なんの歌かは知らないが即興で作ったくさいメロディーで登場したワンは俺を見るなり魚の目玉みたいに目を丸くした。 「まさか、じ、二郎か?」と言うと心配そうに近寄ってきて、 「どうしたんだ……これは?」 「いや、何ちとスパーリングだ。しかもこれで2戦目だがな」 「誰とだ? そんなにボロボロになるまで、明日大会なんだぞ!」 怪訝そうな顔で覗き込んでくるワンから目線を離して、人差し指を突き出して前方にいるジェンへと向けた。ワンは指の線上を目で追っていくと自体をなんとなく察したらしい、声に真剣味が増した。 「相手は奴なのか?」 「ああ」 5、6メートル先の巨漢ジェンはあまりにアンナが動かないので任務達成と判断を決めかねているのか微動だにせず、巨像のように固まっていた。 壁に左手を添えてから俺は右手でくしゃくしゃの前髪を震える手で整えながら、 「すまん説明している暇はない。ワン、ここは俺一人で大丈夫だから部屋に戻ってくれ 「それは冗談か? 見たところお前は腕一本動かすのも精一杯に見える。約束したはずだ俺とお前は大会で雌雄を決すると。よけいなお世話かも知れんが加勢という形を取らせてもらう」 「ワン! しかし奴らは、」 「だまっていろ」 会話を強制的に中断して紙袋を足下に置くと、深呼吸を一つ。ゆったりと流れるような動作で蟷螂拳に似た構えをしてから陸上のロケットスタートの姿勢になった。ワンが顔を上げたかと思うと百メートル九秒台ぐらいの駿足でジェンへと走り、通路の半分ぐらいから右足を蹴り上げて空中へと飛んだ。ワンは全身がまるでバネだった。天井スレスレの高さを維持するほどの跳躍を見せた。そして降下運動から無防備なジェンの首もとに何十発もの正拳を連打する。 「はいいいいいいっ!!」 ここからでもワンの拳が奏でるドムドムと鈍い音が聞こえてくる。さっきの鼻歌よりかなり良いリズムで打ちつけてはいるが残念ながらジェンには効果があるようには見えなかった。事実すぐさまジェンの裏拳ともいえない邪魔だから振り払った感じの右手がワンを襲い左側の壁に激突する結果になった。 「ワン!!」と叫ぶ俺。 だがワンはすぐに立ち上がる。ジェンの背後に素早く回り込むと、再び地を蹴り、右回し蹴りをジェンの脇腹辺りに蹴り込む。常人なら上段蹴りであろう角度だが相手が2メートルを超える長身ではミドルになってしまう。ズドムと低く大きい音が会心の一撃であることを教えてくれた。これなら―――――― 「どうだ!!」 ワンも手応えがあったのか威勢よく言葉を吐いた。そして様子を見るように少し後ずさるワン。ジェンは反応もしない、倒れもしない、声も発しない。まるで同じ人間とは思えない妖気じみた不気味さを漂わせながらこちらに背中を向けてじっとしている。ワンの額から眉間にかけてひとすじの汗が流れ落ちた。 「こいつ、一体何者なんだ!?」 と、言い放った瞬間、巨体から想像もできないほどのスピードで一回転するとワンの体は宙を舞っていた。脱力しきったワンの体が空中でコマのように回っている。 それを遠くから見ていた俺には何が何だか解らなかった。ジェンは何かをしたのは確実だがあまりの速さに目がついていけなかった。無残にも俺の足下まで吹っ飛ばされたワンは完全に気を失っていた。 「くそ、強すぎる」 そうなのだ、強すぎるのだ。このタイツ野郎達は人間の能力を完全に超越してしまっている。スピード、パワー、そしてタフネスさ、その全てが桁違いなのだ。自室では強運と完璧なるカウンターで勝利したが今回ばかりはそううまくいきそうにない。なぜなら俺の体力が限界を超えているからだ、万が一最高のタイミングでカウンターを狙っても俺の拳より先にジェンの拳が体を貫くだろう。勝てないのか? アンナも助けれないまま俺はここで終わるのか? いや、違う!! 「俺はスーパーヒーロー草薙二郎だ。俺に不可能はない」
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