開いたドアからの光が、2つの人型のシルエットとシルバーグレイのBMW2002を照らし出した。 見覚えのある車。 そして、 レミントンМ870のショットガンを構えている、レスラーの様な男。 それをドアの脇から認めた喬一が呻き声を漏らした。 「あいつは……ホルテン」 「酒場の用心棒?――」 意外そうにニイナが呟いた時、 「そこに居るんだろ、喬一」 12番口径のショットガンをこちらに向けている用心棒のホルテンの隣から、もう一人の男の声が発せられた。 白く見える程の金髪と碧眼の男。 「……スチェッキンか」 その声を聞いた喬一が、いささかうんざりとした声で答えた。 「やっぱり……酒場の……」 今日、いや既に日付けが変わっているので、昨日の昼間に会った男だった。 「少し待ったぜ」 革のハーフコートに両手を突っ込んだままの格好で故買屋とブラックマーケットのブローカーでもある男が言った。 恐らくコートの中には愛用のモーゼルHscが収まっている筈だ。 「どういうつもりなんだ、スチェッキン。ツケの取り立てか?」 「話は後だ」 喬一の皮肉に付き合わずに、顎でBMWを示すスチェッキン。 「と、その前にガンをこちらに寄越せ。バレルの方を持ってな」 「……」 喬一は、まだ熱を持っている45オートのスライド前方を左手で掴むと、近付いてきたホルテンに渡した。 借りに反撃するにしても散弾銃相手に、それもこの至近距離では勝ち目は無い。 「そこのお嬢さんもだ」 続いてニイナに声が掛けられた。 「……」 ニイナは無言で、ルガーの銃把をホルテンに向けると、 「後で返してよ。形見なんだから」
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「さて」 用心棒のホルテンがハンドルを握る、BMW2002の後部座席に喬一とニイナが押し込まれて数分が過ぎた時、助手席のスチェッキンから声がかかった。 「何か俺に訊きたいコトは無いか?」 「どうして、お前があそこに居るんだ――」 ショットガンの銃口に追われて押し込められた結果になった後部座席の左側で、喬一はつまらなそうに、 「――とか訊けば良いのか?」 「まあ、そんなとこだな」 苦笑を浮かべた助手席のスチェッキンは、 「奴とは、あそこで顔を合わす予定だったんたんだが、何だかヤバい予感がしてな」 「室内(なか)には入らなかったっていうのか?」 「ああ。そうだ」 「相変わらず、その手の能力は高い奴だな」 知り合った時からそれは変わっていなかった。 「この業界で生き残るコツだ――で?」 「で?とは?」 質問を質問で返した喬一に、 「あの倉庫の中で何があった?」 「……分かってるんじゃないのか」 「俺には、お前の古傷が痛んでるってコトしか分からんよ。喬一」 「よせよ」 「お話中申し訳無いけど――」 喬一とスチェッキンにしか分からない言葉で続けられている会話に、隣に座っているニイナが不満そうに、 「あたしにも、なにを言ってるのか分かるようにして貰えると嬉しいんだけど?」 「昔話だ」 「旧い顔見知りでね」 短く、そう答えた喬一と、それより長く答えたスチェッキン。 「おい」 「顔見知り?……ってまさか」 怪訝そうに顔をしかめたニイナが、喬一に睨む様な視線を向けて、 「ハミルトンとって事?」 それを見たスチェッキンが意外そうに、 「何だ、知らなかったのか?」 「ええ、初耳だわ」 「あんた、相棒じゃないのか?」 「違うわ。だから知ってる事といったら、45口径を使ってるって事だけね」 「……」 故買屋と工作員(多分)の会話が聞こえないふりをした喬一に、 「で、俺としては奴とお前との間で何らかの取り引きが有ったと考えているんだ」 「何を言い出すかと思えば」 バカバカしいって表情の喬一。 「俺とハミルトンが裏で取り引きをするとしても、こっちの持っているカードは何だ?」 マイクロマシンと同じ価値の物。 そんな都合のいいものは勿論持っていない。 だが、 「借りだ」 「何?」 「お前は、奴に借りが有る。お前だけのな」 「……」 スチェッキンの台詞に、思わず顔を背けた喬一。 車窓のガラスを通して街灯の光が入ってきた。 白い光。 「借りか……確かにな」 目を細めた喬一は、そう呟いた。
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