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作品名:騎士は永遠に君の騎士に 作者:茉莉

第1回  
僕は小さい頃から母さんの従順な騎士だった。

僕だけが母さんを救えると思っていた。

でも僕がいくら母さんの騎士でもどうにもならない事もあった。

あの時にドアの隙間から見ていた光景が、今僕の目の前に広がる。こんな風に男に組み敷かれて怖くなかったんだろうか。父さんじゃない人に。でも、それは一回じゃなかった。段々と、せんせいは母さんが帰ってくる時間までに僕を寝かせるようになった。そして、僕が目を覚まして母さんの部屋を覗くと、必ずせんせいがいた。ベッドの上に。幼いながらも僕は、それは「いけないこと」なんだと感じた。「いけないこと」をしているのに、せんせいが帰ったその後の母さんは僕に優しくなる。母さんにとって「いけないこと」は「嬉しいこと」だったのかもしれない。だとすると…そうか。ふたりの間には愛があったのだ。母さんの愛は父さんに注がれることなく、僕のせんせいに全て吸収されていたんだ。父さんがいない間に。
僕は気付けなかった。
僕のせんせいのせいで…僕のせいで母さんと父さんが離れたことを。



ふっと我に返ると、僕は裸でベッドの上に座り、目の前には付き合って2年が経つ僕の彼女がしなやかな裸体を晒しながら、その綺麗な頬を紅く染めて仰向けに僕を見ていた。
「えっと…ごめん。」
男として大事な時に僕は夢中で考え事をしていたのだった。とっさに謝ると、彼女は紅い頬をさらに赤く染めて、熟れた苺のように可愛い小さな唇を動かした。
「緊張してるんだよね?…私もだから。ゆっくりしよう?」
僕らは付き合いが2年経つにも関わらず、全く肉体関係がなかった。いや、彼女は付き合いの当初から期待していたのだろう。デートの最中にも彼女からの誘いらしきものは幾度となくあった。けれど、それをことごとく払いのけてきたのは他の誰でもないこの僕で、そんな僕にあきれることなく今までついてきてくれたのは他の誰でもないこの彼女だ。不思議にもそんなやりとりが続いて今日で2年。所謂今日は記念日というヤツで、さすがに今日の今日まで待たせ抜いた彼女に悪いという気持ちがいっぱいになった僕は、頑なに奥のほうにしまっておいた男をようやく奮い立たせたのであった。
「じゃ、じゃあ…いくよ。」
僕の言葉で初めての体験が始まった。

無知で初めてな僕にしては、上手くできたほうだと思う。彼女は僕に体を預けて静かに寝息を立てていた。僕は彼女の頬を優しく撫でながら寝顔を眺める。どうにも「愛しい」という気持ちが溢れた。本当に好きな者同士だからこそ生まれるこの感情。
すると、母さんとせんせいの間にもこの「愛しい」という感情が生まれていた…?確かに僕は今優しい気持ちに包まれている。愛しさ、優しさ、事を終えた充実感。まるであの時の母さんの顔みたいな優しい気持ち。ずっと一緒にいて守ってあげたいと思う気持ち。
この気持ちに気付いた僕は確信した。母さんとせんせいは愛し合っていたんだと。




4月。
僕と僕の彼女は大学3年生に進級した。学科こそ違うものの、登下校と昼食の時間だけいつも一緒にいる僕らは、もちろん今日も昼食を共にしていた。今日の彼女は長い栗色の髪をカールさせて、頭には水玉模様の赤いカチューシャを付けている。メイクは濃くもなく薄くもなく、彼女らしいものだ。服も露出はしない。まあ4月だからということもあるだろうけど、今日の淡い緑色の長袖ワンピースの丈は膝より少し下辺り。他の男の前に出す分には安心だが、彼氏の僕としてはいまいち、こうグッとくるものがない。良いものか悪いものか。そんな風に考えながら彼女をぼうっと見つめていると、彼女は頬を紅くして僕に話しかけてきた。
「あの、そんなに見られたら、いくら2年付き合ってても恥ずかしいんだよ?」
「ああ、ごめん。ちょっと奈央に見とれてた。」
そう言って爽やかに微笑んでみせる。こういうちょっとした言葉に女性は喜ぶものだと、たしかどこかの本に書いてあった。すると、マニュアル通りに彼女はもっと顔を赤くする。
「和君ったら…。」
彼女の顔は湯気が出てきそうなくらい真っ赤に染まる。僕はこんなあったかいやり取りが好きだ。別に性的な交流がなくとも、これだけで幸せな気持ちになれる。まあ僕のこんな考え方のせいで初体験が最近になっちゃったんだろうけど。彼女は、はいといって弁当の包みを僕に渡した。昼は学食じゃなくて、大抵は彼女の作る弁当になっている。

そういえば僕の彼女を紹介してなかったから、改めて紹介しようと思う。彼女の名前は石崎奈央。僕と同い年の大学3年生で、僕とは高校で知り合った。大学は僕と同じF大学だけど、薬学部に所属している。一見のんびり屋に見える天然な彼女は、本当は学年トップという実力の持ち主だったりする。でも僕の前ではそんなことを思わせない可愛い彼女だから、それはそれでいいと思ってる。もし彼女が自分の学力を自慢する子だったら、たぶん僕がついていけない。それに彼女がすごいのは学力だけじゃない。いかにも女性らしい、料理、お菓子作り、手芸、ピアノが趣味だったりする。あくまでも趣味だからそんなにすごいものじゃないけど、人並みにはこなせてるから僕はすごいと思う。そして、彼女本人には絶対言わないけど、奈央は僕の自慢の彼女だったりする。

あ、僕自身の紹介もしてなかった。僕は榎本和樹。F大学の3年生で教育学部に所属している。もちろん彼女のように学年トップなわけがない。僕の成績は平々凡々で、彼女の方が絶対に頭がいい。将来は一応学校の先生とかいう表面上の目標があるけど、実際、僕の心はそれを望んでいない。そんなよくわからない複雑な心境の僕が、なぜ教育学部にいるのかは後々に教えようと思う。

この物語がこんな情けない彼氏の僕・和樹と、学年トップで賢いけど僕の前ではただの可愛い彼女・奈央との温かいラヴ・ストーリーなら良かったんだけど、これから始まるのは僕自身の物語。決して温かいものじゃないかもしれない。でも語りたいと思うから語る。


「愛情」を問う全ての方々に僕の精一杯の想いを込めて。



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