香織達は横一列に座ると1番上の問題の入った封筒を手渡し、 主催関係者は丁寧に鋏で封筒を開封し、解答用紙を香織達に手渡す。 制限時間は5分、そして香織達に問題を手渡すと同時に5分経てば、 アラームの鳴るタイマーのスイッチを押した。 問題は『歴代の総理大臣において、山口県出身者を全て答えよ』との内容であった。
第1問目から難問が香織達に提示された。4人それぞれ必死に考えている。 香織は高校の時から日本史というものが苦手であった。 日本人なのに自分の国の歴史を知らないなんてとよく日本史の先生に言われた事を思い出す。自分の国の事を曖昧にしか知らないのは全世界探しても日本人だけだ。 今思えばほんとに恥ずかしい。他の国では当然の事を知らないのだ。
無情にも300秒は香織達には短すぎた。1つ目の問題は答えられないまま、 2つ目の封筒を手渡した。 『では次は頑張って下さい』と感情もなく機械的に事務処理をこなすように 問題を手渡した。
『残り4問中、1問で1次通過なんだ』
この香織達の余裕は次第に焦りに変わっていく…
『2問目です、ではご解答お願いします。中学生レベルの問題ですね』 これなら4人の力で解けるかもしれない。 問題を手渡され、タイマーのスイッチが入る。
【問題】 白銀10%、亜鉛60%を含む合金Xと白銀60%、亜鉛20%を含む合金Zがある、 これらを混ぜて白銀2,1kg、亜鉛1,9kgを含む合金を作る。合金Xと合金Z それぞれ何kgずつ混ぜればよいか?
これが中学生レベルの問題なの… 香織達の表情が強張る。中学生レベルなのだから数学の問題であるのは 理解出来たのだが、計算式すら出てこない。また無常にも300秒はあっという間に 過ぎていく… 『あと3問中1問正解すればいいんだ…』相島が4人に声をかけるが、 その表情は曇ってきている。問題のレベルが高い。相島は学生の頃、 因数分解や古文、物理など所詮受験の為だけの勉強で実社会では 役に立たないものと思っていた。でも今は違う、そういう勉強は 学生時代の時にしか出来ないもので、社会に出ると勉強したくても 出来ないという後悔をする。学生の時には決して気付かないのだが…
『では3問目です、ラッキーな問題ですね、頑張って下さい。』と言われ、 3問目を手渡される。もうどんな言葉をかけられても最初の封筒を手渡した 余裕も言葉少なく香織達から消えていた。3問目が手渡された… 『ソラの上にあるもの…カタカナ1文字で答えよ』4人はまた絶句した…
『空の上にあるもの…』 『カタカナ1文字…』
宇宙ではない…カタカナ4文字になってしまう。 300秒のカウントダウンが始まった。 相島は黙り込む、大友は頭を抱える、千夏は俯く、そして香織は呆然としている。 時間は真綿で絞めるようにじわじわと過ぎていく… 残り1分が過ぎた時に、『あっ!』と千夏が頭を上げ誰にも相談せず、 解答用紙にカタカナ1文字を書いた。そしてその用紙を渡す。 『あっ、来島さん!』思わず相島は千夏の思わぬ行動を阻もうとしたが、 既に解答用紙は関係者の手の中にある。
『よくお解りになりましたね、おめでとうございます』と関係者が言うと、 一旦奥に入り、1次予選通過を表すバッジを4人に手渡した。 『来島さん、何て書いたんだ?』相島は千夏を見て言った。 『実はね私、音楽は5だったんだ』千夏は笑顔だ。
その頃、落胆の色を隠せない浩平達。その横を1度は無効という結果で落胆していた 人達が今度は前のような失敗はしないと言わんばかりか、次々と駆け足で 通り過ぎていく。その数は既に40組を越えている。1次予選通過は25組、 そしてその落胆が更に大きくなるアナウンスが流れる…
『10組目の1次予選通過が決定致しました、残り15組です。』 『あ〜あ、もう無理かもね』優子が健吾に向かって話しかける。 『もうかなり厳しいな』今度は健吾が浩平と遥に呟くように声をかける。 そして『20組目の1次予選通過者決定です、残りの席は5組』
