「アイス! 貴様、サムエル・トロスはどうした!?」 くくく、と笑う細長の男アイス・ミント。 「彼は先の試合でけっこうな傷を負い、ドクターストップが掛かってしまいました」 と言って肩をすくんで見せる。マイクのスイッチは切っているようだ。 「残念です。しかしこれも勝負ですから仕方がないことです」 二郎に真意を確かめる術はない。医務室でモニター越しで見た試合も序盤であったので最後までは見ていない。どこを負傷したのか、どれくらいの深傷なのかも解らなかった。 ただサムエル・トロスが勝ったという場内放送だけを聞いていた。だが、ある程度推測は立てられる。 「くっ、まさかホテルの時のように襲ったのか?」 「ふふ、疑り深い人ですね。ま、仮にそうだとしても貴方は戦うしかないはず。それに証拠があるのですか? 私が何かをしたという証拠が」 「それは、」 後の言葉をアイスが繋げた。 「ない…でしょうね。あった所でもう試合は決勝戦です。無粋な真似はやめた方がいい。ワン…彼も貴方との勝負を心待ちにしていますしね」 くい、と顎を動かしてワン・リーの方へと二郎の気をそらした。 「うっ」 アイスの横で静かに佇むワン・リーには覇気がまるでない。うつむき、脱力しきっていて幽鬼のようである。幾度となく自分を救ってくれたワンの意気はどこへいったのか? あるいは何が彼をここまで変えてしまったのか? 「これが…ワンだと?」 「そうですよ」 分かっていた。一度会ったから知っていた。 だが、今一度正面から向き合うとこみ上げてくる。 ワンをこんな目にあわせてしまった自分の不甲斐なさに対する怒り、哀しみ。そしてアイスへ今までの恨み。 もう試合はどうだっていい。 (俺はお前が…) 草薙二郎は思わず走り出していた。 「お前だけは絶対に許さん!! アイス・ミント!!」 拳を握り、気を出来る限り溜めると地面を蹴った。 「必殺! 流動破砕拳!!」 二郎を中心に大気が渦を巻く。練った時間が短かった為に3、4割程度の気であったが喰らうと並の格闘家ならば一週間は病院のベッドの上だ。当たり所が悪ければ致命傷もありえる。 それはアイスとて例外ではない。 しかし、二郎の拳から放たれた闘気はアイスに当たる事はなく、地面である――――――リングのコンクリートにヒビを入れただけで終わった。 「何っ!?」 見ると、瞬時に間に入ったワン・リーが二郎の技を見事に払っていた。 (ワン、いつの間に…) さっきまでの様子とは違い、息遣いも少々荒く、眼は血走っている。 次に口を開いたのは奇襲を掛けられた本人であった。 「やれやれ…興醒めですよ。観客も唖然としていますし、ですが――――――」 言いかけて後ろに下がり、二人から離れるとアイス・ミントはマイクのスイッチを入れた。
『いや〜、両者はゴングを待てないようです。いいでしょう。では、決勝レディ・ファイト!!』
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