「あんたって子は、ほんっとに無茶ばっかりして!」
ところ変わって酒場。
フラムとティアが萎縮する中、リズの怒声を浴びてもなお、ヒューは平然としていた。
「もしそこのお客さんたちが助けてくれなかったら、あんた今度こそ死んでたのよ! 分かってんの!?」
「うるせぇなぁ……」
カウンターに頬杖を着いてそっぽを向きながら、唇を尖らせてヒューは反論する。
その様子は、まるで姉弟のようでどこか微笑ましい。
「あんなこと言われて黙ってられるかよ! ほんっと、お前って俺がガキの頃からいっつもお節介だよなぁ」
「なっ、人が折角心配してやってるのに、何よその言い方は!」
「あ、あの」
やや遠慮がちに、おずおずとティアがふたりの間に割って入る。
フラムも、彼女に付き従うように一同の側に歩み寄った。
「私たちが勝手にやったことですから……あまり、ヒューさんのことを責めないであげて下さい」
「ああ。帝国兵が憎いって気持ちなら、俺たちも良く分かるから」
「? ……どういうことだい」
「……、実は」
少しの遠慮はあったが……ふたりは、隣国キュアで自分たちの身に起こったことをヒューたちに話した。
ティアとあの光る石との“共鳴”、フラムのセッツに対する私怨、そして魔人に関する話は省いたが……それを除く、帝国が何かとてつもない悪事をたくらんでいる事。そして、それに関わってしまい、その一軒に関して調べるために帝国の足取りを追って世界を回っていること。
それらを包み隠さず話しただけで、壮大な物語が出来上がった。
「……はぁ〜」
ふたりの話が終わったとき、思わずヒューの口から感嘆の息が洩れる。
リズも、そして彼らの話を漏れ聞いていた酒場の客たちも、皆しんと静まり返っていた。
「何だか途方もない話だよなあ……あー、つまりだ。お前らは悪党どもをぶっ飛ばす大冒険の真っ最中、ってわけか?」
「……まあ、そうかな」
「へえ。すげえじゃん!」
フラムが複雑そうに答える。それにあっさりとそう返すヒュー。
率直すぎる答え。だがそれゆえに、彼が本気で感心していることが伝わってくる。
「俺を助けてくれたときも、こいつらすげぇなー強いなーって思ったけどよ。そんな旅してるぐらいだもんな、強ぇはずだわ!」
「つ、強いだなんて、そんな!」
ティアが思わず照れたように声を上ずらせる。
「私は、ただフラムについていくだけだもの。やらなきゃいけないことをやってるだけよ?」
「いやいや、すげぇって。見ず知らずの旅人にそこまで協力できる奴は滅多にいないさ。しかもふたりとも魔法能力者だろ? なんか運命的なものを感じるよなぁ」
「運命、ね……」
ヒューの心からの言葉をかみ締めながら、ぽつりと呟くフラム。
旅立つ前に、領主フォートにかけられた言葉が、何故か蘇った。
『私はね、君が彼女と出会った事は偶然ではない筈だと思うんだよ』
最初は、馬鹿馬鹿しい、と思った。
いくら魔法能力者同士だったとはいえ、そんなことが必然で起きてたまるものか。ただの偶然に決まっている、と。
でもその晩、彼女の独白を聞いて。
守らなくちゃいけない、と思った。
権力に溺れたあの愚かな老人・ベリルとは違う。心からひとりひとりの国民を愛している、国の上に立つ人物の鏡ともいえる、あの人。
そんな称えられるべき偉大な人物のたっての願いを、無駄には出来なかった。
彼の言うとおり、今は彼女が自分に協力してくれるように、自分も彼女に精一杯の力を貸すべきなのだ。
彼女一人で帝国の精鋭たちを相手に出来るわけがない。
それに、行くべき場所は自分だって同じだ。
いつか、彼女と同じ“共鳴”の力を、手に入れられるのならば手に入れ……そして、セッツを討ち、祖父を探さねばならないのだから。
「……本当にそうなのかもな」
「え?」
「いや。何でもない」
誰にともなく口から洩れた呟きを聞きつけて、ティアが首をかしげる。が、フラムは顔色一つ変えずに軽くあしらって見せた。
「……それにしても。帝国、ね」
「最近やりたい放題なのは、まあ……分からないでもないわねぇ」
ヒューとリズが、カウンターに頬杖を着いて、むっとしたように顔をしかめる。
「漁港を封鎖されないだけまだマシってもんよね」
「まあそりゃそうだけどよお……ここ最近になってどんどん横暴になってないか?」
「そうね。城下町のほうはどうなってんだか」
「……そろそろ潮時、か」
翡翠の瞳を伏せて、ぽつりと呟くヒュー。
やがて、彼は意を決したようにすっくと立ち上がる。
カウンターに立てかけてあった漁師の銛を持ち、フラムたちのほうを振り返って、言った。
「なあ、お前ら。そんなに強いならさ……ちょっくら、俺に手ぇ貸してくんねえかな?」
「「え?」」
「なあに」
突然意外なことを言われて、ぽかんとするふたりに向かって。
日焼けした肌に映える白い歯をニッと見せるように、ヒューは自信たっぷりに笑った。
「大した事ねえよ。何とかなるって!」
|
|