待ち合わせの時間に少し早めについてしまった。大きな時計のオブジェの周りを見渡して待ち合わせ相手がいないのを確認する。といってもその相手を確認する術もないのだが・・。俺はとりあえず、窓から待ち合わせ場所が見える小さな喫茶店に入ることにした。 カランコロン 「いらっしゃいませ」 店に入ると辺りを見回し、窓際の二人用のテーブルに座った。 煙草に火をつけていると、ウェイトレスが水をテーブルに置き、 「ご注文はおきまりでしょうかぁ」 徐に顔を上げその子の顔を見てみるとその気の抜けた声からは想像できないような大人びた気品のある感じの顔であったが、何か考え事をしてるのか、ぼーっと窓を眺めていた。特に喉が渇いてるわけでもないし、水だけでもよかったのだが、店に入って何も頼まないのもあれだから適当にメニューのコーヒー覧を見渡して 「じゃあブラックで」 彼女はぼけっとした声で 「かしかまりましたぁ」 俺は煙草を吹かしながら窓の外の通行人を眺めていた。サラリーマンが忙しく歩いている。まぁ平日のこの時間帯なら当たり前であろう。 「お待たせいたしましたぁ」 彼女は紅茶と伝票を置くと、そそくさと奥へ引っ込んでいった。ん?待てよ、紅茶?俺は確かコーヒーを頼んだような・・。いや確かにブラックコーヒーを頼んだはずだ、この色からしてブラックコーヒーではない、いや、もしかしてケチって何倍にも薄めて・・。いや、違うこの気品のある俺には似合わない香りは正しく紅茶だ。俺は三十秒ほど紅茶と睨めっこしてみたが、それがコーヒーに変わる様子は全く無かった。ウェイトレスを呼ぼうと手を挙げかけたが、わざわざ取り替えてもらうのも、面倒くさく、紅茶を飲む気にもなれない。仕方なく紅茶にも手をつけず席を立とうとしたがさっきの子が慌ただしくこっちに歩いてきた。 「すみません!」 小さい店に声が響いた。 「ブラックコーヒーでしたよね。すぐに お取り替えします!」 きっと他の客のと間違えたのだろう。煙草の火をもみ消し、俺はゆっくりと席を立ち伝票をレジに持って行きコーヒー代を払って店を出た。時計を見ると、五八分一三秒だった。 ポケットから封筒と紙切れを出す。 「お久しぶりです。突然こんな手紙迷惑だと思ったんでが、私の子供が今年十七歳になります。わかったかと思いますがその子はあなたの子でもあります。私はいけませんが、娘が○○広場の時計のオブジェの下で待っています。午後三時ちょうどにここに連絡ください。090××××××××」 携帯を取り出し番号を打ち込む。一息ついた後、通話ボタンをおした。安っぽい通話音が耳につく。 真後ろから着信音が聞こえた。 「ブラックコーヒーお待たせしました」
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