時空と滅びを司る邪神、その邪なる力ゆえに賢者に封印されん。
邪神を封じ込めし鍵は、5つの石。水・風・土・火・闇の5大属性の魔の力秘めしモノ。
封印解き放たれし時、時空の扉は開かれる。
封印解除せし者、邪神と同等の、時空を支配する力と全てを滅する力を得るであろう。
人としての心身と引き換えに。
最後の1行を見ないまま。
男は、動いた。
己が野望の為に。
Tales of Moment
雲海に身をゆだね、天空に浮かぶ世界。世に知られるは、5属性を司る5つの浮き島。
人は、この世界を「ヘヴンズ・アース」と呼ぶ。
物語は、水の属性を資本とする辺境の島・キュア。
そのはずれの、小さな村から始まる……。
< 辺境:キュア 清流の村:リヴェイル >
澄んだ風が、彼の橙色を帯びた赤毛の髪をなびかせる。
澄んだ水は、彼の紅玉の瞳を一点の曇りもなく映す。
「……ふう」
古びた石造の橋に腰掛け、フラム・バーンズはひとつ息をついた。
理由は、『退屈』。
辺境と称されるこの国の人口は、そう多くない。その更に奥まった場所である村で見かけるのは、子供と老人ばかり。若者たちは、ほとんどキュアの首都(そう言うほど大きな町ではないが)や外の世界へ出稼ぎに行ったきり帰ってこないのだそうだ。
そんな場所だからこそ、人々は外の世界の情報には疎かった。
そして暇つぶしをしようにも、18歳の青年が楽しめるような場所はないし、周辺に生息している魔物も大して強くはない。
「……参ったな。ろくな情報がない」
そんな理由から、フラムは途方にくれていた。
村を隔てる美しい小川が奏でるせせらぎの音色も、あたりを駆け回る子供たちのはしゃぎ声も、気休めにすらならない。むしろ苛立ちが増す一方である。
……こんな退屈すぎる場所でぐずぐずしているのは、もう沢山だった。
彼には彼なりの目的があって……魔物だの帝国だので物騒なこの時代に、わざわざ腰に剣をぶら下げ、2年もかけて世界中を回っているのだから。
ふと、視線を村の外……緑色にうっそうと茂る森の奥、妙に場違いな真っ黒い建造物へと移した。
ここからでは見えないが、数日前あの建物の前を通りがかった。
機械で制御され、固く閉ざされた巨大な門と、乗り越えて脱走などとても出来そうにない、これまた巨大な塀。
時折、キュアに駐留している巡回の兵士が、こちらを警戒心以上のものを髣髴とさせる鋭い目つきで、ぎろりと睨み付けて来るのが妙に印象に残っていた。
……闇の島、帝国・ダルグ。
2年前、突然世界中に建てられた帝国の施設『留置所』。
帝国の使者いわく、帝国本土での犯罪が急増し、本国だけでは対応しきれなくなった為……との事だったが、世界中の誰もが、帝国上層部の目論むそれ以上の目的に、薄々は感づいていた。
帝国の民……人呼んで『闇の民』は、選民思想の強い軍事国家に身をおく人々。自分たち『闇の民』が最も優れた血統である、という教えを頑なに信じ、他国の4つの国民になど、見向きもしないどころか見下す一方である。
そんな人々が、好き好んで他国の領土に建物を造るわけがない。
だからこそ、疑っている。
帝国だけではなく世界中を巻き込むかもしれない、巨大なものを抱えているのではないか、と。
「……帝国。2年前……」
無意識に、手が首から下がったガラスのペンダントに伸びた。何度かの戦いの影響で、それにはところどころにうっすらとひびが入っている。が、フラムは肌身離さずそれを持ち歩いていた。廃棄するなど、考えたこともない。……それほど大事なものだから。
しんみりした気分を無理やり振り払い、フラムは立ち上がる。つま先に当たった小石が小さく放物線を描き、それは眼下の小川にぽちゃんと落ちた。
もう1日だけ、留まろう。それで何も進展がないようなら、この村を……否、この国を去ろうと決めて、フラムは歩き出した。
|
|