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作品名:徒然なるままに 作者:影無 恭介

第1回   戦士の咆哮
 この戦火に意味などあるのだろうか

 振り下ろされる刃にまとわりつく血痕はさらなる紅き戦慄を呼ぶ

 撃ち放たれる弾丸には色さえない死が憑いている

 憎しみは憎しみしか生まないことを知っていながら憎しみに惑わされる愚かな人々は狂気に任せて声を上げる

 私はそれを、ためらい、歯軋り、目を食いしばり、躊躇を無理やり押し込めて、それを薙ぎ払う

 視界を潤ます塩辛い水を拭い、手に一層の力を込めて薙ぎ払う。

 泉のように湧き上がってくる痛みを紛らわすように私は自分に言い聞かせるように叫ぶ。

 弱みを見せるな、立ち上がれ、この体塵になるまで私は剣を振るおう

 馬の蹄が大地を打つリズムが心地よくて、それでも手が動くたびに聞こえる音がそれを遮り、私を苛立たされる

 遠くで雷鳴が聞こえた気がした

 小さな、だけど強い音

 私は憧れていたんだ

 たった一瞬の命を瞬かせて白く光る存在

 一瞬の命を強く生きようとする蒼雷を見るたびに私はそれに嫉妬した

 私は大地に縛り付けられる羽のない鳥
 空に飛びたいと願うだけの悲しい鳥

 翼のない鳥は空に飛ぼうとあるはずのない空想の羽を羽ばたかせる

 紅く染められている青いはずの蒼空

 飛び去っていく二羽の白鳥が羨ましくて

 私は見とれそうになって、

 でも振るう腕は止められなかった

 噴出す血潮が邪魔だった

 視界の隅へ消えていく白鳥

 手を延ばしても届かないと私はわかっていた

 でも、認めたくなかった

 煌めく陽光の差す先へ進んでいく白い影

 剣を振るう毎に襲う心の軋みさえ忘れて、私はそれを追う

 躊躇いはなかった

 白い影を追っていた視線に

 白い光が満ちていく

 雷鳴が聞こえた気がした

 小さくて、だけど強い音


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