このアナウンスを聞いて、優子はしゃがみ込んでしまった。 優子のあとを追うように浩平達も通路にしゃがみ込んでしまった。 『終わったなぁ』思わず浩平は呟いた。 みんな同じ気持ちだった。1次予選を通過した組が笑顔で浩平達の前を通り過ぎていく。 残り5組の席を取る為に、3度目の正直で駆け出す人達も浩平達の前を通り過ぎていく… その時、1組の社会人のグループと思われる人達が浩平達に声をかけてきた。
『おい、大丈夫か?気分でも悪いのか?』しゃがみ込んで俯いている優子に すらりと日焼けした男性が声をかけてきた。 『大丈夫です』か細い声で答えるのが精一杯の優子、 『大丈夫?』年上の色っぽい女性が浩平に話しかける。 浩平はため息混じりで、『えぇ、大丈夫です、1次通過されたんですか?』と 返事をすると、後ろに立ってる大柄な男性が『何とかね!』と笑顔で答える。 『もう探さないの?』と続けて大柄なな男性が声をかけると、 遥が『もう間に合わないと思うし…』と言うと俯いた。 『先輩、残り2通ありますよね?もう必要ないし彼らに渡したら?』と 大柄な男性が言うと、『いい事言うじゃん』と小さくてかわいい女性が言い、 大柄な男性の背中を叩く。『はい、これ』浩平にさっきの大人の女性が封筒を渡す、 しかももちろん未開封。『良いんですか?』浩平はその封筒を受け取り聞き返す。
『えぇ、どうぞ』と言うとにっこりと笑う。4人は先程までの落ち込みが嘘のように、 すっと立ち上がり、御礼を言う。『健闘を祈るよ』と最初に声をかけてきた男性が 言うと、その人達は歩いて、その場から離れていった。
『まだ可能性はある、しかもチャンスは2回』浩平達は封筒を握りしめ駆け出した。
本日2回目の会場は最初に来た時よりは人は少ないが緊張感は今のほうが数10倍も 上である。残る席は5つ、浩平達が会場に入った時には10脚のテーブルは既に 埋まっており、これが間違いなくラストチャンス。
『よし!』『やった!』浩平達が並んだ時に2つのテーブルから声がした。 あと3組、ここでミスをしたらもう終わりだ。5分間が今までになく長く感じた。 あと1組すれば席に座れる、まさに綱渡り状態。左隣のテーブルでは間違えたのか、 がっくり肩を落とした浩平達と変わらない位の年齢のグループがいた。 『間違えたなら早くどけよ!』後ろから罵声が飛ぶ。まさに今ギリギリの殺伐とした 状態が会場内を包んでいる。
『何だか怖いね』と遥は浩平に小さな声で言うと、『大丈夫だよ』と返事をした。 『危なかったぜ、よっしゃ』遂に残り2組… 益々、会場内は異様な空気に包まれていく。テーブルに座っても、 後ろに立っているグループから無言の圧力がかかる。『早く間違えろ。』 『早くどけよ。』1番端のテーブルではつかみ合いになっており、罵声が飛ぶ。
関係者が取り持とうとしている。 やっと浩平達の番が来た。『よっしゃ、ラストだ』と健吾が言うと、 前に座っていたグループのリーダーらしい男性が、『畜生!』と言い、 テーブルを叩いて立ち上がり、すれ違い様に『間違えろ』と捨て台詞をはく。 健吾は『何だと!』と食ってかかろうとしたが、浩平はこれを抑え、 テーブルに着く。テーブルの後ろからは『間違えろ』の圧力がかかる。
チャンスは2回、これが本当のラストチャンス。主催関係者に問題の入った封筒を渡す。開封され問題が手渡された。
『台所付近で多く見られる物、【÷84】とは?』
『何だよ、これは?【÷84】って?』健吾は問題を見て思わず呟いた。 問題自体を理解できない。5分のtimelimitは刻一刻と迫ってくる。 何も出来ずまま、150秒が過ぎた。テーブルの後ろからは、 『解らないなら諦めろよ』とボソッと声が聞こえる。浩平達は雑音を気にせず、 問題を見つめる。
【÷84】とは…。
『わる84』 『なるほど!』健吾は思い切り浩平の肩を掴み、満面の笑みを浮かべ、 解答用紙に記入した。 『おめでとうございます』と関係者は4人に拍手した。
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