村に入っていった武(たける)、凛(りん)、風香(ふうか)、迅羅(じんら)の四人はすぐに村を警備していた兵士に捕らえられてしまった。そもそもこんな大きな村があるわけなかった。この地域では村の大きさは決められていたはずだった。罠か。しかも、これはこの地域のものではない。他の地域からやってきたものの仕業だ。
「こっちへ来い!!」
「早くしろ!!」
二人の男に村の中央の小屋へと誘導される。二人の男は一人は背はあまり高くなく太っていた。もう一人は背が高く体もがっちりとしていた。
「アニキ、ここに置いといていいんすかね」
「あぁ、大丈夫だ。お前は心配するな」
アニキと呼ばれたほうは背の高い男。
「おい豚田(とんでん)。もう持ち場に戻っておけ」
「そんなアニキ、最後までいますぜ」
「持ち場にいってろ!!」
豚田と呼ばれた太った男は渋々小屋から出て行った。
「俺たちをどうする気だ!!」
「お前たちを助けようと思ってな。今日の夜ここから逃げな」
その言葉に少し戸惑った。これは信じていいのか、それとも罠なのか。四人は目で確認しあった。結果。
「わかった。どうすればいい?」
「素直なんだな」
「どうせここにいても殺されるだけだ、そしたら少しでも希望のあるほうに賭けたほうが良いにきまってる」
「よし、じゃぁ今日の夜迎えにくる。それまで辛抱してくれ」
そういってアニキと呼ばれた男は小屋から出て行ってしまった。小屋の横には豚田の姿がまだあった。
「なぁ今の人って信用できると思うか?」
「わからないわ。けど信じるしかないのじゃないかしら」
「そうね。凛ちゃんのいうとおりね」
「武さん。そうです、今はあの人を信じましょう」
縄とかもはずされていた武達は小屋の中なら自由だった。この小屋には見張りは一名だけ付いていた。そこまでは強そうではない。この四人なら軽々と突破できるだろう。しかし、その後が困難なのだ。ここは偽村の中央。突破できる可能性は低い。その考えは自然に頭から消えた。
そして、夜。
コンコン!
「はい」
ゆっくり扉をあけた。そこにはアニキと呼ばれた男がいた。
「行くぞ」
慎重に慎重に行動を開始した。もうそろそろで村の出口というところで豚田が出てきた。
「アニキ、なにしてんすか。ここは通せませんよ」
「豚田、昼間の話を聞いていたのか」
豚田は大きな棍棒を手に持っていた。
「死ね、アニキ!!」
豚田の棍棒が振り下ろされる。アニキと呼ばれた男は咄嗟に横に避ける。武達はそれを見るしかできなかった。
「くっ、豚田やめろ!!」
「ちくしょう、力がでねぇ。お前を殺してやるぅぅぅぅ!」
豚田の棍棒がアニキを襲う。アニキは今度は避け切れなかったのか、剣で受け止める。
「くそ!!」
「やはり力が出ぬか、豚田」
「俺の力はこんなんじゃねぇ!!!!」
豚田は棍棒を大きく振りかぶった。その瞬間アニキに鳩尾を素手で突かれた。しかし、豚田は倒れなかった。豚田は気合だけで立っていた。凛にはそう見えていなかった。
「武、あの豚田という人、憎悪で意識を保っているわ。アニキという人によっぽどの恨みがあるのよ」
「凛、お前の能力役に立ちそうだぜ。俺はなんとなくわかってきた」
武が刀を抜いて、二人が戦っている場所に走りこむ。武一人ではなかった。凛を残した三人とも全員が走り出したのである。
「風香、頼む」
「ふーちゃんって呼んで!!」
「今そんな時じゃねぇぇぇ!!けど、仕方ない。ふ、ふ、ふーちゃ、ん。頼む」
「あはは!了解!!次はちゃんと呼んでね」
そういうと風香がとても低い姿勢になる。風香の激しい回し蹴りが炸裂する。
「うがぁぁ」
豚田はその場に倒れた。
「迅羅!!」
「了解」
迅羅の豪快な回し蹴りが炸裂。
「ぐおぉぉぉ」
アニキもその場に倒れてしまった。
「終わりだな。下衆が」
クビを刎ねる。迅羅の足元にクビが転がる。転がってきたのはアニキのクビだ。アニキは武達を助けようとしたわけじゃない。森に誘い食べようとしていたのだ。アニキの犠牲者は相当数いるという。豚田の家族もその犠牲者だった。
