スレイコールは着替えていた。 着替えはリースには妹がいたので調度よかった。 妹といっても血は繋がってはいない。リースは人間じゃないのだから。 着替えて人間界のどこにでもあるような服を着ているスレイコールはただの少女だった。 美しさだけを除いては。 そんなスレイコールは今はファルの上に立っていた。 相手はけが人である。しかし、ファルに立っていた。 勢いよく座り込む。 「ごふっ」 ファルが苦しそうにしている。 それはそうだ。いかに少女とはいえ、あんな勢いよく座られたらダメージは大きいだろう。 ファルが起き上がった。 『ここは、そうだ俺はクロスと戦って大怪我したんだった。 先生が助けに来てくれて、それで、どうしたんだっけ?』 ファルが目の前にいるスレイコールをまじまじと見つめる。 「セリス?」 ファルはスレイコールを引き寄せ抱きしめる。 そして頭を撫で始めた。 周りにいたリース、ヘレンは唖然としている。 「セリス、生きてたんだな。良かった」 なぜかスレイコールは何も言い返さずに身を任せている。 「ちょっとファル!その子はセリスじゃないのよ」 その言葉でファルは意識を完璧に取り戻す。 「リース?ここは俺の家か?」 あたりを見渡しながらファルは確認していた。 「そうです、ファル様。ここはあなたの家。あなたはクロスとの戦いで大怪我をなさいました。助けてくださったのが、あなたが今抱きしめているスレイコール様だったのです」 ファルは抱きしめている少女を確かめる。 しかし、ファルには信じられなかったようだった。 「セリスがスレイコール?スレイコールがセリスだったのか?」 ちょっと混乱してきた。スレイコールが助け舟を出した。 「汝はまだわからぬか。我が汝の妹なわけがない。ただ、そうとも言い切れぬところがあるがの」 最後のほうがファルにはよく聞こえなかった。 「そうじゃそうじゃそれと我は汝の家に厄介になることにしたからの、よろしく頼むぞ」 ファルはこれは何かの悪い夢だと思い、寝ることにした。 「きっとこれは夢なんだな。おやすみ、リース、ヘレン」 枕に頭を乗せた瞬間。お腹にとてつもない衝撃が走る。 「かはっ!!」 スレイコールがファルのお腹を殴っていた。 リースとヘレンは何もなかったようにファルを眺めている。 多分、死んだかな、とでも思っているんだろう。 「夢ではない、しっかりしろ。我の契約者でもあるのだぞ」 「てめぇスレイコール!!」 ファルはスレイコールを捕まえようといきなり襲い掛かる。 「遅い!!」 スレイコールの中指が弾ける。 ズガン!! ファルは宙に舞いながら思った。 『女神様、デコピンって地味じゃないですか?』 地味なデコピンで派手に吹っ飛んだファルは気絶していた。 「なさけないのう」 そう一言、スレイコールという女神はファルに放った。 横で見ていたリースとヘレンというと、恐怖でガタガタ震えていた。 「ねぇヘレン。女神ってこんなのばっかりなの?」 「し、知らないわ」 「あら、あなた達には何もしないわよ。ファルは我のお気に入りなのじゃ」 それはそうと、リースはスレイコールの変な喋り方が気になっていた。 大人のように喋ると思えば子供のように喋る。 こんな強い女神にそんなことは聞けるはずもない。 何もしないと言われたが、デコピンで殺されるかもしれない。
遠い世界から戻ってきたファルにちゃんとした事情を説明した。 「早く説明してほしかったぜ」 説明できなかったのはお前のせいだとファル以外の三人は思った。 「とりあえず、スレイコールは俺の家で過ごすんだな」 「そうじゃ、スレイコールとうのは長いから、セリスでよいぞ。ファル」 ファルは少し悲しげな顔をした。 妹を思い出したのだろう。 「しかたない、セリスでいっか。似てることだし」 「え!?本当に似てるの?ファルの妹に!?こんな可愛かったんだ。性格もこれよりもずっと可愛いんだろうけど」 リースはスレイコールにすごい攻撃的な態度をとっていた。 両者から激しく火花が飛び散っているような睨み合いだ。 「いいもん、いいもん。これから可愛くなるんだから」 睨み合いに負けたのはスレイコールだった。 負けたというよりは、勝負を投げた。 「キャラいきなり変わったなスレイコール」 「セリスだってば!!」 「わかったわかったセリス。それで、これからどうするんだ?」 そうだった。スレイコールがこの世界にとどまるという事は何かあるはずだった。 「ファル、忘れてはいないでしょうね。私との約束」 「まさか、そのために?」 「そうよ、別にすぐやれってわけじゃないのよ。だから私がやってほしいって言ったときにやってくれればいいんだから。それまでこっちにいる」 とりあえず、スレイコールが自分の世界に帰るのはまだまだのようだった。 ヘレンが立ち上がる、 「私はそろそろ帰ります。ファル様、明日また来ます。学校は明日休みになるはずですから、明日は学校にこないように」 学校側としては学校にクロスを侵入させたことが問題になっているのだという。 あの学校にはクロスが入れないようにする装置があるはずだったのだ。 それがいつの間にか破壊されていたのだという。 犯人は学校関係者だという事だ。その会議で明日は学校は休み。 「じゃあヘレン、また明日」 残った二人は仲が最悪だった。 何故そこまで仲が悪くなるのかファルにはわからなかった。 それはスレイコールも一緒だった。 何故この女が嫌いなのか自分でもわかっていなかった。 唯一リースのみが理由を悟っていた。 『ライバルだわ』 もちろん、ファルの所有権である。 「セリス、あなたには負けないから」 スレイコールはその言葉の理由はよくわからなかったが、無性にイラついた。 「リースなんかに負けぬ」 ファルは二人を止めることは出来ずにいた。 ファルがとめに入ったら大変なことになるだろう。 「私も帰る!!」 そういって、リースはあわただしく出て行った。 そうなると、ファルとデコピン少女のみである。 ファルはとてつもないプレッシャーに押しつぶされそうだった。 「ファル、お腹すいた」 その和むような声に、癒される声にファルのプレッシャーは消え去った。 「わかった。何か作るよ」 とりあえず、スレイコールの機嫌だけは崩さないようにしようと心に誓ったファルだった。
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