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作品名:赤い空と夜 作者:前野 照明

第4回   酒場
 大手の組織がフリーの人間を雇うことの利点の一つが、自分達とは違う独自のルートやコネクションをその人間が持っている、ということが挙げられる。
 大手ではどうしても掴かめない情報でも、別のルートを使えば手に入るという事があり得るのだ。
 もっとも――
 その別ルートというものは、信頼性に大きく欠けるというのが殆どを占めていたりするのだが。
 
 1時間後。
 吉村喬一(きよういち)は、道路沿いに停めたバイク――GSX1100カタナのエンジンを切った。
 潮と重油の混ざった匂いの中、太陽にあぶられて熱を持っているヘルメットを脱ぐ。
 「……暑い」
  あれから――
 アパートを出た喬一は、尾行ている車がいないかをバックミラーだけでなく、何度も後ろを振り向いて確認しながら、4車線の大通りや石畳に何世紀も前の馬車の轍(わだち)が残っている裏道をデタラメに走りまわってから、この場所に車を向けたのだった。
 港湾地区。
 巨大なガントリークレーンが鉄の林を作っている岸壁と、船舶修理用のドックを背景に、コンクリートや木で造られた建物が狭い道路を挟んで建っている。
「さて、と」
 GSXを降りて、道を練り歩いている船員やドックのメカニック、海賊風の男女に混じって歩き始めた喬一の背中に、
「ここはガラ悪いわよ」
 聴き憶えのある女の声が掛けられた。
「……こんな所で何をしている」
「あなたと同じコトよ」
 反射的に身構えながら振り向いた喬一に、声の主――ニイナがあっさりと答えた。
 探している男、ハミルトンのアパートで会った女。
「情報を集めてるの」
「……発信機か」
 唸る様に呟く喬一。
 バイクのどこかに小型の発信機を付けられたらしい。
 それが、単なる電波を出す奴か、それともGPS対応なのかは分からないが。
「あっちこっち動くもんだから、ここだと分かるまでに苦労したわ」
「そいつは悪かった。なにしろ方向音痴なもんでな」
 憮然として喬一。
 喬一が尾行を確かめたりしているその間に、移動のルートを読まれて先回りされたのだ。
 見張られたりするのは毎度のことだが、気持ちのいいものではなかった。
「どこに雇われたかは知らないが、俺の後をくっつき廻っても何も出てこないぞ」
「あら、追っているものが同じなら動き方も同じになるんじゃないかしら?」
 悪びれずに応えた彼女に何か言い返そうとした喬一だったが、面倒臭くなって口を閉じた。
 この場を離れようと踵を返す。
「話に聞いた通りね」
「……?」
 ニ・三歩進んで足を停めた喬一に、ニイナが珍しい生き物を見た時の口調で言った。
「吉村喬一。元は大手組織のトラブルシューターだったが退職。現在フリー」
「止せよ」
 うんざりとした顔で喬一。再び歩き始めてから、もう一度立ち止まって、
「あそこに行くのなら、あんたのその格好は目立ち過ぎる」
「あら、気を使ってくれてるの?」
「まさか」
 変に目立ってこちらにとばっちりが来るのは困る。
「そうね」
 何処かの、オフィス・レディの様なスーツ姿のニイナが、
「じゃあ、着替えてから行くわ」
 あたりを見回してにっこりと笑う。
「着替える?」
「そう」
 怪訝顔の喬一は、ニイナの視線を追った。
