武(たける)は宗次(そうじ)の部屋に向かった。陽(よう)と宗次は別々の部屋だったが今は二人で何か話し合っているようだった。
コンコン!
「入るよ。宗次さん」
中から何かしている音がする。何か隠しているのだろうか。
「武君かい?」
「そうです」
「いいよ。入りなさい」
そう言われ武は遠慮なく入っていく。部屋に入ると宗次の妻はいなかった。さっきまで確かに中で声がしていたのだ、いないわけがないのだ。しかし、宗次の部屋には陽の姿が見当たらなかった。
「宗次さん。ずっと一人だったかい?」
「そうだよ。それがどうかしたのか?」
「なんでもないよ。そうだ、今は宗次さんにしか用事はないしね」
いつもの武の雰囲気とは全然違っていた。風香の涙が武を変えたのか。そこは誰にもわからない。
「宗次さん。都でこんなに裕福な生活してるんだったらなんで凛(りん)を迎えにきてやらなかったんだ?」
「それはここの役人が厳しいからだ。仕方の無いことだ」
「いくら厳しいからといってそんなことはないだろう。あんたもあんただが、陽さんもひどいんだな。凛は置いていかれる前からあんた達がいなくなるのを知ってたっていうのに、あんた達は。そうなんだろ、陽さん」
陽さんが部屋のどこからか出てきた。
「武君、その話本当なのかい?」
「あぁ、その日は俺が凛の世話に行ったからな。凛がそういっていた」
「凛はそれを知っていながら耐えてたのね。けど、あの子はもう私たちの子じゃないわ。今頃部屋で死んでるんじゃないかしら。風香によってね。あの子は演技がとても上手いから油断しているときに殺されるのよ」
武はやばい!!とも思ったが、風香のあの涙を信じることにした。たとえあれが演技だとしても翔(しょう)がどうにかしてくれる。
「こんな生活を送っているのは宗次さんのせい?陽さんのせい?」
武はどちらを選択しようか悩んでいた。凛には悪いがどちらかを殺そうとしていた。陽さんが宗次さんをたぶらかしている感じは出ていたが、武はまだ悩んでいた。 武が悩んでいるときに陽さんが襲ってくる。小刀を持っていた。異常なほどのスピードで突っ込んでくる。武はそれを難なく避ける。ただ突っ込んでくるだけである、避けるのは簡単だった。
「よし。決めた」
「何を決めたんだ?」
宗次が豹変した陽さんにおびえながら武に聞いた。
「殺してしまうほうだよ」
「早く陽を殺してくれ。このままだと俺もやられてしまう」
武は刀を抜いた。一気に駆ける。横一線に刀を振りぬいた。
ザシュ!!
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
陽は倒れこむ。
「貴様。何故俺を切った。お前を襲っていたのはあの女だぞ、俺は全く関係ないどころか俺も危険な状況だったっていうのに」
「宗次さん。あんた最低だよ。娘を捨て、妻も自分の事のためにこんな風にしてしまうんなんて。どうにかしてるよ、あんたの頭」
宗次はもう息絶えていた。宗次の体には痣があったのを武はさっき陽の体当たりを避けるときに見ていたのだ。武は宗次がどのくらいまで痣が広がっているかを確認した。まだ腕に少しあるだけだった。憑者特有の能力を手に入れて欲望にまけたのだった。欲望にまけてしまった者は能力を私利私欲のためだけに使うようになる。
「宗次さん。ゆっくり休んでくれ」
武は陽の方も確認したが陽は正常だった。しかし、陽はもう死んでいた。最初から死んでいたのかもしれない。それを宗次が能力を使って無理やり動かしていたのだ。
「陽さんも、凛の事は任せてくれ」
武は部屋に戻った。そこでは、泣きつかれたのか風香は眠っていた。凛は俯いてる。翔の姿が見えなかった。いくら探しても翔はいなかった。
「凛、翔はどうしたんだ」
「武、戻ってきたのね。良かった。」
「おい!凛!!翔はどうしたんだ」
「翔?」
記憶がおかしくなっていた。何があったんだ、俺がいない間にこの部屋は。
「風香!風香!!」
「ん・・・」
風香はようやく目覚めた。風香に聞けば何か少しはわかるかもしれない。
「風香。この部屋で何がおこった」
「この部屋?」
風香も駄目だったみたいだ。翔はどこへいったのだろう。
「そうだ!!」
風香がいきなり、思い出したように叫んだ。
「武さん。聞いてください。あの翔って男の人は役人の手先だったんです。私は連れて行かれそうになる凛さんを守って戦ったのですが。あの男は私の予想以上に強かったです。私と戦うことを最初から計画していたようにこの部屋のすべてのもの使って攻撃してきました。少し手傷を与えたのですが、ほんの少しです。それでも彼はこの屋敷から出て行きました。最後に催眠玉を投げてきてさっきのざまです」
出て行った。風香はそういった。たしかにこの屋敷には気配はなかった。武は兼との修行である程度の気配までなら読めた。
「風香、君に言わなければならないことが」
「いいの。わかるわ。ご主人様を殺したんでしょ。すべて悪いってのはわかってる。けどあの優しかったご主人様も本物だった」
風香はまた泣き始める。武は泣き始めた風香をそっと抱きしめた。 またこれから忙しくなることを考えて。お金の事は心配なかった。この屋敷には沢山あるからだ。しかし、この屋敷からは早く出なければいけなかった。すぐにこの京大都から出なければいけなかった。きっとすぐに役人からの追ってが来るだろう。この都の役人だけだったらましだろう。多分役人が組する組織からも追われるであろうことも考えなければいけなかった。役人を束ねる組織「黒彼岸」だった。そこを倒さなければ役人たちもいなくならない。 どのくらい泣いてたんだろうか、やっと風香は泣き終えた。 凛の調子も戻ってきたみたいで、抱き合ってる武と風香を見つけて騒ぎ始めた。
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