってみるつもりだ」
 K大は、国立の難関と言われる大学の一つであった。だが、和宏の実力なら充分合格ラインであった。そう、聞かされたのは、和宏が入学してからであった。
「和宏が、合格してくれて本当に良かったと思っているの。あの子には、きっと、いろんな事で辛い思いをさせたから。私達にとって大事な息子だし。もちろん、佑美ちゃんもそうよ。二人とも大事な子供達だから」
 母は、和宏のことが、とても大事なんだと思う。もちろん佑美は、自分も大事にされているのはよく解っていた。ただ、何処か両親の子供達に掛ける愛情のかけ方が違う気がするのだ。それが何か解らないのだが。
 それは、佑美が、十四歳になる春であった。


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