 潮の匂いが混じっている空気と人混みの中、洗いざらしのジーンズのジャンパーに赤いタンクトップ、黒い革のミニスカートというスタイルの女がこちらに歩いてきた。
「レディ」だ。
 港に集まる男を相手にしている女。
「ちよっとごめんなさい」
 その「レディ」に手を上げたニイナ。
「?」
 近づいて来たニイナに何だこいつ、といった顔付きになった女。
 赤いルージュを引いた唇が肉感的だ。
 そんな彼女を上から下まで見つめて「ふうん、いいわね」と呟いたニイナは、にっこりと笑って、
「あなたに決めたわ、いくら?」
「な――なによあんた」
 女が目を剥いた。
 同性に「値段の交渉」を持ちかけられたのだから無理は無い。
「ねっ、こっちに来て」
「ちょ、ちょっと。あたしはそんな――」
「いいから、こっち」
 更にたたみかける様に言ったニイナは、慌て始めた彼女の手を取った。

   ○

 酒場「ブルークラブ(青蟹)」の店内は、何種類かのアルコールと葉巻、煙草の煙で息苦しさを覚える程だった。
 天井に幾つか付けられた巨大なプロペラがゆっくりと回転して、よどんだ空気をかき回しているがあまり効果はない。
 喬一は、客やその男に付いた女達の笑い声の中を、カウンターに向かって歩いて行った。
 その喬一の左の腕には、ニイナがくっ付く様にして歩いている。
「良く似合ってる」
「ありがと」
 先程の「レディ」と「交渉」して手に入れた服を身に付けている彼女が、喬一に平べったい声で返事を返してきた。
 何かあったら彼女に押し付けて逃げるつもりの喬一は、さり気なく周りを見回した。
 この酒場に十脚程有る四人掛けのテーブルに付いている客全員が、腰のベルトに使い込んだ大口径の拳銃とかナイフを差し込んでいる。
「よぉ、ホルテン」
「……喬一か」
 カウンターの客のグラスに透明な酒を注いだ、レスラーの様な体格のバーテンが無愛想に答えた。
「スチェッキンはいるか?」
「ボスなら――」
「あら〜喬一」
 ホルテンが黙ってひとさし指を上に向けた時、喬一の脇にいるニイナとは違う、別の女の声が背中から掛けられた。
 レモンイエローのワンピース姿の、喬一やニイナと同じ位の年齢の女だった。
たれ目がちの愛嬌のある顔に、肩まで伸ばされた金髪は細かくカールされている。
「エリカ姐さんか。久しぶり」
「この前は助かったわ、ありがと」
 と、微笑みながらエリカ。少し前に喬一は、密輸がらみのトラブルに巻き込まれた彼女を助けた事があった。
「で、今日はどうしたの?」
 そう言ってエリカは、喬一をはさんで反対側にいるニイナに目をむけた。
「どうも」
 条件反射的に愛想笑いを返したニイナをちらっと見てから、
「なんだ、お仕事なの」
「エリカ、ボスの所に」
 と、つまらなそう言ったエリカにホルテン。喬一に「なんの用だ」とかは聞いたりはしない。
「いいわよ」
「じゃあ――」
「一人ずつだお嬢さん」
 喬一の後に続いて行こうとしたニイナを止めたホルテンと、
「お嬢さん? 悪いけどそんなんじゃないわよ」
 それに噛みつく彼女の会話を背中で聞きながら、エリカの後に付いて喬一は階段を上がった。
「仕事熱心ね、喬一」
「こうしなきゃ、あんたにも会えないだろ」
「言ってくれるじゃない」
 他愛のない会話をしながら、いくつかのドアが並んでいる二階の、歩くたびに奇妙な音をたてる板張りの廊下を突き当たりまで進む。
「……またろくでも無い連中が出てきたわよ」
