あの事件から三日ぐらい京大都(きょうおうと)で過ごした。旅に必要なものは全部風香(ふうか)が用意してくれた。もちろんお金は宗次(そうじ)の屋敷にあったお金である。凛(りん)にも宗次達のことを話したがそんなに落ち込んではいなかった。いや、心の中では落ち込んでいたのかもしれない。しかし、凛は表情には出さずにいた。武(たける)といえばこの三日間は凛の機嫌をとるので忙しかった。
「凛、いい加減無視するのやめてくれよ」
「・・・・・・・」
ずっとこんな調子なのだ。凛もどうしてこんなに嫌な気分になっているのか自分で気が付いていなかった。これは恋だった。武は気が付くはずがない。風香はわかっていた。だからこそ、あんなことをしたのである。
「凛ちゃん、あれは私がわるかったから。そろそろ機嫌直してください」
風香は最初の印象とまるで変わっていた。
「風香さん。私大人気なかったですね。わかりました」
武はほっと一息ついた。ようやく機嫌が直ったのである。
「たーくん!!凛ちゃんの機嫌が直った!!」
そういって抱きついてきたのだ。風香が。
「風香、苦しい、離れろ」
「風香さん・・・・・・」
もの凄い殺気を感じて風香と武が凛の方へ向く。凛からはどす黒い気が体を包み込んでいるような気がした。
「凛ちゃん・・・危ないからやめよ・・・」
「凛・・・殺すなよ・・・やるなよ・・・」
凛の容赦ない攻撃が繰り出される。ぎりぎり避けた武と風香。武は風香を腕に抱えながら逃げた。それが凛の闘争心を最大にまで引き上げた。
「待ちやがれ・・・」
凛はもう別の人になってしまったかのような喋り方だった。
「待ちやがれっていってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
凛が異常な速さで追いかけてくる。武は必死に逃げ回るが限界だった。風香を降ろし、凛に向かって歩いていく。
「殺してやる・・・殺し・・・あ」
荒れている凛を武は抱きしめた。
「凛、やめようぜこんなの。仲間で殺しあってちゃだめだ」
「うん・・・」
急におとなしくなってしまった。これで当分は風香もいたずらができなくなった。明らかにあの凛は凄かった。憑者の力がこれほどまでに凄いとは。
「じゃぁせっかくだし、このまま都から出ちゃいますか。今の騒ぎで多分ここにはいられないだろうし。次の目的地に出発!!」
凛と武がそれに頷く。次の目的地はこの都の西の方角にある大きい村・本拾村(ほんじゅそん)だった。この村で大きな武術大会が開かれるらしくて、そこで強い仲間を見つけようとのことだった。確かに今のメンバーじゃ・・・結構いけるんじゃないかとも思うがそれでもまだ不安はあった。相手は黒彼岸(くろひがん)なのである、十分な戦力はほしいところだ。
都を出るとすぐに小屋が見えた。翔(しょう)の小屋だ。今はもう敵になってしまった翔の小屋にはもう誰も住んでいないのだろう。使われている気配はなかった。
「西はこっちよ。いきましょう」
三人はゆっくり歩いていった。そんなに急ぎの旅でもないのだ。食料も十分にあるし、今回は長旅になりそうだったからだ。本拾村は京大都からは離れていた。それでも、武達はそこに行こうと決めたのである。ただ武術大会があるってだけである。武術大会。ルールはその地域によって全く違うのだが今回行く本拾村のルールは、
・あらゆる武器の使用を許可 ・相手を殺すのは反則
それだけだった。己の技を駆使して相手をたおす武術大会である。そんな武術大会に武達は興味をもったいた。風香の愛用する武器は小太刀だった。凛は・・・何を使えるのかわからなかった。
「結構あるいたわね。今日はこの辺で休みましょう」
「そうだな」
風香の提案により三人ぐらい寝れそうなちょっと広いところ探して休むことにした。
「これからこんな旅が続くのね。大丈夫かな」
「大丈夫だよ。俺が守ってやるさ」
凛は頷いてそのまま俯いてしまった。なんか悪いことしたかなと首を傾げている。それを見ていた風香は面白くなさそうな顔をしていた。風香はまた同じことをしないように気をつけた。
「凛、風香。一緒に来てくれてありがとう」
「なんだよいきなり。俺はお前らに興味をもったからきたんだよ。自分のためだ」
「私は武と一緒にいるしかないじゃない。そうじゃなくても私は武と一緒にいるよ」
こうして武達の京大都から旅立って一日目が終わったのだ。次の日から本拾村までこれを繰り返すのである。
武達の長い長い旅は始まったばかりである。
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