リースがまだサンタ・クロウスの育成機関にいた頃の話。
「今日はここまで、何か質問ある人いますか?」 「ミリア先生、来月のクラス分けはもう決まってるんですか?」 まだクラス分けが決まってない時である。 「リースちゃんそれはまだ教えられないの。来月になればわかることだから我慢してなさい」 期待していた子供達は不満の声をもらした。 子供達にとってはクラス分けは楽しみの一つであった。 そしてクラス分けの前に行われるイベント。 お別れパーティは子供達の最大の楽しみの一つである。 「もう質問はないの?」 「無いです」 「よろしい、それでは皆さんまた明日」 今日の教育はこれで終了だった。 この後は子供達の普段のわずかな楽しみの時間でもある。 授業が終わった後の少しの時間は子供達に自由の時間が与えられている。 何をしてもいいのだった。 「リース!!今日は探検しようぜ。この前は先生に邪魔されて全然探検できなかったからな」 「ジェラード、また性懲りも無くいくの?まぁ私は構わないけどね」 以前二人は立ち入り禁止の場所に立ち入ろうとして先生に止められたのだった。 この教育機関には立ち入り禁止の場所は何箇所かあった。 そのうちの一つは厳重に警護されていた。 「あの聖堂の階段は無理だけど、今回はここの地下にいってみないか?」 この教育機関にはたくさんの建物が存在していた。 子供達はほとんどの建物に入っていいことになっているが唯一の例外があった。 それは、敷地内の一番奥にある聖堂だった。 聖堂はいくつもあってそこだけは立ち入り禁止だった。 先生に聞いても教えてくれないのだ。 もしかしたら先生も知らないのかもしれない。 「ここの地下だったら先生に邪魔されずにいけるかもしれないわね」 「そうだろそうだろ。早速行こうぜ」 「なんの話してるんだ?」 二人の話しに興味をもった子供が一人話しに入ってきた。 「ジェフも行くか?」 「だから何の話をしてるんだよ」 「私達これからここの立ち入り禁止の地下に探検にいくとこなのよ」 「地下?面白そうじゃないか!!僕もいくよ」 そうして三人は立ち入り禁止の地下へと向かった。
「あそこが地下への入り口か」 「先生達はいないみたいね」 「よし、今しかない!!」 三人は地下の入り口に向かって走る。 ちょっと離れたところから先生らしき人の声がした。 「やばい、急げ!!」
「誰かそこにいるの!?・・・?気のせいだったのかしら」 先生はその場から立ち去った。
「もう大丈夫みたいだな」 「そうね」 「それにしても危なかったな」 三人は辛うじて地下の入り口に入ったのだった。 「けど立ち入り禁止の場所なのに扉に鍵がかかってないなんて無用心な先生達だな」 たしかにジェラードの言うとおりだった。 立ち入り禁止の場所だったら鍵ぐらいかかっていても不思議ではない。 というよりもかかっていない事がおかしい。 「まさか、地下に誰かいるってことか?」 「まさか・・・ね」 「とりあえず奥に行ってみよう」 三人はさらに奥へと進んでいった。 地下への階段はひたすら続いていた。 「奥まで行って時間までに戻れるかな?」 そんな弱気なことをジェフがつぶやく。 「そんなこと言うなよ。意地でも戻らなきゃいけないんだよ!!」 「そうよ。戻れなかったら明日どんな罰を受けるか想像しただけで気絶しそうだわ」 一度時間を守れなかった仲間がいたのだ。 そのときはそいつは三日ぐらいどこかに行っていた。 帰ってきたと思うと、とてもやつれていて生気がなくなっていた。 その後も日が経つごとに元気がなくなっていっていつのまにか教育機関から姿を消していた。 そのことを先生に聞いても教えてはくれなかった。
「そろそろ終わりが見えてきたかな?」 長く続いた階段の先に少しばかり明かりが見えてきた。 「先生達が生徒に見せたくないものって何があるんだろうね」 「すごい宝かなんかがあったりして」 「宝だったら見せてもいいんじゃないかな?」 「行ってみればわかるさ」 確かにジェラードの言うとおりだった。 そこから三人は一言も話さずに階段を下りていった。 そして階段の最後に待っていたものは三人にとっては理解できないものだった。 今の時点では。
