翌日、私は昨夜の出来事で頭が一杯だった。 真千子が私のことを好きだったということ、私も真知子のことを好きだと告白したこと。それが余計に私たちの仲を気まずくしてしまった。
真千子は自分のアパートのドアに鍵をかけた。 朝日が非常に眩しかった。 私は両手で陽を遮った。そして、真千子の持っている鍵が目に入った。汚れの目立つペンギンのキーホルダーだった。 ずっと使ってきたんだなと思った。
私たちは一緒に登校した。 お互い、何も話さなかった。なぜ、話をしなかったのだろうか。 いつもなら、こんな雰囲気になれば、真千子から何か話題を持ちかけていた。 やはり真千子も気まずくなってしまったのだろうか。
大学の入り口を通り過ぎた。 その日の1限目、私と真千子は別々の講義を履修していた。真千子は右手を上げて「じゃ、またね」と言った。私も軽く手を振った。私と真千子は大学の中庭で別れた。
私は真千子が講義のある校舎へ入るまで、ずっと彼女の背中を、風になびく髪を見ていた。その時私は何を思っていたのだろうか。 風が心地よかった。
講義中、私は窓際でずっと真千子のことを考えていた。雲を見つめて考え事をしていた。 それは、本当にこれでよかったのかという不安的な考え事だった。
普通、好きな女の子に自分の気持ちを伝え、相手も了承してくれた場合、嬉しいはずではないだろうか。 しかし、私はなぜか素直に嬉しいとは思えなかった。
それは、愛を告白してしまったことで、何かが悪い方向へ向かってしまったのではないかと言う不安だった。
あれほど真千子に「好きだ」という気持ちを伝えたくていたのに、なんとも私は贅沢な人間だと思った。 今まで、大きな変化を望んでいた私であったが、変化しようとしたとたん、今までの平穏な生活が逆に懐かしくなった。
私はため息をついた。
その日のお昼、私は真千子と学食前で会った。 珍しく、今日は真千子も学食にお世話になる。
「ね、何が美味しいの?」
私は真千子のその疑問に驚いた。
「何が美味しいのって?どれもうまいよ・・・」
私は今まで、学食のメニューの何が美味しいとか不味いとか、考えたことも無かった。なぜならば、お昼は食べれればそれでよかったからだ。
私はとりあえず、から揚げ定食をすすめた。 初め、真千子はこんな脂っこいの食べたくない、といったような顔をして、しぶしぶ食券を買っていた。
「どお?」 「そうね、意外と美味しいじゃん?」
真千子は学食のからあげ定職を、予想していたよりも美味しいと評価した。 私は安心した。自分がすすめた物が不味かったらどうしようかと不安だった。
これは今日の一番長い会話だった。 やっぱり、違和感があった。それは、真千子が目を合わせてくれないという違和感だった。 いや、私も真千子の顔をまともに見なかった。だから目を合わせないで会話したのだろう。 いつも、目を合わせるとまではいかなかったが、せめて顔を見て会話をしてた。だから違和感を感じた。
お互い、意識しすぎていたのかもしれない。
そう、その通りであった。私たちはお互いを意識しすぎてしまっていたのだ。これがぎこちない理由だったのだ。
「ねえ、今度の土曜日…」
私は以前、真千子をデートに誘おうとして、誘えなかったことを思い出し、もう何も考えずに話をはじめた。
「今度の土曜日さ、真千子さん、暇?」
真千子はなんだか嬉しそうで、その嬉しさを押し隠したような顔をして私を見た。 今日、初めて目が合った。
そして間があいた。 真千子の顔を見て、こんな顔だったんだと思ったのだから、結構、間があいた。
「ええ、どっかに行くのなら、私も付き合うわよ…」
なんだか今日の真千子の言葉にはトゲがある。
「なんだよそれ、どうでもいいって感じの言い方…」
私は真千子のトゲのある言い方が気に食わなかった。 しかし、真千子の赤くなる表情を見ていたら、面白くなっていた。
「真千子さん、直ぐ赤くなるね、顔〜」 「な、なによそれっ!で、どこに行くの!」
私はどこに行こうか考えていなかった。ただ、真千子とどこかに行きたかった。
「ううん、だな、仙台にでも行く?服でも探しにいこうか」
私は真面目に答えた。そういえば、最近、仙台に行ってなかった。それに仙台だったら食事にも困らない。 一度、女の子と2人で入ってみたかった店もあった。
「仙台!?」 「うん、仙台」
真千子は腕を組んで、首を傾げて考えていた。
「私は山に行きたい」 「やま!?」
山に行ってどうするんだろう。私は疑問だったが、真千子が行きたいというならそれを叶えてあげたいと思った。
「いいよ、行こうかー!」
こうして、私たちは今週の土曜日に“山”へ行くことになった。 私は、これで変なもやもやが取れるのではないかと思った。
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