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作品名:一振りの刀 作者:みあきす

第3回   襲来
凛(りん)が憑者になってからひと月が経った。
武(たける)は父の畑仕事を手伝いながら毎日少しずつ剣の稽古をつけてもらっていた。
平和な日が長く続いていた。しかし、その平和はずっと続かなかった。
村長の所に役人から手紙が届いたのである。

『漂穀村の村長
 
 漂穀村の近くの森の土地神からなにやらその村に
 憑者がいるという話を聞いた。
 その話を確かめるために明日軍を率いて村まで参る。
 もしいるのなら素直に引き渡せるように準備しておくのだな。

 法都(ほうと) 役人 塵部衛(じんべえ)』

漂穀村が騒がしくなった。今日は村中の人を全員集めた。
凛は村人にはこの村にいることは知られていなかった、誰もが両親とともに村を出て行ったと思っている。

「村の皆!!一大事だ。明日軍がこの村に来る」

周りがざわめく。悲鳴をあげる者もいた。

「この村に憑者がいるらしいのだ!!差し出さねばこの村は滅びる。しかし、この村には憑者などおらぬ。どうゆうことなのだ。役人は何を考えている」

今日集まったのは凛を除いて村の全員がいた。小さい村なのですぐ集まれるのだ。しかし、兼(けん)は凛を一人家においておくのはいけないと思っていた。

「今日はまず最初にみんなの体を調べたいと思う。憑者が本当にいないか確かめるためだ。もしいたら、残念ながらこの村のために犠牲になってもらう他ないだろう。二人一組になって体を調べろ!!」

兼が他の人の体を調べ終わり村長の前に武を持ってくると武の体を見せて痣がないことを確認させる。

「すいません村長。今日はこいつ体調が優れないもので家で寝かせてもかまわないでしょうか。俺はこいつを寝かせてからまた戻ってきます」

「そうかそうか。家まで連れてってやりなさい。武が憑者でないことはわしが確認した。そのためにわしの前まで持ってきたのであろう」

「ありがとうございます。では」

兼は武を家まで送り凛をよろしく頼むといってまた集会所へと行ってしまった。

「凛」

「武??どうしたの?今日はあつまりなんじゃないの?」

「そうなんだけど、父ちゃんが凛が心配だからお前は帰れだとさ」

「そう、良かった。寂しかったの」

明かりをつけるわけにもいかず暗い中で凛は留守番をしていたのだ。そして武が帰ってきたことによって明かりもつけられる。一人ではなくなったのだった。

「武、今日の集まりはなんの集まりだったの?」

「それは・・・」

「何よ、教えてよ。一人で留守番寂しかったんだよ」

「わかった。今日の昼に役人から手紙が届いたらしいんだ。その内容にこの村には憑者がいると、しかもその情報を流したのはこの前の土地神だったんだ。それで、軍が明日くるからそのときまでに憑者を引き渡せる準備をしとけってさ」

凛は憑者だった。たったひと月ではそんなに侵食してはいないが一年、五年と時が経つごとに凛は危険にさらされるだろう。

「じゃぁ私が素直に軍に申し出ればこの村は助かるんだね。私が正直に出るよ。村のためだもん、仕方ないよ」

凛は自分を犠牲にして村を助けるつもりだった。

「そんなことをしても意味ないぜ。俺の父ちゃんはわかってる。憑者を引き渡したからってこの村は無事ではすまないんだ。この村は残るかもしれない、けど残った村は憑者を出した村として税が厳しくなるんだ。今までの倍以上はとられるって父ちゃんがいってた」

そうだった。かつて同じ状況に陥った村があった。その村は憑者を差し出して村を救ったが、その後役人から御触れがでたのである。

『収める税は今までの3倍』

このたった一行の文章はこの村を壊滅にまで追いやった。逃げ延びたものはどこかの村で細々と暮らしているのである。兼一家もそのうちの一つだった。
武は小さかったから覚えていないが、父が何度も話してくれた。

「じゃぁどうすればいいのよ」

「俺にもわからない。父ちゃんが帰ってくるまで待ってよう」

しかし、兼が帰ってきたのはとても遅くなってからだった。
それまで武はおきていた。凛は武の太ももらへんを枕にしてねている

「武、おきてたのか」

「父ちゃん、どうだったんだ。話し合いのほうは」

「憑者が見つからなかった。やはり土地神は凛のことをいっているのだろう。村とては明日軍に掛け合ってみるといっていたが無理だ。無謀すぎる。武、凛を連れて明日ここに行け」

兼から渡されたのは地図だった。それは大きな都の地図だった。その都は幼い子供達が歩いて二日ほどの距離だった。

「父ちゃんは、どうするんだ」

「俺は村人として戦う。もしかしたら生き残れるだろう。戦いがややこしくなれば逃げる。最後まで戦おうという意志はないからな」

「わかった。父ちゃんなら絶対生きて帰ってこれる。そんな気がするよ」

武は凛を起こして明日の準備をさせた。荷物は必要最低限でいいと兼がいった言葉を考えて食料、水をもった。そして腰には刀を着けた。
凛の大半のものは武がもってあげていた。凛は少ない荷物である。
兼はそれを見て微笑んでいた。


翌日。
朝早く家をでた。村の人には見られたくないのだ。
早くにおきている人もいる。しかし、それよりも早く家を出たのだ。

「凛、大丈夫だからな。俺が必ず守ってやる」

「期待してるわ。武は強くなった」

武は兼のレベルには全くたどり着かないが剣を扱う者としてはできるほうにはなっていた。毎日兼に稽古をつけてもらっていたかいはあったらしい。
もう昼になっていた。村からどれだけ離れただろうか、距離は全くわからなかった。
村のほうをじっとみていると、煙が上がっていた。きっと軍のやつらが村に火をあげたんだろう。許せなかった。悔しかった。こんなことをする軍人、役人どもに。そして、こんなときに何もできない自分自身に。武はとてつもなく怒りを感じていた。


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