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作品名:追憶 作者:サトー中尉

第3回   苦悩の追憶
飲み会の翌日、土曜日。
私は今日が休日であることを悔しがった。

休日では真千子に会えない。
携帯電話の番号を知らない。
こういう日に限って、聞いていればよかったと後悔する。
いつも一緒だったから、聞かなくても支障は無かった。

あの後、真千子はどうなったのだろうか。

浦島先輩と会っているのだろうか?
心配で、不安で、どうしようもない・・・
真千子と浦島先輩が仲良くやっている姿を想像してしまう。
その姿を思い浮かべ、浦島先輩に対しての悔しさが沸く。

そう考えると、真千子のことが好きで好きで、気持ちを抑えられない衝動にかられる。
今すぐ会いたい一心だった、
しかし何も出来ない自分と、ただ考えて悩み落ち込むだけの情けない自分がいる。
そして愛とか恋とかしょうに合わない、女々しい自分が嫌になる。

・・・そういったことばかり頭に浮かんできてしまう。
頭の中をぐるぐる駆け巡る。

私は今まで、クールに生きてきたのだ。
「男」だったら寛大で冷静で知的で清潔で、やさしく、たくましく、頼りになり、
女の子の前では、少しクールな男性を演出してきた。
弱音は吐かず、たまにカッコつけ、芯の通った男を演じていた。
・・・つもりだ。

しかし、今の私はそんな私ではなかった。

自虐に近い弱音ばかりが頭にあり、
髪もセットせずにぼさぼさで、芯もグラァグラァ揺らいでいる。
こんな男、誰が頼りにし、ついてきてくれるものか・・・

恋に悩み、愛に苦しみ、
昨日までの自分だったら、どうでもいいようなことだが、今は夢中で悩んでいるのだ。
私はコントロールできない感情を、どうしてもコントロールしようとしていた。
その姿はとても惨めで情けなく、ベッドの上でただぼ〜とするだけだ。
何か起こるわけでもなく、自ら行動を起こそうとするわけでもない。

「会いたい」「知りたい」といったわがままだけが、
自分可愛さ故の慰めであり、また自分を苦しめているのだ。

「ああああ・・・、どうしたらいいんだ・・・・」
ゴンゴンゴンゴン、と壁に頭をぶっつける。

「クラキさ〜ん、うるさいですよ!」
アパートの管理人が戸を叩いて隣人の苦情を代弁する。
しかも私の名前を間違えている・・・

こうして、一日中、部屋を暗くして引きこもりのような1日を過ごした。
最悪、最低の日だった。
唯一つ、救いがあった。
それは、ここには私、独りしかいないということだった。

翌日、私は気を取り直して街へ出かけた。
気持ちはとてもやるせなかった。
しかし、家でくよくよしていても何も始まらない事はわかっていた。

私は自転車の鍵を外し、近くの本屋へ出かけることにした。

微かに、出かければ真千子に出会えるのではないかといった期待感があった。
彼女は本屋が大好きで、2時間は時間を潰せると言っていた。
もしかしたら、今日、真千子が本屋にいるかもしれない。

本屋に着いた私は、彼女がいそうな新書のコーナーへ行った。
答えはすぐに分かった。
彼女がそこにいるはずも無かった。
新書のコーナーにどんな本が置いてあるのか分からない私にとって、その本棚は非常に無機質に思えた。

当たり前な結果に肩を落とすことも無く、自分の見たい雑誌コーナーへ足を運んだ。
ついに真千子に会うことは無かった。
会えなくて当たり前だと思いながら、私は街をぶらぶらし、そのまま何も買わずに家に帰った。

私は家に帰り、夕飯の支度をしながらTVの電源をつけた。

別に何かの番組を観たいとかいうのではなく、ただ電源をつけた。
何の面白みもない夕飯の支度中の、ほんの“暇つぶし”だ。

TVに移ったのはニュース番組だった。
その日のニュースは中華人民共和国の反日デモを取り上げていた。

「先ほど、中国政府は日本政府に対し、
 尖閣諸島を中国の領土だと認めるよう打診してきました。
 それに伴い日本政府は・・・」

こんなニュースは、私にとっては全くの縁の無い事だった。
ニュース映像は、北京市街に飛び上がる黒煙や花火のような爆破映像だった。
他人のことの様に見ていた。

「ご覧下さい!カメラさん、見えますか!?
 中国政府の要求を拒否した日本政府に怒りを覚えた中国人が、
 日本人の経営する店舗などを襲撃しています!
 
 (パーン!パーン!ガシャン!! )

 きゃぁ!」

TVには逃げ惑う日本人報道者、
襲撃される日系店舗、

毎年毎年、
こんな中国人による反日デモ映像を見ていたせいか、あまり深刻にさえ思えなかった。
かつて、日本も中国人に対して同じことをしてきたんだ。

・・・そう教えられてきた私である。
日本人は襲撃されて当然だと心のそこから思った。

デモはただ事ではないようだったが、
私は半ば「日本人よ、ざまみろ」と思わんばかりにニュースを見ていた。

そろそろ目玉焼きもいい具合に出来上がったのでTVを切った。
こんな暗くてどうでもいいニュースを見ながらご飯を食べようとは思わなかった。

目玉焼きは焦げてしまっていた。


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