アンナは審判に勝利を告げられてからリングを降りた。 「…二郎はまだ帰ってないの? もう二郎の試合が始まっちゃうよ」 草薙二郎の姿は未だに見えなかった。 だが、大会は滞りなく進められる。 『第四試合〜、草薙二郎選手対ドルナンド・ウェル選手。両者リングに入ってください』 ドルナンド・ウェルがのそっとリングに上がった。 「うぉぉぉぉぉっ!!」 ドルナンドが吠える。 『いやぁ、彼はやる気まんまんですよ。この試合は期待出来ますね〜』 実況者はまたもや興奮を隠しきれない様子である。実況者は一枚の資料を取り出す。 『えーっとですね。ドルナンド・ウェル選手は前大会で決勝まで勝ち上がった選手でして今大会の優勝候補の一人のようですね。以上選手情報でした〜』 「おお〜」 ちらほらと観客が感嘆の声が聞こえてくる。 アイスの声が響く。 『おや? 草薙二郎選手早くリングに上がってください。 居ないのですか?』 審判も二郎を探すがもちろんいない。 『草薙選手、居ないのなら棄権とみなしますよ』 アンナが審判に駆け寄った。 「待ってください。二郎は今トイレに行っているんです。あと少しだけ待ってください」 「むっ、トイレか…あと三分待って来なかったら失格だからね」 「はい。分かりました」
三分後…。 「うーむ、三分経ったね」 そう言って審判はアイスのいるガラス張りの観戦室に向けて手を振った。 『ふぅ、やれやれ草薙二郎選手はどうやら棄権したようですね。ではこの勝負ドルナンド・ウェル選手の…』 「そんなぁ!!」 アンナの声が空しく木霊した、その時! どこからともなく叫び声が聞こえた。
「俺はぁぁぁ、ここだっ!!!」
なんと観客席から登場した草薙二郎は二階席からジャンプしてリング・イン。高さ約10メートルからのダイブである。 「二郎っ!!」 アンナの顔に笑みが戻る。 『…まったく草薙二郎選手、居るのなら早くリングに来て欲しかったですがね』 審判が急いでリングに上がった。 『まぁ、いいでしょう。それでは第四試合、草薙二郎選手対ドルナンド・ウェル選手の試合を始めます。レディ・ファイト!』 『カーン』 『さぁ、運命のゴングが鳴りました。ここからどういった試合展開になるんでしょうか』 ドルナンドは大きく息を吸い込むと、 「ぐふふ…二郎とか言ったな。ママのベッドが恋しくなって逃げ出したのかと思ったぜ。いや、むしろその方が賢明だったか。俺にわざわざ殺されにくるとは馬鹿な奴だぜ」 二郎は長い前髪を触る。 その仕草はゆっくりで考え事をしているように落ち着いている。 そして、こう言った。 「お前には無理だ」 「何っ!? 俺は前回決勝までいった男だ。そんじゃそこらの男には負けん。見ろ!!」 ドルナンドはもう一度大きく、大きく、息を吸い込んだ。すると体中の筋肉がみるみると膨れあがっていく。倍とまではいかないが六割増しといったところ。 「がははは、見たか。これが俺の技パンプアップだ。この筋肉から繰り出されるパンチやキックは言うに及ばず。二郎とやら死ねいっ!」 ドルナンドは膨れあがった巨体で二郎に向かってきた。 ぐははははは、と笑いながら。 走ったスピードで上背を生かしたパンチを放つつもりだろう。 しかし二郎は焦らず極自然体でいた。 落ち着いた表情だが、瞳の奥は鋭い光を宿していた。 「ならば、草薙流奥義…必殺、爆殺拳その3!!」 技の名前はともかく、ドルナンドの左ストレートを簡単に避けると気をフルに収束させた二郎の右フックがドルナンドの脇腹をえぐった。 「ばぶっ!! ぶひょっひょひょっ!! がはっが!」
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