 喬一の前を歩いているエリカが小声で言った。彼女のような商売をしていると、表にはでてこない裏の動きが 客経由で耳に入る。
「いつだった?」
「昨日の夜」
 エリカが突き当たりのドアをノックした。
「スチエッキン。お客さんよ」
「俺だ。喬一だ」
 喬一が自分の名前を言うと、飾りっ気のないドアのロックがかすかな音を立てて外れた。
 エリカに、「ありがと」と礼の手を上げた喬一はドアを開いた。
 素早く身体を部屋に入れる。
 最初に目に入るのは、入り口をのぞく三方の壁に背丈ほどの高さのガラスケースで、 その前にも大きな木製のテーブルが置かれている。
「今は何を作っているんだ? スチェッキン」
 と、喬一。接着剤と塗料の匂いに少しの間、息が詰まった。
「フィアット・アバルト・ビアロベロだ」
 テーブルの後ろにあるスチールデスクの上で、イタリアン・スポーツカーのプラモデルを作っていた、白いワイシャツと麻のズボンの男が応えた。
 スチェッキン。
 この酒場のオーナーである男。本名その他は喬一にも分からない。
「ハリス爺さんのトコで手に入れた足はどうだ?」
 スチェッキンが顔を上げた。
 白に近い金髪と青い瞳が喬一をみつめる。
「相変わらず耳が速いな」
 テーブルに置かれた、レシプロ飛行機のプラモデルを見ながら喬一。
「あの爺さんは、良いモノを廻してくれたよ」
「今度そいつを作りたい。資料の写真を撮らせてくれ」
「いいとも。今やってるコトが終わったらな」
 と、喬一。 続ける。
「昨日……いや、それより前からかもしれないが、あんたの所に電子機器の売り買いの話が来なかったか?」
 マイクロマシンが研究所から盗まれたのは昨日だが、すでに買い手が付いていたというのも十分考えられた。
「電子機器?一口にそう言っても、トランジスターラジオから人工衛星に積んでいる奴まであるぞ」
 それだけでは分からんよ。とスチエッキン。
「設計図が一緒に付いてる筈だ」
「付録付きか。その話なら無いこともない」
 ブラックマーケット専門のブローカーでもあるスチェッキンは、意味ありげに笑った。
「発表前の新製品を持ってるってのが居たな」
「売り手か。どんな奴だった?」
「そいつは言えんよ」
「買い手は?」
「秘密だ」
 あっさりとスチェッキン。
「……条件を言ってくれ」
「俺にも一枚噛ませろ。喬一」
「一応忠告させてもらえば、相手は厄介な所だと思うぞ」
 新型のマイクロマシンだ。うまくやれば莫大な儲けが期待できるだろうが、出し抜く相手はプロで、しかも大手の組織だ。手加減をする様な甘い所じゃ無い。
「全部頂こうってんじゃない。少しの間だけ知らんふりしてればいいさ」
「それでいいのか?」
「ああ」
「……分かった」
 と少しだけ考えた後、頷いた喬一にスチェッキンは、
「売り手は、あんたの良く知ってる男だった」
「ハミルトンか……」
 喬一はつぶやいた。研究所のセキュリティに写っていた男。
「で。買い手だが、あれは大手のエージェントだな。ああいった連中は匂で分かる。間違いない」
 そういって唇を歪めた。
 たとえ盗品でも間にブローカーを置いて「商品」を通してしまえば、買った方はいくらでもシラを切り通せるので、この手の取り引きは頻繁に行われている。
「大手か」
「何処ぞの商社だろ」
「まいったな」
 露骨に嫌そうな顔の喬一。何で毎回毎回でかい所を相手にしなければならないんだ?
