俺に不可能はない。散々言ってきたがこの場面もなんら危機的状況にあらず、むしろ俺の血はたぎっている。はっきり言おう奴の動きに対して反射的に動くのも困難と思えるぐらい人間の限界値を遙かに凌駕している。だからこそ嬉しく悲観などしない、なぜなら最後に俺が勝つからだ。恐らくもう少し、あと二秒、一。 それはまさしく感。あてずっぽうだ。自分の間合いに入ってきただろうと拳を振り上げた。 拳に重い何かを持ち上げる感触が一瞬起こり、鈍い音もした。壁に投げたボールが反発するようにそれもまた反発したように空中に舞い上がった。 「ぐっはぁっ!!」 俺の拳が仮面ヤローの顎を的確にヒット、しかもモロにカウンターだった。仮面が真っ二つに割れ空中に高い放物線を描いて頭からズシャリと倒れ込んだ。 またもやホコリが天井から落下してくる。奴はピクピクと体を震わせていた。あれだけのスピードで突進して来たのだ、カウンターの威力は大地が裂けるほどの破壊力を有していたに違いない。拳はちと滲んだぐらいだった。それなのに奴は顔をこっちに向けてきた。 「なぜだ? 死に体だったお前がこんな…」 仮面の下は普通のヒゲを蓄えた三十代半ばの男だった。 「言っただろ、本気じゃねぇって」 よろよろ歩きながら男に近づいて問うた。 「何故俺だ? この世界のスーパーヒーローに刺客とはな…」 「ぐぬ、それは貴様の過去の経歴が一切不明だったからだ。何かの大会で優勝でもしていれば選ばれることはなかった…」 「じゃあ、あと一人はどいつだ?」 なぜ教えなければならんと言ったので腹を蹴ってやると、 「あひょ、あひょ。わかった、わかったから止めてくれ」 「で?」 「アンナとかいう女だ。多々入賞はしているものの所詮女の部だ。大した実力じゃないと判断した」 俺は手を顎に当てながら思った。
「アンナが危ない!!」
閃光の如く直感を働かせた横でアホウドリが鳴いているように髭面男は笑った。 「ボロボロの貴様が行ってどうするつもりだ。女に襲撃してる奴は俺と同等以上の強さだぞ」 「馬鹿だなお前は。これほどまでの絶好の機会はないだろう」 「馬鹿は貴様だ。今度こそ…」と言ったきり口をつぐんだ。 話かけても『返事はない、ただの屍のようだ』という具合に良いタイミングで眠りについたヒゲ男の顔を見下げてから403号室をあとにした。
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