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作品名:騎士は永遠に君の騎士に 作者:茉莉

第9回  

5月。



今日はつい先日に行った学力診断テストの結果発表。一応僕なりには全力を尽くしたつもりで、もしかしたら予想以上の点数かもしれないという淡い期待までするほど、今回のテストには自信があるのだ。僕はじっと名前を呼ばれるのを待った。

「榎本和樹。」

僕は顔をぱっと上げ、教授のもとへ向かう。この時間は所謂個人面談みたいなもので、前の教壇で一人ずつ教授と今後の話をするのだ。眉間に皴を寄せながら教壇までの階段を下りていった。
「おお、榎本。今回は良く頑張ったな。このまま維持且つ伸ばしていけば、第一志望の都立高校での教育実習は余裕で合格圏内だろう。」
「はい…。」
一応難関の高校の教師を1年のときから志望校としてきた。理由は絶対僕には届きそうもなかったから。それと、大人のウケがいいから。
「しかし、1年のときには予想もしてなかったなあ。あの榎本がここまで学力を上げてくるとはな。いやあ、私も鼻が高い高い。」
教授が笑う隣で僕は真剣に眉間に皴を寄せていた。このまま先生になればいいのかもしれない。けど、やっぱり僕はそんなことは望んでない。小学校でも中学校でも高校でも、教師になればもちろん「せんせい」と呼ばれることになる。僕を「せんせい」と呼ぶ。そう考えて僕はこれ以上考えることをやめた。
「いやいや、最初から君には目をつけてたんだぞ?それがまさかこんな快挙をあげてくれるとは…喜ばしいこと他にあらず。第一なんだからもちろん実習に行くだろう?」
「え?」
僕は言葉を濁した。今の僕にはその質問に素直に頷けるものを持ち合わせていない。
「ん?榎本?あ、もしやもっと上を狙いたくなったのか。はは、それは結構結構。まあ進路は君次第でどうにでもなる。たしかにあの都立高校はいいところだが、さらに上はまだまだある。じっくり考えていい答えを聞かせてくれ。」
この教授は本当によくしゃべる教授だと改めて確信した。ましてや都立高校より上だなんて、よく出てきたものだ。とりあえず教授の話がひと段落した隙を狙って、僕は席へと戻って行った。






「和君はどうしたいの?」
いつになく真剣な目で彼女は僕を見据えている。
「和君の進路は和君が決めるものだから、あんまり私が口出しするのもよくないと思うけど…。」
すると彼女は自分のことのように悩みだした。
講義が終わり、大学の近くのカフェで彼女とデートという名の相談会議が行われている。
「奈央がそんなに悩まなくてもいいから。僕のこと…だしね。まあ、僕なりの答えが出たら奈央には一番に報告するよ。」
そう言ってこの話を終わりにしようと僕はカップに口付けた。口先からは苦いコーヒーの味が広がる。
「うん…。けど、どうして和君は教育学部にしたの?」
奈央が両手で持ったカップで口元を隠しながら控えめに聞いてきた。たしかに教師になりたくないとか言っておいて、教師になる人のための学部になぜいるのかとは不思議に思ってもおかしくない。その理由は彼女にでさえ告げていない。彼女自身、聞いてはいけないことだろうと察知していたのか、今までこうやって聞かれたことはなかった。かと言って僕自身もそう簡単に話せる事柄でもないため、口を開くことはなかった。
「それは…。」
そう言いかけて、僕は口を閉じた。今言うべきことじゃない。なんとなくそう思った。
「そんな下らないことより、今度の日曜、久しぶりにどこか行かない?」
僕のはぐらかしの笑みに不信感を抱きつつも、彼女はうん。と笑顔で答えてくれた。そんな彼女の優しさに、やっぱり僕は彼女が好きなんだと再確認した。



その夜、携帯に彼女からの電話があった。

「奈央?」
「夜にごめんね。和君に伝えておかなきゃいけないことがあったから…今、時間大丈夫?」
おっとりしたいつもの彼女とは違う、なにかに迫られるような緊張感が電話口から感じられた。
「うん、大丈夫だよ。いったいどうしたの?」
そんな彼女を落ち着かせるかのように僕はなるべくゆっくりと優しい声で話す。
「あのね…、もしかしたら和君、聞きたくなかったって言うかもしれないんだ。私も言った方がいいのか言わない方がいいのか…和君のことなのにわからなくて。ごめんね。」
今度は少し弱々しい声で言葉を紡いでいく。いつもならこんなにもったいぶることのない彼女のことだから、抱えているのは相当大きな話なのだろう。それに僕に関しての事となれば、無理にでも聞かせてもらうより他はない。その僕のことで現に彼女はうろたえている。彼女を苦しめているのは僕なのだと確信すると、先ほどより柔らかい声を彼女に届けた。
「奈央?僕のことなんだよね?そんなに奈央が慌てなくて大丈夫だから。時間もあるし、ゆっくりでいいから奈央の言おうとしてること聞かせて?」
すると向こうでふうっと大きな息を吐く音がした。そんなに彼女の感情を動かすような話なのだろうか。
何も知らない僕はただただ、彼女が話すときを待った。



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