「で、ハミルトンの連絡先は? 奴が窓口なら聞いているだろ?」
「勿論だ」
 スチェッキンは、ホテルの名前と住所、その部屋の番号を喋ると、
「今からだとそこに着くのは日が暮れる時だ」
「そうなるな」
 左手首のクロノグラフに目をやって頷いた喬一に、
「それと忠告だ――気をつけろ」
「?」
 スチェッキンの台詞の意味が分からない喬一が首を捻った時。
 「吉村喬一。追っ手よ」
 ノックの音と共に、スチェッキンの机の上に乗っているノートパソコンから女の、ニイナの声が流れた。
「相棒か?」
ドアの近くに埋め込まれている、小型のテレビカメラとマイク。
 それが拾った映像と音声を取り込んだ、パソコンの液晶画面を見ながらスチェッキン。
「珍しいな」
「いいや、同業者だ」
 ドアを指差して、意外そうに感想を呟いたスチエッキンに、喬一は合図を送った。
「訳ありか」
 机の引きだしを開いて、そこに右手をつっこんだスチェッキンは、左手でパソコンの横にある
 スイッチボックスを弾いた。
「二人組みの男が来たわ」
 ドアのロックが外れると、レディの格好をしたニイナが入ってくる。
 テーブルと棚の中に隙間なく、びっしりと並べられている飛行機と自動車のプラモデルを見て目を見張った彼女に、
「追っ手だって?」
「ええ。今下にいるわよ」
「最低でも四人居るな」
 一台の車で来たとして、運転席と助手席、後部座席で四人。
「てことで、スチェッキン。隣から出るぞ」
「好きなトコから行け。貸しだぞ」
 引きだしの中で、モーゼルHSC自動拳銃を握りしめていたスチェッキンは、部屋の奥に向かって早足で歩き始めた喬一に、
「暗い中、うろつくなら気を付けろ。本当に出るらしい」
「出る? 」
 足を止めた喬一が後ろ、スチェッキンに振り返る。
「出るって、何がだ?」
「吸血鬼だ」
「……そうか、ありがとう」
 真面目な顔のスチェッキンに礼を言った喬一は、すぐ近くのドアを開いた。
 ダブルのベッドにイストテーブル。
「誰もいないんだ」
 ホッとした声を上げるニイナ。
 つまり、二階はそういった事に使われる部屋がある場所だった。
 イスやテーブルが積まれている部屋のカーテンと窓を開けると、ひとまたぎの距離に階段が見えた。
「ブルークラブ」の窓から隣の建物の錆びの浮いている階段を駆け下りた喬一は、人混みを縫って走ると、道傍に停めてあったバイク、GSX・カタナに飛び乗った。
 このあたりからなるべく早く遠ざかった方がいい。
 大きく傾いてきた太陽の光の中、キーを差し込んで捻るとスターターが廻り、エンジンがかかった。
 メカノイズと共に、少々ラフなアイドリングを始めたバイクの上でヘルメットを被った時、
「待って!」
 女の声。
 その直後、タンデムシートに弾みを付けてニイナが飛び乗ってきた。
「うわっ!?」
 いきなり、女一人分の重量を受けたサスペンションが沈み込み、大きく傾いたバイクを慌てて支えた喬一が声をあげた。
「おい!」
「あたしも乗せて」
「自前の足があるだろ!」
 冗談じゃない。
 この状況で重くなる二人乗りは、しかも得体の知れない女とはお断りだ。
「あれ相手じゃ逃げれないわ」
 後ろを見ながらニイナ。
「!!」
 その方向に顔を向けた喬一は、GSXのエンジン回転数を上げると、リヤタイヤを鳴らして急発進させた。
「――!!]
 振り落とされそうになったニイナが、喬一にしがみ付いて何か叫んだのには構わず、道路に出ると素早く左足を動かしてシフトアップ。速度を上げていった。
 幹線道路に飛びだした。
 更にアクセルを捻る。
 追って来ているのはバイクだ。二台いる。ライム・グリーンのカワサキ・ZZR−1400。
 空力特性を考慮したフルカウリングに車体を包んでいるそいつが、喬一とニイナの乗ったバイクの後ろに貼り付こうとしていた。
 喬一がバイクで動いているのを知った連中が、同じ乗り物を持ち出して来たらしい。
「だからって、そりゃないだろっ!」
 同じ2輪とはいっても、GSXとZZRとでは、エンジンやサスペンション、ブレーキの性能が段違いだ。
 引き離すのは難しい。
