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作品名:一振りの刀 作者:みあきす

第1回   御触れ
「父ちゃん、まだなのか」

武(たける)の父さん・兼(けん)は漂穀村(ひょうこくむら)の村会議に出かけていた。
この時代に時計というものは無い。しかし、あえていうならば午後9時ぐらいであろう。

「父ちゃん今日はなんの話してんのかなぁ」

村会議というのは四日に一回行われる村の男が参加する会議だ。
村といっても人数はとても少ない。家が二十はあるが、空き家が五あった。
だから村の男は10人ちょっとなのである。

武は男としてまだ認めてもらってなかった。
近々武の男になるための儀式があるらしい。その内容は武には教えてもらえなかった。

「ただいま。武、すまん。会議が長引いてしまった」

父さんが帰ってくると武がいそいそと動き始める。
食事の準備をしているのだ。食事は武の仕事になっていた。

「いつもすまんな」

「いんだよ父ちゃん。父ちゃんは忙しいだろ」

そうだった武の父さんは会議の無い日でも村長の家まで出向き村の今後の方針などを話し合うなどをしていた。村の重役なのである。

「今日はなんの話をしてたの?」

「今日は食料の事と、村の今の状態の事だ。村としては食料はたくさんある。余ってるほどにな、だが近隣の村で食料が足りないところがある。そこに分けてはどうかっていうのが今日の大きな話し合いだった。」

この漂穀村は食料では困っていなかった。
食料では悩んでいないのだ。他の事でこの村は悩んでいた。

「それでそれで、この村の事は?」

「そうだな、この村には子供が少ないだろ?お前と隣の凛(りん)ちゃんだろ、そして村長の息子の仁(じん)君か。他の家族は子宝に恵まれなかった。村長はこの子供の少なさに村の未来を心配なさっていた」

そうだった、この村はたしかに食料は充足しているが子供の数がとても少なかった。
それは子供を作らないんではなくできないのであった。だからこの村は子供が三人しかいなかった。

「そうだ、武。明日隣の凛ちゃんと遊んでくれ。親がちょっと遠出するらしくてな明日は農作業はいいから、頼むぞ」

武は父さんからの頼みは断れなかった。

「けど何しようか、凛は身体が強くないんだろ?だったら外では遊べないし、俺は家で遊べるような遊び知らないぞ」

武はいつも外で剣を振り回してるだけだった。この村で剣をうまく扱えるのは武の父さんだけで、その武の父さんも武に剣を教えるつもりはなかった。

「お前は凛ちゃんのそばにいてやりなさい。それだけでいい。凛ちゃんの話し相手になってあげなさい。同年代の子供は武と仁君しかいないんだから」

「じゃぁ仁でもよかったんじゃないのか?」

「仁は明日から村長になるための勉強が始まるそうだ」

「そっか、あいつもいよいよなんだな。仕方ないかじゃぁ明日はすぐ凛の家に行くよ」

「そうしてくれ。凛ちゃんも喜ぶだろう」

武は凛が少し苦手だった。凛は中々喋らないのだ、武が以前話しかけたときは見事に無視されたのである。それ以来ことあるごとに無視されていた。


翌日、早朝。

「宗次(そうじ)気をつけて行ってこいよ」

「ありがとう、兼(けん)」

「陽さんもお身体には気をつけて。凛ちゃんは武にお任せください」

「ありがとう、兼さん。武君にもよろしくいっておいて」

「わかった。伝えておこう」

早朝出て行く二人は兼にも見えないぐらい遠くまで進んだ。

「凛、ごめんよ」

宗次と陽は子供を置いてこの村を去ったのだった。
しかし、去らざる理由があった。役人に呼ばれたのだ、村から一世帯を集める御触れが出されたのだった。昨夜の村会議ではそのことでの話し合いだった。
宗次一家は娘がいるからといって逃れようとしたが、畑を持ってない理由で選ばれてしまった。せめて娘だけはと思い、兼に相談したのだった。
兼はこのことは子供には黙っておくことにした。そうしないと凛が後を追っていきそうだったからだ。それに、武も一緒にいきそうだったというのもあった。


朝。

「父ちゃん、行ってくる」

「おう!!行ってこい」

凛の家は武の家の隣だといっても歩いて三分ぐらいはかかる。
武は緊張していた。今まで味わったこと無いほどに緊張していた。
凛はたしかに苦手ではあったが、凛は美しい少女なのである。同年代でこんな綺麗な子がいることを武はうれしく思っていた。

