鐘が鳴った。 両者が臨戦態勢から戦闘対戦へと移る。 空気は凍ったように冷たく張りつめた。 一触即発。 二人の空間が少しでも重なると渦を巻き、嵐のような連打が乱れ舞うような風情である。 二郎はこのモース・モースが1回戦、2回戦とも良い動きをしていたのを憶えていた。 モースも自分の戦いを見ているだろう。アンナが喰らった技も見ているはず…。 「……」 なかなか二人とも一歩を踏み出さない。 審判が試合の流れを変えようと声をだす。 すると、白髪で細長い体をしたモース・モースが素っ頓狂な声で笑い出す。 「ウヒャッヒャヒャヒャ! よう草薙二郎、あいさつしようぜ」 「何?」 「あいさつだよ。あいさつ、俺とした事が忘れちまってたぜ」 モースはニヤけたまま、悠然と二郎へ歩き出す。 ぼったりとしたズボンは足首に向かうにつれて細くなっている。上半身は裸に包帯をぐるぐる巻き付けて一見、重症患者のようだ。 何の構えもない。日常を思わせる歩き方でさっきまでの緊張感が全くない。 モースは二郎の近く、二郎が腕を伸ばしてギリギリ届く距離まで近づいた。 「あいさつだ。ホラ」 前屈みで腕を伸ばすモース。すらっとした細い腕だが筋肉が引き締まって非力であるのを否定している。リーチも長い。 罠なのか、と思い十分に警戒して二郎も腕を伸ばして拳を合わせた。 モースは屈託のない笑顔で返した。次の瞬間、体を一回転させる。 「お礼だ!! オラァ!!」 「!」 モースの攻撃が二郎を襲う。不意打ちは予想はしていたので二郎の反応も良く動きも俊敏だった。 横から腕を振って来る攻撃を余裕をもって避ける。次の動作で中段へ拳を打ちつける。 「っつ! ヒャッハ!!」 鋭く半回転して向き直ったモースは長い舌を出して笑った。 「ヒャハハ。さすが草薙二郎ってか。一発貰っちまったなぁ」 モースは長い舌で獣のように伸びた爪と指先を舐める。 手刀のようにまとめた指からは赤い血が流れた。 「もっと深くえぐってやろうと思ったんだが、次は腕一本貰うぜ」 「なっ!?」 二郎は愕然とする。 胸から腹部にかけて服が切り裂かれていた。 攻撃自体は大して速くもなく、完全に視認までして避けた。 ―――なのに何故だ? 二郎の白いタンクトップが赤く染まる。出血しているのは腹部であった。 左手で腹部を押さえながら叫んだ。 「貴様何をした!」 「さあ、てね〜。言っておくが暗器の類じゃねえから安心しな。それにコレを見せたからには一回限りだしなぁ」 「…?」 二郎は徐々に染まりつつあるタンクトップをチラッと見て考えた。 そしてすぐに気付く。 避けた時は握り拳だった。それにモースのあの手刀。 つまり避けたと判断させてから手刀に変えて斬りつけたのだ。懐なので視界にも入らない。種さえ解ればこの技は何回もは通用しない、一回限りとはその事だろう。 しかし初撃にしたら十分なダメージだった。 「くそっ、卑怯だぞモース」 「ヒャーッハ!! あんた強いからなあ。それに俺としたら真っ当だ。切り刻んでやるぜ二郎!!」 モース・モースはもう片方の手も手刀に変えて二郎を睨み付けた。
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