「だからあんなに憎んでたんですね」
今は凛が治療にあたっている。そこまで傷はないが、風香の回し蹴りが一番ダメージが大きかったらしい。
「ぐ・・・ぐぉぉ・・・あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いきなり豚田が苦しみ始めた。布団の上でもがき苦しんでいる。豚田の体が光に包まれる。あたり一面が輝いた。誰も目が開けられない状況である。
光が収まりしばらくして目が回復してくると、武達は豚田がいないことに気が付く。そして、豚田がいた場所に若い男の人が横たわっていた。
「う・・・うぅ」
目を覚ました。武達はその男の人の周りに集まる。
「ここは、どこだ。そうか、俺はあの魔物にひどい体にされて、そうだ、子供達に助けられたんだ」
武達にはまだ気づいていないようだ。
「あの、すいません」
「ん・・・あぁぁぁ!!君たちはいつからいたんだい?」
「最初からですけど、あなたを治療したのは私ですもの」
「もしかして君たちが僕を助けてくれた子供達かい?」
「そうらしいですわね」
「助かったよ。もう一生あの姿かと思ってたんだ。戻れなかったらどうしようかって考えてたりしてたんだ。そしたら僕がいなくなったら僕の国はどうなるんだろうって」
「僕の国って・・・あんたどこかの帝かい」
まるで信じないように武が言う。
「そうなんだ。本当の僕は帝だよ。この国の隣の帝さ。今回は隣の国がどうなってくるのかが仕事だったんだけど、そしたらあの魔物にまんまとやられたよ。僕は魔物に殺されたことになってるけどどうしたら良いのかな。そこらへんの兵士じゃ僕の顔も知らない兵士が多い。兵士が知ってるこの顔はただの物好きな一般人っていう顔なのさ」
帝が軍にいるのは確かにおかしかった。帝は国の頂点である。頂点である帝がこんなとこにいるわけがなかった。しかし、この男は現に帝だと言う。
「ここの隊長は知ってるんだろ?帝が一緒に来てるって事」
「それは知ってるだろうな。しかし、滅多なことでは面会できぬぞ」
武は外に出て行った。 数分後、武は戻ってきた。
「どうだった?」
「大丈夫大丈夫。その内来るさ」
10分経っただろうか。
コンコン!
誰かが小屋にやってきた。
「武君、入っていいかね」
「どうぞ」
「涯(がい)将軍!!」
「帝様!!?生きてらしたのですね!!良かった」
「この子供達に助けられたのです」
「武君、ありがとう。感謝せねばならぬな。今日は宴を開くきます。よろしいですかな?帝様」
「あぁ僕も同じことを思っていた。それはそうとなんで涯将軍はあの子の事知ってるんだい?」
「それは昔この子は我々の国で旅をしていたのです。そのとき出会ったのが武君の父親の兼なのです、兼はよい刀の技をもっていました。私は一度も勝てなかった」
「涯将軍が一度もとは」
「彼はこの大陸で一番強かった。なにせ刀神じゃからの」
「俺の父ちゃんがそんなにすごかったなんて」
「じゃぁ武君は刀神の子供?」
「残念だがそれはない」
「涯おじさん、どうゆうこと?」
「神は子供を作らぬ、というより作れぬといったほうが正しいか」
「じゃぁ俺は父ちゃんの子供じゃないんだ」
武は今にでも死にそうな顔をしていた。
「武君、君は兼を父さんだと思ってるよな。兼もお前の事を息子だと思っておるよ。たとえ本当の親じゃないとしても兼を嫌いにはならんでおくれ」
武は少し頷いてどこかにいってしまった。それを凛が追いかける。風香も行こうとするが、凛も兼に育てられていたのを思い出し留まる。
「わしは、宴の準備をさせてきます。帝様はここでゆっくりしていてくだされ」
そういって涯は小屋から出て行った。涯が小屋から出て行くと風香は我慢が出来なくなったのか小屋を飛び出した。迅羅は一人で帝の世話をすることになった。
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