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作品名:Tales of Moment 作者:美怜

第6回   主との戦い
 確かに、聞こえた。

 音としてではなく、念として。

 先程と、同じ声が。

「……、さっきの『止まれ』ってのもあんたか?」

『ソノ通リダ、炎ノ少年ヨ』

 幾分落ち着きを取り戻したフラムが尋ねる。随分あっさりと肯定の答えが帰ってきた。

『ココハ貴様等ノヨウナ子供ガ来ルベキ場所デハナイ。用ガ無イノデアレバ早々ニ立チ去レ』

「……そうは行かないの、主さん」

 ティアが一歩前に出て、真っ直ぐ『湖の主』と名乗った竜の頭を見上げた。

「理由は話してくれないけれど、彼はここに用があるのよ。そして……私は、彼について行きたいの」

「……お前……」

 正直、信じられなかった。

 どうして、彼女はそこまでして自分にこだわるのだろうか。

 ただ、『同じ能力者だから』というだけでは無い筈。

 ならば、どうして……。

『ナラバ……』

 ざあ、と、水が大きく波打った。

 竜の巨体が、動く。

 背筋がひやりと凍りついた。怖い位の殺気を、全身に感じる。

(来る!?)

「下がれ!!」

「え……」

 急いで警告するも、ティアは動かない。

 例え動けたとしても、あちらの方がリーチが長すぎる。

 間に合わない!

『排除スル!!』

 ひゅん、と、空を切る音が至近距離で聞こえた直後。

 何か太いものがティアの身体目掛けて思い切り叩きつけられた。

「きゃああっ!!」

「……くそ!」

 彼女が受けたのは、主の長い尾だった。

 湖面に沈められたティアを横目に、フラムは駆け出した。腰の鞘から素早く抜刀し、いつものように集中する。

 たちまち、リヴェイルでの騒ぎの時のように、刀身に炎が赤々と燃え上がった。

「やるしかない! ティア、立て!!」

「……え、ええ!」

 全身から湖に突っ込んだ為、ずぶ濡れになりながらも立ち上がり、弓を構えた。

 目を閉じて気を集中させ、詠唱を始める。

「貫け、蒼き矢!」

「だあああああっ!!」

 湖面を蹴散らすように、主の懐目掛けて一気に走る。

 走りながら、剣を握る手にぐっと力を込めた。

「水矢(アクア・アロー)っ!」

 高らかにティアが唱える。

 フラムの後を追うように、矢の形を成した水の魔力が飛んだ。

 狙いは、眉間。

『ソンナモノデ我ハ射落トセン!』

 主の尾が上がり、矢を叩き落とす。

「そうくると思ったぜ!」

 走る速度は落とさない。

 上がった尾の下を素早く抜ければ、そこはもう主の懐!

 思い切り跳躍し、剣を大きく振り上げる!

「喰らえ!」

『遅イ!』

「!?」

 主が叫んだ直後、頭上で何かが光った。

 避けられない!

『奔流(スプラッシュ)』

 主がそう唱えた直後。ごう、という轟音と共に、とてつもない流れがふたりの身体をもみくちゃに翻弄した。 

「うわぁああああっ!!」

「きゃぁああああっ!!」

 自分は空中で無防備だったところを狙われ、ティアは2度目の詠唱を阻止されたのだ、と分かった。

 そう深くない場所だったのが幸いした。もしも今ので深みにはまっていたら、溺れ死んでいたかもしれない。

 水圧で押しつぶされそうになるのを必死でこらえる。

 どうにか気絶は免れたが、ティアのほうは……立てない。足をやられたのだろうか。

『無様ダナ。愚カナ子供メ』

 自分だけでもどうにか立ち上がろうとしたところを、主の尾にからめとられた。身体が軽々と宙に持ち上げられる。

 全身を太い尾で拘束され、身動きが取れない。骨がみしりと嫌な音をたて、全身にぎりぎりと痛みが走る。

「う……ッ、ぐぁ……!」

『コノママヘシ折ッテクレヨウカ、ソレトモ骨モロトモ喰ラウカ?』

 そう嘲笑うように言う主の口が、がばりと開いた。

 冗談じゃない。

 だが、剣は先程水に飲まれたときに落としてしまった。

 まさか、こんなところで終わるのか?

 目的も果たせないまま!?

「こんな所で……死ねるかよッ!!」

 夢中で、自分を縛り付けている主の身体をつかんだ。

 いつも魔法を使うときにする、手首のアーツ・バングルに力を集めるような、そんなイメージ。

 先程ティアの家で焚き火をした時のような、弱々しいものとは違う。

 もっと大きく、強く、攻撃的なものを!

「火球(ファイア・ボール)!!」

 フラムの手の平から、巨大な火炎が生まれる。

 魔力の出現先は、主の皮膚の至近距離。

『グアォオオオオオオオ!!』

 熱に悶える主の絶叫が響いた。

 拘束が緩む。すかさず間をすり抜け着水し、落とした剣を拾い上げた。

 暴れまわって隙だらけの主が、自分の正面に在る。今度こそ!

「炎刀(フレイム・ブレイド)!」

 再び火を灯した剣の一閃が、主の腹を斜めに切り裂いた。

 主の細長い体が、仰向けに崩れ落ちる。

 巨大な水飛沫が上がり、再び周囲に雨が降った。

『オノレ……マサカ、コンナ子供ニ……』

 くぐもった声が響いた。

 その声は弱々しく、まさに生命が潰える直前のもの。

『コノ封印ハ……決シテ……誰ニモ……』

 途切れ途切れに言葉が発せられながら、その身体がだんだんと水に溶けるように透けて行くように見えた。

 いや、確かに溶けている。

 骨も残さず、青い光の粒子へと。

『……ティメール……扉……開カセン……誰ニ……モ……』

 その言葉を最後に、主の亡骸は完全に霧に溶けるように消えうせた。

 ……勝てた。

「……はあ」

 一気に脱力した。

 倒れ込んだままのティアのほうを振り返って、やや大きな声で言った。

「ティア……生きてるか」

「な、何とか……痛たた」

 どうにか上半身だけ起こしながら、ティアがフラムの問いかけに答えた。

「ごめんなさい……立てないの。先に回復して良い?」

「ああ」

 頷き、視線を正面の台座に戻した。

 まだ空中に残っている亡骸の残骸を見つめながら、フラムは主の最後の言葉をもう一度思い出す。

(ティメール……か。どこかで聞いたような……)

 当然あった事など1度もないはず。が、その名に聞き覚えはあった。

 過去の記憶を総動員して、どうにか思い出そうと頭をひねるフラム。

 ……が、その時間は与えられなかった。



「「!?」」

 突然、台座の上で何かが蒼く輝きだしたから。


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