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作品名:一振りの刀 作者:みあきす

第8回   女の村長
日が昇る前に出発した。朝と夕方に沢山歩いておくのだ。昼間は暑くどうしても歩く距離が伸ばせない。昼間はそんなに歩かない、そうした方が効率がいい。

「凛(りん)、大丈夫か」

二日目だが凛の体力には結構厳しいものがあった。

「武(たける)、大丈夫よ。まだ始まったばかりじゃない」

それもそうだった。この旅は短いものではないのだ。目的地に着いてもまた新たな目的地に行かなければならなくなるのだ。

「たーくん、私の心配はしてくれないのかな」

「風香(ふうか)はこんなの余裕だろ。お前の表情見てればわかるし・・・だからってそんなことしても無駄だ!!」

今にも倒れそうな振りをした風香、見事にすぐにばれてしまったので面白くなさそうにした。しかし、あの状況で本当にだませると思ったのだろうか。

「ねぇあれ村じゃない?」

武が風香と話している最中に凛が村を見つけた。規模はそこまで大きくはない。そこそこの村なのだろう。

「今日は歩くのはここまでにしてあそこで色々情報を集めよう」

村に入ると懐かしい風景が広がっていた。武と凛は一瞬漂穀村(ひょうこくむら)を思い出してしまった。村とはどこでも似ているものなのだ。

「武、懐かしいね。またみんなでこんな生活できたらいいのにね」

「凛、それは役人を倒すまではそうできない」

凛もそれはわかっていた。しかし、それを投げ出して三人で仲良く暮らしたいというのもいいのではないかという気持ちも出てきたのだ。
ちょうど村の者が通ったので空き家がないかたずねた。

「すいません。この村に空き家ってありませんか?今日はここに泊まろうと思うんですけど」

「空き家だったら村長に聞きな。村長はあの大きな家だよ。わかるだろ」

村で一番大きな家。村長は不在だった。どこかにいってるのかもしれないので、村長の家の前で待つことにした。村長がらしき人がもどってきたのは昼が過ぎたころだった。

「あの、この村の村長はどなたでしょうか」

「わたしだが」

出てきたのは同じ歳ぐらいに見える女性だった。身長はそれほど高くなく、髪は肩ぐらいまで伸びていて、容姿は美しかった。女性が村長、しかもこんなに若いというのは聞いたことはない。

「村長が若くてびっくりしたか、仕方の無いことだ。この村は代々同じ家系が村長をする。受け継ぐ子供がいなくなって初めて違うものに村長という称号は渡されるのだ」

そんな村もあったのだと関心した。漂穀村も同じ感じではあった。しかし、娘を村長にするという考えはあの村にはなかった。

「今日はどうしたんだい?」

「この村に泊めてほしいのだが、空き家はあるかい?」

女村長が村人を呼んだ、数回言葉を交わしただけだった。

「すまない、この村には空き家はないようだ」

「わかりました。ありがとうございました」

まぁ空き家がなかったら野宿するつもりだったのだ。あきらめて野宿できる場所を探しに行こうとすると、女村長が呼び止めた。

「あんたら私の家に泊まりにこないか?私はあの家に一人で住んでるんだが、もしよかったら来てくれ。私も一人は少しさみしくてね」

女村長の申し出はありがたく受けることにした。女村長の家では女村長が料理を振舞ってくれた。結構なご馳走だった。客が来るのは久しかったらしい。

「そういえばまだ名乗ってなかったな。私の名前は迅羅(じんら)」

「俺は武」

「私は凛」

「私は風香だよ」

四人は夜遅くまで語りあった。何故旅をしているのかも話した。すべてを隠さなかった。迅羅には隠さなくても良いと思ったのだ。しかし、凛が憑者だということは内緒にしておいた。

「私はそろそろ村長の仕事を辞めようかと考えてるんだ。これからこの村だけで一生を終えるのは私は納得しない」

迅羅は今の生活に満足していなかった。ただ毎日村長として過ごすだけである。時には意地の悪い役人などと話さなくてはならないのだ。そのたびに村の大事な財産をとられていく。もうそんなのにうんざりしていた。単身役人のところまで乗り込もうとしていたのだ。

「迅羅さん。俺たちと一緒に行きませんか?」

迅羅とは目的は一緒だった。武達の方が目標が大きいだけで心は一緒だったのだ。そしたら人数は多いほうがいいと考えてるため、迅羅を仲間に誘ったのだ。この旅はそれを目的にしているのである。

「お前たちとかい、楽しそうだね。よし、その話乗ったよ!」

後は、村をどうするかだった。
翌日、迅羅は村人を集めた。

「私はこの村を出ることにした。私の家系の村長はここで終わりだ。誰か村長を希望するものはおらぬか。出なければ私が勝手に決めるぞ」

「わしがやりましょう」

希望したのは最初にこの村について初めてあった人だった。もう歳は結構いってるだろう。

「拓(たく)さん、いいのかよ。息子は認めてるのかい?」

「息子は大丈夫だ。わしが死んでもちゃんと村長の仕事をしてくれるて、安心しなさい」

「しかし、」

「だまりなさい、拓さんは希望したのです。他のものは希望をしていないのです。それでは拓さんしかいないではありませんか?ここで拓さん以外の者にしようというのならばお前が村長をやりなさい!!」

迅羅の迫力はすごいものがあった。

「わかったよ、迅羅」

「このとおり今日から拓さんが村長だ!!みんな協力して村を存続させてくれ!!私は長いたびに出る。そしていつかここに戻ってくることを誓う!!」

迅羅は一呼吸おいた。

「そのときは、また村の者として迎えてくれぬか?」

『迅羅!!』
『いつでも戻ってこい』
『迅羅ちゃ〜〜〜ん』
『お前はこの村の住人だ〜〜!!』

「みんな」

「迅羅、いつでも戻ってこい。わしがこの村をどうにかしてみせる。帰ってきたときはびっくりさせてやるからの」

「拓さん、みんな本当にありがとう」

迅羅は泣きながら笑顔を見せていた。
迅羅を仲間に入れた武達は目的地の本拾村(ほんじゅそん)に向かって出発した。ところどころに村があったが今回は寄らずに野宿していった。

「武、本拾村って遠いのか?」

「多分、あと三日ぐらいこの速度であるけば着くはずだ」

迅羅の村を出発してからもう5日が経っていた。凛もここまでは何とか着いてきていた。

『そろそろ休ませないと駄目なころかな』

武はそう考えていた。いくら体力のある風香や迅羅といってもそろそろ限界がきているはずだ。それに武も結構疲れがたまってきている。

「よし、次の村かどこかで休ませてもらおう。野宿では完璧に疲れはいえないからな」

三人とも喜んでいた。村に入れば食べ物もおいしく食べれるからだ。野宿の場合はどうしても質素なものになってしまう。そんな食事に飽きてきていた。

「村がすぐ見つかるといいな」

三人は一生懸命村を探していた。中々見つからなかった。もう昼になっていた。気温が上昇してきている。そろそろ休まなければならない。

「あれは!!」

風香だった。

「村だ!!村だ!!!」

村がやっと見つかった。これで一安心だった。しかもその村は大きな村だった。どうしたらこんな大きな村ができるのかわからなかった。

そこがどんな村かもわからず武達は村に入っていった。


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