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作品名:スーパーヒーローへの道 作者:ケンロウ

第22回   二郎とアンナの試合2
 二郎は劣勢だった。アンナの実力を侮っていた訳ではないが。
(こんなに強いなんて)
 体が悲鳴を上げている。
「ぐあ、がが」
 このままでは意識をいつ刈られてもおかしくはない。
 後ろに離れてもいいが生半可に離れてはスピードの速いアンナにすぐに追いつかれる。(それなら…)
二郎は後ろに引かず、逆に前へ出た。フックを喰らいながらも距離0にまで密着する。 腕を回しクリンチの形になった。ちなみにこの大会ではクリンチで試合は止められない。総合に近いのである。
 さすがにこうなったらフック連打はない。単発が関の山だ。だが、単発も来ない。アンナの動きも止まった。
「?」
 耳元でアンナの荒い息遣いが聞こえた。
「あ、二郎ごめん…その胸苦しい」
 はっとする二郎。慌てて離れる。
「すまん。勝負で夢中になってて」
 いや、待て。
 そして脳裏をよぎる。これは罠なのかと、次の瞬間には拳が飛んで…こなかった。
 アンナは紅潮した顔ではだけたTシャツを直している。
 解説兼実況者も思わず口を開く。

『おっと、ここでワンブレイクかぁ!? どうした、二郎選手』
 
「あっ、いやこれは」
 観客からも野次が飛んだ。

『ちくちょー。試合の流れでお触りかこのヤロー!! なめてんじゃねぇ』

「だから、故意ではないと…」
 うろたえる二郎に、
「二郎、もう大丈夫だよ」
服を直したアンナは戦闘準備完了とばかりにステップを踏んでいた。
「周りなんて関係ないよ。私今最高に楽しいの。さぁやろう!」
「そう、だな」
 張り手一発、自分の顔を叩き、気合いを入れ直す。
「っしゃ!! アンナには悪いが次で勝負は決まる。完全決着だ」
「とか言って私が勝ったりして」
 おどけて舌を出す。
 二郎は一瞬笑うと目を閉じ、足を踏ん張り、腕は脇に構えた。全身の気を高め丹田に集中する。最初の最初、大きな門でやった以上の気の練りようである。
 大気が震えている気がする。
 地鳴りがしている気がする。
 今日は地元のスーパーが5倍デーだった気がする。
 だが、二郎には感じた。空気がうねり広がって会場を包んでいる事を。
「なん…なのこの感じは」
 アンナは先ほどのように仕掛けにはいけない。二郎の異様な佇まいが躊躇させた。
 一滴の汗が額を流れる。
しかし動かない以上好機であるのは間違いない。足も大きく開いている。素早い対処はしきれない。アンナは決然と拳を握った。そして走る。
「二郎、行くよっ!!」
 二人の距離が一気に縮まる。片方は走り、もう片方は動かない、それどころか目まで閉じている。
(ここだ、二郎。私の勝ち)
 アンナは二郎まで一歩半、手前で前蹴りを放った。これを皮切りに連打に持ち込むはずだった…が二郎の目がカッと開くと前蹴りを予想していたのか難なく避け、爆発的な加速を見せる。
「そんなっ!」
「草薙流奥義その1、闘気流動破砕拳!!」
 踏み込んだ二郎の足がコンクリートにひび割れを起こし、丹田に溜めていた気を右腕に移動させる。その右腕は拳を作るとアンナの脇腹に放った。
「…っ!!!」
 アンナは声にならない。体中を電撃が走った気がした。
 重力を感じさせないほど吹っ飛んだ。空中を舞い、コンクリートに叩きつけられた。

『決まったー!! 二郎選手の容赦ない攻撃』

 審判は駆け寄るとすぐに試合続行不可能の合図をした。
 解説兼実況者が興奮した声を上げていたが二郎は急いでアンナの元へ走った。
 審判が叫ぶ。
「担架だ! 担架を用意しろ! 気を失っている」
 アンナは目をつぶり事切れたように仰向けに倒れていた。
「アンナっ!」
 二郎がアンナの肩を抱き、体を揺さぶる。
 それを見て審判が怒鳴った。
「何やってるんだ!! もうすぐ担架が来るから動かさないでくれ」
「しかし…」
 口に髭を蓄えた審判はため息をついた。
「それとも君は医者の資格でも持っているのかね? そんな風には見えないが」
 確かに二郎はそういう資格は持っていない。
「さぁ、のきたまえ」
「………」
 ゆっくりとアンナの体を離そうとした時、わずかに反応があった。うっすらとアンナの目が開いた。
「じ、二郎…わたし…」
「アンナ! 大丈夫か!?」
 審判も続く。
「君、大丈夫かね? 担架ならもうすぐ来る」
 アンナは拒否する態度をとって、
「だ、大丈夫です…私一人で歩けます」
 ようよう立ち上がったアンナの足取りは弱く、2、3歩して膝をつき座り込んだ。
「ほら、見たまえ! 悪いことは言わん医務室に行きたまえ」
 数人の男が担架を運んできた。
「あの〜、患者さんは?」
「こっちだ。そこの彼女を」
 二郎が審判の声をさえぎって、
「いや、俺が連れて行く」
「はぁ? 君ね〜。邪魔するのもいい加減にしてくれ」
 言い寄る審判に二郎は拳を突きつけた。
「うっ」
「すまない。確かに担架で連れて行ってもらった方が適切だろう。それでもアンナは俺が連れて行く。何故かは俺にも分からない、どうか俺のわがままを許してくれ」
 審判は視線を落とした。また、ため息をつく。
「君は前の試合の遅れといい、困った人間だ。好きにしたまえ。私は知らんからな」
 二郎を見ずに審判はその場を立ち去った。
「そういう訳だ。すまない」
 担架を運んできた男四人に言うと二郎はアンナを抱き上げた。
 俗に言うお姫様だっこである。
「ちょっと、二郎!」
「なんだ?」
「その、けっこう…はず…」
 アンナの表情は嬉しさ半分恥ずかしさ半分といった感じだが二郎にそれを読み取れるほどそっちの感情は長けていない。

広い通路を通ってから二郎は思い出した。
「う〜む、そうだアンナ」
「なに、二郎?」
「医務室はどこだっけ? 訊くの忘れた」
「…」


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