時計の中の短い針が3を過ぎている。 「んんっ…。ママ…?」 僕は昼寝から目が覚めた。寝たまま辺りを見回せば、僕の寝ていたリビングには人の気配はない。そのまま目を近くの時計にやると、母さんの帰宅時間である3時を過ぎている。それを確認した僕は、目をこすりながら母さんの寝室へと向かった。トコトコとつたない足取りで壁をつたって、リビングを抜けた左側のドアまで歩いていく。すると、いつも閉まっているはずのドアに隙間があった。いくらドアを開けようとしてもドアノブまで手が届かない僕にとってはとても助かることだったが、ドアの隙間から踏み入れかけた僕の足は、手は、目は、頭は…すぐに止まった。
「ん…、あっ…。ゆう…じくっ…。」
―聞いたことのない母の声。
“ぎしっ…ぎしっ”
―規則正しく聞こえる軋んだ物音。
「マ、マ…?」 母さんの部屋にいる人は、僕の母さんじゃない。僕の全身をものすごく気持ちの悪い風がざあっと駆け巡って、足がすくんだ。 “どさっ”
―アノヒトハ、ボクノカアサンジャナイ。
僕の体はその場で崩れ落ち、得体の知れない恐怖で目からは涙という血が流れ、喉からは泣き声という叫びが漏れた。 「か、和樹!?」 「和樹くん!?」 部屋の奥から現れた母さんは、長い栗色の髪を乱し、バスタオル一枚という風呂上りでも、父さんの前でも見せない姿をしている。するとそのまた奥からは眼鏡を外し、上には何も着ていないせんせいの姿が僕の目に映った。
―ナニをしていたの?
それから僕はせんせいをもっと嫌いになった。 嫌いが大嫌いになった。 せんせいの言うことをひとつも聞かなくなった。 せんせいに母さんを近づけちゃいけない。 せんせいから守らなきゃいけない。 じゃないと、母さんは母さんじゃない人になるから。
だれが母さんを守るの? 父さん? 父さんはいないんだよ。
僕? 僕なんだ。
そして…
僕は母さんを守ると決めた。
―母さんの“騎士”になると決めた。
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