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作品名:スーパーヒーローへの道 作者:ケンロウ

第26回   二郎、医務室へ
 北側の出入り口からバトル会場を後にして広い通路を通り、突きあたりを右に曲がる。
 曲がった所のすぐそばに医務室はあった。
 上半分が透明のガラスで中の様子は丸見えである。
 医務室に入ると、成熟した女性の声が聞こえた。
「あら、いらっしゃい」
 声の主はこの医務室の主治医であった。
 デスクに座り、顔だけをこちらに向けている。
 アンナを連れて来た時もこの女性が対応してくれたのでお互い面識はあった。
 草薙二郎がここに来た理由はモース・モースによって受けた傷の治療をしに来たのだ。
「少しだが傷を負ってしまってな」
「そうね。そこに座って」
 二郎は素直に丸っこい椅子に座った。
 白衣を着た主治医は紙に文字をささっと書くと二郎へと向き直った。
 自慢のタンクトップは破れに破れて、ほとんど上半身裸である二郎をまじまじと眺めてから、出血が多い腹部を診る。
「…ここね。傷自体はあんまり深くはないようだけど」
「ああ、だが次は決勝だからな。万全で望みたい」
「私に任せてちょうだい」
 手際良く傷の処置をしていく。と言っても消毒して塗り薬を塗ってその上に包帯しただけだったが。
「はい。おしまい」
「すまない」
 ハサミやら包帯やらを片付けながら、
「お礼なんていいわよ。これが私の仕事だもの」
「そうか」
 と言って二郎は立ち上がろうとするとある物が目に入った。
 女医は二郎の視線の先に気付き動きを止める。
 二人が送っている視線の先にはバトル会場の様子が映ったモニターがあった。
 今はもう一方の準決勝が行われている。映っているのは、
「サムエルだったか。もう一人は知らないが」
「ふ〜ん。このスーツを着ている人。良い男ねえ」
「……」
 二郎はサムエルの動きをずっと追い、実力のほどを計った。
(悪くはない)
 それが二郎の率直な感想だった。むしろ力を押さえて戦っているようにすら思える。
 相手の動きもそれなりだが単調でリズムに欠けている。それを差し引いてもサムエルにパンチ一つ当てる事はできないだろう。勝敗は見るまでもない。
 ぶつぶつと呟いていた二郎の首にいきなりやわらかい物が絡みついた。
「なっ!」
 見るといつの間にか女医が横に立ち、回した手が二郎の頬を撫でていた。
「確かに良い男だけど…私はもっと男らしい方が好みだわ。例えば貴方みたいなね」
「ちょ、ちょっと待て。何だいきなり、どうしたんだ!?」
 ふう、と吐息をかけて艶めかしい体をさらに密着させる。
「何って? 野暮ね、子供じゃあるまいし…」
 薔薇のような真紅の唇が二郎の口へ迫っていた。その時、
「ダメ――――――っ!!!」
 その叫び声と一緒にベッドの周りを閉めきっていたカーテンが勢いよく開いた。
「ダメだよ!! 二郎、その女から離れて!!」
 さすがに二郎も驚き目を丸くした。
 アンナ・ルーズが両手をブンブン回す。
「あら、起きてたのアンナさん…覗きは良い趣味とは言えないわね」
「そんな事はどうでもいいの。二郎から離れて!」
 びしっと指をさし、数秒ほど火花を散らすように睨み合う。
 その間、二郎の体は硬直して額には汗がダラダラ流れた。
 そして、ついに女医のほうが折れた。
「はいはい、解りましたよ。私も忙しいからね、子供と遊んでる暇はないわ」
 二郎からほどけるように離れると机の横に置いてあった袋からおもむろにTシャツを取り出した。
「草薙さん。裸ってのもあれだからこれを着て、サイズは多分合ってると思うわ」
 Tシャツを受け取り、着てみると胸には『必殺』と文字がプリントされていた。
「あ、ありがとう。少々肌寒かったから…な」
「いえいえ」
 一部始終を見ていたアンナはずっと「うー」と唸っていた。
 ちなみに試合はサムエルのKO勝ちだったらしい。
 
 


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