決勝のゴングが鳴った。 『いや〜。勝った方が文句なく優勝ですが、さて急遽ゲストに来た今大会の司会進行者でもあるアイス・ミントさんです』 『どうも』
白いテントと長いテーブルにパイプ椅子が二つ、体育祭にあるような放送席だ。 アイスは試合開始を宣言した後、トコトコと放送席に来て澄まし顔で観戦していた。
『アイスさんはどちらが勝つと思いますか?』 『そうですね。はっきり言って分かりません』
実況者は苦笑した。
『はは、分かりませんか…』 『それほど両者の実力は拮抗していると私は感じています』 『なるほど。それは刮目せねばなりませんね』 『ええ、ぜひ』
草薙二郎とワン・リーは先ほどの体勢から変わっていなかった。 二郎の突き出した右手をワンの左手が払っている、その状態。 「何故だ!? 何故邪魔したワン!!」 「…………」 ワンは何も喋らない。 血走った眼に、剥き出しにした歯はギリギリと鳴っている。 「やはり何を言っても無駄なのか」 突如、ワンの右腕が動く。 豪腕が唸った。手打ちとは思えない速度と重そうな打撃。 狙いは顔面だった。 「ちっ」 体を左にひねって、鉄拳は二郎の頬をかすめていく。 (よし、体の状態は悪くない) 冷静にそう分析してから思考を切り替える。 先手を突かれたが、ここは後手には回らない。 避けつつも体勢を戻し、攻めに転じた。腰の回転を加えて、容赦なく左ストレートを鼻筋に放つ。若干カウンター気味でもあった為、避けるのは不可能だった。 ガコっと、鈍い音が鳴る。 あっさり当たった。が、苦悶の表情をしたのは二郎だった。 「ぐっ!!」 攻撃を読んでいたように、ワンは額で拳を受け止めていた。 その頭で拳をはねのけて前へ出る。 直後、遠雷が起こったと勘違いするほどの衝撃音が鳴った。 ドゴン!!! 豪快に吹き飛ぶ二郎。勢いよくゴロゴロと転がってリングの端まで体が流された。 「………」 掌底二つ。 ワン・リーの手の平からぶすぶすと煙りが上がっていた。凄まじい威力に観客はどよめいた。 技の正体は双掌打だった。
『これは恐ろしい技をもらってしまいました! 草薙選手! アイスさんこれは!?』 『えーと。どうでしょうね、もしかすると…決まったかもしれません』 『そうですか〜。まだ立てない草薙選手!! あっと、審判が駆け寄る!!』
二郎の下へ急ぐ審判。 しかし、その足を止めた。 草薙二郎はぐぐっと体を起こした。 「くう、さすがワンだな…」 立ち上がって構える。 あの一撃で女医がくれたTシャツの下半分が破けていた。包帯も飛び、腹には真っ赤な二つの手形が付いていた。傷口から血が滲んでいる。 「君、大丈夫だね?」 「ああ、問題はない」 平然と言っているがダメージはあった。その証拠に二郎の顔は汗が噴き出て、滴となって地面に落ちていた。 ワンの強烈な技。だが、とっさに後ろに自ら飛びダメージを半減させた。 もし、その行動をしなかったら間違いなくKOだっただろう。 審判が怪訝そうな表情でリング中央に戻っていく。 「うおおおおおおおおおお!!!!!」 「な、何だっ!?」と二郎。 ずっと無言でいたワン・リーが天高く吠えたのだった。 「二郎! 二郎! 二郎! じろうおおおおおおおおお!!!! 」
『アイスさん。ワン選手いきなり吠えましたね』 『ああ、吠えたね』
|
|