夜風が吹いていた。何処から来るのか分からないが、無臭ではないため、空を何度も駆けて行ったのだろうと理解した。
鈴音の年齢は二十歳。ひっきりなしに訪れる男達はここ数年、鈴音の顔を見ていない。十六歳の頃から、家にひきこもるようになった為、それ以前に鈴音を見かけたのだろう。それとも、話しただろうか。鈴音は、ここ数年誰とも会話していない。両親でさえも、口を開く事は無い。もっぱら手紙のやり取りだ。 それもただの一言、二言。
屋敷の二階の部屋の一番奥の一番小さい部屋にいる鈴音は、あれだけ美しかった髪質も今では枝毛だらけで、三週間に一回、風呂に入る為、フケやアカがたんまりとへばりついてる。手入れされていた爪は伸び、顔はニキビだらけ。極めつけは全身に付く脂肪のかたまりだ。鈴音は自分が醜くて醜くて仕方なかった。しかし、外から聞こえてくる声は明らかに飽きない言葉達だった。
「鈴音さん、僕と付き合ってください」
「鈴音さん、好きです」
「鈴音さん、お美しいお顔を拝見させてください」
その言葉を聞くだけで、鈴音の心は自分の醜さを半減できた。昔も今も変わらないのは鈴音のプライドでもあった。今にも飛び出して、男達の元へ行ってしまおうか。何度も心で思ったが、今、出たら、きっとおばけに間違えられるだろう。この不気味な屋敷にもこない。そして、もう二度と、自分へ向けての言葉がなくなると思うと恐怖でしかたなかった。しかし、昔の栄光が忘れられないのか、鈴音はそれが歯がゆくてしかたなかった。 鈴音の部屋は、いつの間にか壁一面真っ赤になっていた。壁も、少ない家具もすべて。極めつけは、真っ赤な口紅をこれでもかと唇に塗った。
「私は綺麗、、、私は、、」
呪文を唱える様に鈴音は自分に言い聞かせていた。そして、一言。
「わたしを、こんな姿にさせたお前を絶対許さない」
そう言うと、鈴音は窓の隙間から、薔薇の花びらを落とし、男達の歓声を聞くと満足するのであった。
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