「ヒャハハハ!! 逃げんなよ!」 容赦ない無数の斬撃が交差する。 服は細切れにされ体のいたるところから血が滲む。 二郎はなんとか躱しながら、時に防御しながら致命傷を免れる。 モースの長い腕は二郎を執拗に追いまわし体力を消耗させた。 それこそがモースの狙いであり、弱った獲物をいたぶるのがモースの戦闘スタイルでもあった。斬撃は止む様子を見せない。 「ようよう!! 亀ように固まられたらおもしろくねえじゃん」 縦に横に斜めにと変幻自在に繰り出される攻撃に防戦一方であった。 しかし、斬撃自体は大した攻撃ではない。 二郎は心中でそう思った。 本当に畏怖すべきはモースの下半身の力。 あの奇妙な構えから、 重力を感じさせない絶妙な体勢から攻撃を出せる強靱な足腰。 一定の距離を保ち長いリーチを生かしている。一歩進めば応じてさがる。その逆もしかりである。その距離では二郎の攻撃が当たる事はない。 本来ならば加速的に踏み込むんで懐に一撃とやりたいところだが最初に受けたダメージが思いのほか大きいので足に力が入らず失速…になれば速攻でミンチにされる。 だが、持久戦は圧倒的に不利。 切っ先が二郎の頬をかすめ前髪が二、三本舞った。 「お前、いがいと狡猾じゃないか」 「あん?」 襲いかかる左手の斬撃を地面にいなす。すぐさまもう一方の腕が狙いを定める。 防御が間に合わず袈裟斬りのように攻撃された二郎の肩口から血しぶきを上げた。 「ぐうっ」 二郎が苦痛の表情を浮かべると愉悦にそして酷薄な笑みをモースは惜しげもなく露わにした。 「ヒャッハ!! はじけちまいな二郎!!」 殺気をはらんだ一撃が二郎を襲う。鋭い爪を備えた手が容赦なく二郎の顔面へ奔り、串刺しにした……かに見えた。 「ヒャハ?」 紙一重で躱した二郎の右頬から横一線に鮮血が浮き出ていて、ついでとばかりに二郎の両腕はモースの右腕をがっちり掴んでいた。その腕を脇に固定する。 「捕まえたぜモース」 「くっ! だからどうした!?」 必死に腕を抜こうとするが万力のような二郎の力の前に為す術はない。 そして、この状態からの奥義を二郎は身につけていた。 「くらえ! 草薙流奥義その2、空旋ちゃぶ台返し! だりゃああああ!!」 叫ぶと腕を掴んだまま自分の腰あたりまで軽くジャンプをしてモースの腕を軸に空中で回転した。さらに一段と回転力を上げる。 「ぬがああああああ!!」 モースの悲鳴が会場に響く。 腕の皮が筋繊維が骨が関節がミシミシと音を立ててねじ曲がっていく。 その回転のベクトルはモースの全体にまで伝わり体が歪む、ついに立てなくなったモースは後頭部をコンクリートに打ちつけた。 だが、まだ回転は止まらない。さらにもう一回転、二回転、三回転とモースは回転し、その度に頭を強打した。 二郎がパッと腕を放して着地するやすぐさま地面を蹴った。 モースの体は回転力を維持したまま宙を舞っていた。その渦の中心へ飛び込む。 「終わりだ!! 流動破砕拳!!」 回転中に溜め込んだ闘気を一気に放出した。 チュドン!! という音と共に土手っ腹に技を喰らったモースは巻き付けていた包帯を散らしがら場外まで吹っ飛んだ。 実況者は声を荒らげる。
『決まったー!! 強烈な一撃だー! モース選手は果たして!?』
審判が急いで場外へ走り、叫んだ。 「これはいかん!! すぐに担架だ!!」
『凄い! 強い、二郎選手! 決勝に勝ち上がったのは草薙二郎選手ですっ!!』
『うおおおおおおおお』と観客。
だが楽勝ではない。二郎もそれなりのダメージを負った。 重い足取りでリングを出るとアイスがもう一つの準決勝の試合を告げた。
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