「なんだよこれは・・・」 そこには、床がなかった。 その代わりに床に広がっているのは都市。 サンタ・クロウスではなく、別の都市だった。 「これはいったいどういうことなんだ!?」 「私、ここに来る前に祖母に聞いたことがある。なんか、このサンタ・クロウス以外にも世界があって、私達とはまったく違う生活をしているとか。」 三人は今自分達が見ている状況をまったく理解できていない。 考えることもできていなかった。 「とりあえず、戻ったほうがよさそうだな」 「そ、そうだな。今日の探検はここで終わりにしよう」 ジェフがもう一度都市を見ようと今度は身を乗り出して見る。 その時、 「あなた達何してるの!?さっき入り口で気になった気配はあなた達だったのね・・・ジェラード、リース!!」 二人に疑問が浮かぶ。 「ジェフ?」 後ろを見るとジェフの姿は見えなかった。 「先生、ジェフが・・・」 「ジェフ?もしかして・・・!?」 先生は都市が見える床を見つめる。 「私がもう少し早くここに来ていれば」 「先生どういう事なんだよ!!ジェフはどうなっちまったんだよ!!」 先生は少し考えるようにして、 「あなた達は知る必要がないわ。それと今日ここで見たことは忘れること。多分無理でしょうから後から何らかの対策を講じます」 そう一言いうと先生はジェラードとリースを抱えて階段を上り始めた。 先生の腕の中でジェラードは暴れ始めた。 「ジェフは!!ジェフはどうなっちまったんだよ!?」
ガツッ!!
ジェラードはおとなしくなった。 壁の頭をぶつけて失神させたのだ。 先生の腕の中でぐたっていた。 「リース、いい?このことは私達先生の中だけで終わらせるわ。機関長には報告はしません。だからあなたもこのことは他の子供に教えないようにしなさい」 「はい」 それ以降先生は一言も話さなかった。 次の日、リースとジェラードは先生に呼び出された。 他の子供たちはジェラード達が何かをしたんじゃないかと色々と噂が飛び交った。 呼び出しから帰ってきたリースとジェラードを迎えたのはジェフのいないいつもの部屋だった。 しかし、二人はそんなこと気にしていなかった。 気にしていなかったのではない、忘れさせられたのだ。
強制的に記憶の削除。 子供達が不要の知識をもったときの先生達の対策。 今までに何人の子供が記憶を削除されたのかわからない。 誰も覚えていないのだから。 他の子供は寝ている間にジェフの記憶だけ消し去られていた。 ジェラードとリースはそうできなかったのは二人の記憶は他の子供と違い頭の中に鮮明に残っているせいあった。 そして、その後も何もかも忘れさせられた二人はいつものように授業をこなしていくのだった。
会議。 「先日、子供三人がニクロムの部屋に侵入してしまいました。侵入しただけではなく子供の一人はあちらに落ちてしまいました」 ここは先生達が何かあったときに集まり話し合うための部屋であり、子供達は決して入れる場所ではない。 そして今は先日のリース達が行った事についての話だった。 「落ちてしまった子供は仕方ないだろう」 「仕方ないとはどういうことです」 「降りてしまってはどうしようもないということです」 「彼は非常に優秀だったのですが、惜しい人材をなくしました」 「そうですね。彼はいずれクロウス組のトップになりうる存在でしたから」 「立ち入り禁止場所は今までより厳重なものとしましょう」 結論が出て、会議は終了した。 皆こんなこと話している場合ではないとした感じでそそくさと部屋から出て行く。 その中で一人だけ沈鬱な表情をしている先生がいた。 ミリアだった。 ミリアは誰もいなくなった部屋で一人考え事をしていた。 そして何かを決したように部屋を飛び出したのであった。
翌日、ミリアの姿は機関内で見かけなくなったのだった。 それを知った先生達はいなくなったミリアを探すのではなく、子供達の記憶からミリアの記憶を一切消したのだった。 しかし、その記憶削除から逃れた子供は二人いた。 リースとジェラードだった。 二人は忘れさせられた振りをしてこの後の授業全てをこなしていくのだった。
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