「だからブルジョアなトコは嫌いなんだ!」
「言ってる場合!?追い付かれるわ!」
「ここじゃ手を出して来ない!」
 それなりの交通量がある4車線のメインストリートを、女連れで飛ばすハメになった喬一は、後ろのニイナに怒鳴り返した。
 いくら大手組織の連中といっても、荒っぽい手を使って目立つ事はできない。
 周りの車の中に、ライバル企業の者やその関係者がいたりしたら困ったことになる。
 どこの会社も非合法な工作は行っていない、というのが建て前だからだ。
 だが、そんな躊躇の時間もじきにそれも終わる。
 周りの車の群れが途切れた時。
 ニンジャというニックネームが付けられたZZRに乗っている後ろの二人が、その時に仕掛けてくるのは明らかだった。
「だったら、こっちから手を出したらどう?」
 と、ニイナ。
「できるなら、そうしたいが」
「決まりね」
 数十秒後。
 喬一の目の前から、四輪のテールが見えなくなった。
 車の群れを抜けたのだ。
 それを待っていたかの様に、二台のZZRが190馬力、最高時速が320キロという、ケタ違いの動力性能にモノをいわせて加速。こちらとの距離を詰めてきた。
 濃いグレーのフルフェイスと黒い上下の二人の男は、カウリングに伏せた格好のままでクラッチレバーから離した左手を上着の内側に突っ込んだ。拳銃を持っている。
「まずい」
 あっという間に、左右に分かれて喬一のバイクの斜め後ろに迫ってきたZZRをバックミラーで認めた喬一は声をあげた。
 拳銃弾が確実に当たる距離まで近付くと、エンジンを撃ち抜いてGSXを強制的に停止させてから、喬一とニイナの口を割らせるつもりだろう。
 ZZRがバックミラーに一杯に拡がった。
 男が拳銃を抜き出した。
 スミス&ウエッソンM28。
 その4インチのリボルバーから、高速の357マグナム弾が吐き出される寸前。
 喬一がブレーキ。
 急減速。
 短いが、急激なブレーキに、GSXのフロントが沈み込む。
「――ッ」
 前につんのめりそうになった喬一の後ろで、9ミリの銃声が連続して聞こえた。
 ニイナが腰の拳銃、ルガーP08を抜き撃ちしたのだ。
 ルガー独特のトグルリンクが尺取り虫のように逆V字型に動き、遊底から金色の空薬莢が弾き出された。
 発射された三発の9ミリ弾は、ブレーキが間にあわず喬一の右側に飛び出して来た
ZZR−1400のカウリングを貫通して、ラジエーターに命中。着弾のショックでパンクしたラジエーターから盛大に冷却水を撒き散らしたZZRは、がっくりとスピードを落とした。
「――」
 相棒を潰されたのを知ったもう一台、左側のZZRの男がコルト・パイソンをこちらに向けるよりも速く、ニイナのルガーが再び弾丸を吐き出した。
エキゾーストパイプとエンジンのシリンダーを9ミリ弾に破壊された左のZZRも、オイルと冷却水を煙幕の様に噴き出してエンストした。
「やった!」
 喬一は、アクセルを開けて遁走に移った。
 すぐに拳銃の有効射程距離を外れる。
 カワサキZZRの二人は、高温の冷却水の蒸気で拳銃の狙いがうまく付けられなかったらしく、弾丸は飛んで来なかった。
「大したもんだ」
「あんたもね」
 ニイナは、ルガーのセフティレバーを安全位置に動かしながら、
「それで、『青ガニ』ではどうだったの?何か分かった?」
「モノは奴、ハミルトンが持っている」
「それで?」
 それだけじゃないでしょとニイナ。
「どこかの商社がからんでるな。さっきの連中もその取り巻きだろう」
「商社ね」
「面倒な事になると思う。それが嫌なら―― 」
「手を引けっていうの? 冗談言わないで」
「残念だな」
 そこで言葉を切ってから、
「さっきの弾の礼はこんなモンでいいか?」
「高く付いたと思う?」
 ルガーを腰の後ろのホルスターに収めたニイナが喬一に訊いた。
「さあな。どうだろ」
 陽が傾いているとはいえ、まだ十分な明るさを保っている日差しを、クロームメッキの部品ではね返しながらGSX・カタナはスピードを上げた。



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