「凛!!入るぞ」

返事はなかった。

「凛?」

扉が少し動いた。ちょっとのぞけるぐらいだ。
その隙間から一つ、目が覗いていた。凛だ。

「ふぅ、武君か。入って」

凛の家は武の家より少し広かった。

「今日はありがとう」

「なんだよ。まだなにもしてねぇよ」

「今日は畑仕事休んできてくれたんでしょ。私一人じゃなにもできないから・・・お父さんとお母さん帰ってこないのよ・・・ずっと」

「今日帰ってくるんじゃないのか?俺はそう聞いたけどな」

「それは私を悲しませないための嘘よ」

武は今日はよく喋るんだなって思っていた。

「いつもは無視のくせに今日は沢山喋るんだな」

「あれは・・・無視なんかじゃ」

「挨拶しても返事がないのはなんだったんだよ」

「あれは恥ずかしくて・・・男の子と喋らないし、とゆうよりもこの村子供自体すくないじゃない?だからね、恥ずかしくて」

「そうか。今度からちゃんと返事ぐらいしろよ。話を戻すけどな宗次さん達がもう帰ってこないってどうゆうことなんだ?」

「村長のとこの仁君に聞いたんだけど、役人から村か一世帯を差し出すようにって御触れがあったらしいの。昨日の村会議はそのためだったのよ」

「そんな、父ちゃんは嘘ついてたのか」

「今日の朝早くに出て行ったわ」

「なんでお前の父ちゃんなんだ!!」

「それは家が畑を持ってなかったからよ。畑をもってない村人はいらなかった。ただそれだけで一世帯は私の家に決まった。そして両親は私を置いていった。仕方の無い事だったと思うけど、私は悲しかった。置いてかれるのが。怖かった」

そこまで言うと凛は武にしがみついて泣き始めた。
しがみつかれた武はどうしていいかもわからず凛の頭を撫でていた。

「ごめんね」

「いいよ」

ひとしきり泣き一言いうと、凛は立ち上がり食事を作る準備を始めた。
武は父ちゃんが心配だった。いつも武が食事を作っているので父ちゃんが食事食べられてるんだろうかと心配になってきた。しかし、凛も一人にしていてはいけない。父ちゃんはもう大人だし大丈夫という考えが勝った。

「凛、なんか手伝うことあるか?」

「いいよ、武は待ってて」

「いつも俺が食事作ってるから落ち着かないんだよな」

「そうなの!?じゃぁ前武の家でご馳走になったときも武がつくったの?」

「あぁ、そうだよ。あれは俺が作った」

「武は料理もできるのか、負けてらんないな」

「誰に負けないんだよ」

「もちろん武によ」

妙なとこで対抗心を持たれたものだ。
それでも、こうゆうのは悪くない。この村では張り合う人物がいないのだ。
同年代が少ないのは最大の理由でもある。

「そうか、親が帰ってこないってことは一人で暮らすのか?」

「多分それはないと思う。兼さんのとこに世話になるのかな?」

「父ちゃんのとこに?それって一緒に暮らすってことだよな」

「そうなるね」

「平気なのか?」

「武なら全然平気よ。ちょっと仁君は苦手だけど」

武はそれはそれでありがたかった。食事は凛にまかせればいいし、親父の相手も凛がするだろう。そうすると剣の修行する時間が沢山増えるのだ。

「俺は今日ここに来て凛と話すまでは凛のこと苦手だったぞ」

「そう、やっぱり。なんか武の態度が冷たくて怖かった。けど私武の事苦手にはならなかった。だって武が冷たくするのは私が返事しないからって思ってたから」

「そこまでわかってたなら返事しろよな」

「ふふ。ごめんごめん」

「そろそろ食事はいいかんじだな」

「そうだね、食べましょうか」

二人で食べた。武は食べてる最中父さんのことを考えていた。こうしてるときに父さんは一人で食べてるんだろうかということを。

「武。私がお父さん達が戻らないってことを兼さんには言わないでほしいの。兼さん私にいわないつもりだし」

「わかった。いわないでおく」

「ありがとう。今日は武が来てくれてよかった。ずっと話したいって思ってたの。けどあんまり会うことがなくて、いざ会うと何も話せなくて」

「俺も今日ここに来て良かったって思ってる。凛がこんなにおしゃべりだとはおもってなかったからな、ちょっとびっくりしたよ」

「私もびっくりよ。私がこんな喋るなんてなかったわよ」

武と凛は中々いい雰囲気になっていた。そもそも二人ともお互いのことを嫌いではなかったし、お互いに気にしている相手でもあったのだ。それが一気に急接近した。そして、その夜は仲良くならんで寝た。


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